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ARROGANT  作者: co
土曜日
30/194

 コンビニに行くと言って昼過ぎに出た。


 女からその言葉を引き出して、君島は土足のまま部屋を飛び出た。

 原田の腕を掴んで。



「よくも、あんな女に健介を渡したな」

 君島が静かに怒る。

 原田が答えた。

「母親だと確認した」

「何をだ?」



「あの日の、日付と場所と、健介の着ていた、」

「捨てた時のか?」

 君島が立ち止まり振り返った。



「どうかしてる!凍え死にそうな健介を警察に届けたのは君だろ?そんな目に遭わせた母親だと確認して、どうして健介を渡せるんだ!」


 原田が答えた。


「母親が健介を探しに来たんだ。それが理由だ」

「だからあの時言っただろ!君が甘すぎるんだ!」


 君島が叫んだ後、一度息を吐いた。


「後で殴るからな!健介が見つかったら絶対殴る!」


 君島はそう言い捨てて階段を駆け下りた。




 そう言われても、原田はまだ迷っている。

 血の繋がった母親が現れた以上、健介は渡すべきだとまだ考えている。

 血縁のない自分が縛るべきではないと考えている。

 そう考えて、健介を母親に渡した。


 しかしさっきの部屋の様子を見る限り、とても児童教育に相応しい環境とは言えない。

 最初にこの部屋を見た時にも、自分の方が明らかに経済的に裕福なことはわかった。


 それでも、肉親の愛情は別格のはずだ。


 原田はまだ迷っている。



「もたもたするなよ!日が暮れるよ!健介が風邪をひくぞ!」

 君島が車の横で怒鳴った。




 ナビで表示されたコンビニを近くからくまなく回った。

 店員にくせ毛の小学生が来なかったか聞いても、いっぱい来ましたけど、と返されて何の参考にもならなかった。

 道を歩く子供の顔も窓を開けてじっくり見た。

 ほとんどのコンビニを回った後にまた女のアパートに戻ったが、今度は部屋に鍵が掛かっていた。

 君島がドアを叩いて怒鳴ると女が

「健介なら戻ってないわよ!このまま帰ってこなかったらあんたたちを誘拐で通報するからね!」

 と怒鳴り返してきた。


「うちに、帰ったかも」

 君島が原田を見上げて少し笑った。

「早く帰ろう」

 そう言って階段を駆け下りた。



 しかし家に戻っても健介の姿はない。

 鍵をなくして庭をうろうろしているのかと君島がガレージの奥まで走る。

「道に迷ってるんだろう。俺またコンビニの辺りを探すよ。お前は家に残れ」

 原田が君島に提案したが、君島は速攻で、いやだね、と笑った。



「君なんかに健介は任せない。言っただろ?このことに関しては君に判断能力はないんだ。今後一切口出しするな」



 君島が原田を「浩一」ではなく「君」と呼ぶ時は、相当怒り心頭に発している。

 歯向かうと命に危険があるほど。

 だから原田は大人しく従った。



「何?この皿」

 君島が庭に置かれたマックスの皿に気付いた。

「マックスがいなくなった」

「マックスまで?」

 君島が憐れむような目を向けた。



「それで君、そんなにやつれたのか。ほんっとうに、バカだな」



 ぷいと顔を背け、車の横に立って、また言った。



「次探して見つからなかったら、警察に届ける。君の意見は聞かない」



 原田が警察嫌いなのを知っていて、君島はわざわざ宣言した。

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