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お母さんが夜遅くに帰ってきた。
帰ってくるまで待っていようと健介は頑張ったが、日頃から規則正しく早寝早起きなので無理だった。
晩ご飯も食べていないのだけれど眠気には敵わない。
そしてお母さんは、日付が変わってから帰ってきた。
乱暴にドアが開けられて、テーブルに伏せて寝ていた健介は驚いて跳びあがった。
「健介ー!ただいまーっ!」
赤い顔をして上機嫌なお母さんがふらふらと健介に近づく。
健介は立ち上がって言った。
「……おかえり、なさ、」
お母さんはガバっと健介を抱き締め、ただいまぁ~っ!とまた笑った。
お酒。と、タバコの臭い。
何かが怖くて、健介は息を止めた。
「健介にね!お・み・や・げ!」
そう言ってお母さんが、ぶらさげた寿司折りを持ち上げた。
「昨日は蟹で今日はお寿司なんて贅沢よねー!」
お母さんは笑ったまま、ベッドに倒れ込んだ。
「幸せー!健介に会えて、幸せー!」
そう呟いて、お母さんはそのまま寝てしまった。
まだドキドキと早打ちする心臓を押さえて、健介はお母さんを呼ぶ。
ちゃんとベッドで布団に入らないと風邪ひくよ。
じきにお母さんはもぞもぞと動きだし、上着を脱ぎながらベッドに這い上がり、登り切ってからスカートを脱ぎ、下着姿になって布団に潜った。
健介はそれを、また息を止めて見ていた。
怖かった。
何が怖いのかわからないまま、健介は震えていた。
そして、お母さんの規則的な寝息が聞こえてきた。
健介はまだ震えたまま壁に寄り掛かって、両腕を抱えるようにして座っていた。
震えながら俯いて、ふと思い出す。
そういえば、こんなふうに床に座っている時、ソファにもたれてゲームとかしているとき、いつもマックスが膝に乗ってきた。
常に無愛想な猫なのに、健介が床に座るときだけ近寄ってくる。
いつも父さんにばかり愛想を振りまく猫だけど、そんな時だけ僕にすり寄る。
今マックスがいればもう少しあったかいのに。
無愛想でもあったかいのに。
そんなことを思い出して健介は笑った。
そして、その姿勢のまま、いつの間にか寝ていた。




