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翌日はとうとう遅刻してしまった。
目覚めたら7時をとっくに回っていて、健介は慌てて着替えて部屋を飛び出た。
今朝は朝食どころか顔も洗えなかった。
そして学校に着いて玄関から走って教室に向かう途中で、担任の小嶋先生にぶつかりそうになった。
「お、健介。廊下を走るな」
「あっ、はい。おはようございます」
「おはよう、じゃないな。遅刻……、健介。顔赤いな?熱ないか?」
先生が額に手を当てた。
なんともないです、と言おうとして、咳き込んだ。
「風邪じゃないか?保健室行って熱測ってもらえ」
先生はそう言って、健介の肩を掴んで保健室の方を向かせた。
熱を測ると38度あったのでベッドで寝ていいことになった。
昨晩はとても辛い体勢であまりよく寝られなかったから、保健室の硬いベッドもありがたい。
健介は薬も飲まずに昼まで熟睡した。
給食の時間になり先生に起こされて、食後に飲む薬をもらって教室に戻った。
そして給食を終えて薬を飲みに水飲み場に行くと、たまたま先にそこにいた拓海に声を掛けられた。
「おお、健介。お前、いつ転校すんの?」
拓海のいきなりの質問に、一つ咳をしてから応える。
「まだ、わかんない」
「てかさー。転校しなきゃなんないの?」
「え?うん、多分」
「お前の父さんとお母さんと、ヨリ戻せないの?」
「……え、あ、わかんない……」
「だってお前の父さんって独身だろ?あの美人のおっさんとは関係ないんだろ?」
「美人のおっさん?」
「お母さんはどうなんだよ?再婚してたの?」
「してない。お母さんも一人暮らし」
「じゃー、ヨリ戻してあの家で一緒に暮らせば、お前転校しなくていいじゃん!」
「……あぁ……」
そんな発想はなかった。
そっかぁ。
それなら僕はあの自分の部屋で暖かく寝られるし、毎朝父さんにご飯作ってもらえる。
お母さんがあの家に来てくれたら全部解決するんだ。
だめかな。
お母さんは、父さんを許せないかな。
昔はずいぶんひどいことをしたみたいだけど、今はそんなことないんだよ。
きっともうそんなことはないんだよ。
許せないかな。お母さん。
まだ熱のある頭で健介がぼんやりと考えていると、拓海が続けた。
「オレのかーちゃんが言ってたけど、健介のとこはさ、あの無愛想な父さんにあの美人のおっさんに、それからあの耳の聞こえないイケメンだろ?
みーんな半端な寄せ集めだから子育てには向かない家なんだよ」
頭がぼんやりしたまま、突然腹が怒りで熱くなった。
「だからお母さんが来るならまともな家に、」
「何言ってんだよ」
健介が低い声を出す。
「だから、ヨリ戻したら全部、」
「拓海んちのおばさんがそう言ったんだな?うちが半端な家だって」
「……だって、そうだろ。だって普通じゃないだろ?」
普通じゃない。
ぼんやりしたまま、お腹は熱いまま、健介は泣きそうになった。
そして返事もせずに拓海を置き去りにして踵を返して教室に戻った。
普通じゃない。
そんなふうに悪口を言われているなんて思いもしなかった。
悔しくて健介は俯いて唇を噛んだ。
そう言われるのは、自分のせいなんじゃないかと、健介は思った。
もしかしたら今まで考えもしなかったけど、
今父さんとお母さんがこんなふうになってしまったのは、
自分のせいだったんじゃないかと思い始めた。
よくわからないけど自分が原因で父さんとお母さんは喧嘩別れしたんじゃないかと、思い始めた。




