4
コンビニに行くと言って昼過ぎに出た。
女からその言葉を引き出して、君島は土足のまま部屋を飛び出た。
原田の腕を掴んで。
「よくも、あんな女に健介を渡したな」
君島が静かに怒る。
原田が答えた。
「母親だと確認した」
「何をだ?」
「あの日の、日付と場所と、健介の着ていた、」
「捨てた時のか?」
君島が立ち止まり振り返った。
「どうかしてる!凍え死にそうな健介を警察に届けたのは君だろ?そんな目に遭わせた母親だと確認して、どうして健介を渡せるんだ!」
原田が答えた。
「母親が健介を探しに来たんだ。それが理由だ」
「だからあの時言っただろ!君が甘すぎるんだ!」
君島が叫んだ後、一度息を吐いた。
「後で殴るからな!健介が見つかったら絶対殴る!」
君島はそう言い捨てて階段を駆け下りた。
そう言われても、原田はまだ迷っている。
血の繋がった母親が現れた以上、健介は渡すべきだとまだ考えている。
血縁のない自分が縛るべきではないと考えている。
そう考えて、健介を母親に渡した。
しかしさっきの部屋の様子を見る限り、とても児童教育に相応しい環境とは言えない。
最初にこの部屋を見た時にも、自分の方が明らかに経済的に裕福なことはわかった。
それでも、肉親の愛情は別格のはずだ。
原田はまだ迷っている。
「もたもたするなよ!日が暮れるよ!健介が風邪をひくぞ!」
君島が車の横で怒鳴った。
ナビで表示されたコンビニを近くからくまなく回った。
店員にくせ毛の小学生が来なかったか聞いても、いっぱい来ましたけど、と返されて何の参考にもならなかった。
道を歩く子供の顔も窓を開けてじっくり見た。
ほとんどのコンビニを回った後にまた女のアパートに戻ったが、今度は部屋に鍵が掛かっていた。
君島がドアを叩いて怒鳴ると女が
「健介なら戻ってないわよ!このまま帰ってこなかったらあんたたちを誘拐で通報するからね!」
と怒鳴り返してきた。
「うちに、帰ったかも」
君島が原田を見上げて少し笑った。
「早く帰ろう」
そう言って階段を駆け下りた。
しかし家に戻っても健介の姿はない。
鍵をなくして庭をうろうろしているのかと君島がガレージの奥まで走る。
「道に迷ってるんだろう。俺またコンビニの辺りを探すよ。お前は家に残れ」
原田が君島に提案したが、君島は速攻で、いやだね、と笑った。
「君なんかに健介は任せない。言っただろ?このことに関しては君に判断能力はないんだ。今後一切口出しするな」
君島が原田を「浩一」ではなく「君」と呼ぶ時は、相当怒り心頭に発している。
歯向かうと命に危険があるほど。
だから原田は大人しく従った。
「何?この皿」
君島が庭に置かれたマックスの皿に気付いた。
「マックスがいなくなった」
「マックスまで?」
君島が憐れむような目を向けた。
「それで君、そんなにやつれたのか。ほんっとうに、バカだな」
ぷいと顔を背け、車の横に立って、また言った。
「次探して見つからなかったら、警察に届ける。君の意見は聞かない」
原田が警察嫌いなのを知っていて、君島はわざわざ宣言した。




