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ARROGANT  作者: co
新居
192/194

 その日のうちに、君島が大和の車に自分の布団を積み込んで原田のアパートに引っ越してきた。

 児相からの条件でもあったため、狭い部屋での君島との同棲生活が強制的に一月続いた。

 1LDKなので寝室に充てている奥の一部屋に原田と健介が寝て、LDKには毎日君島の布団が敷かれているという自堕落な有り様。

 整頓魔の原田にとってそんな発狂寸前の日々が一月も続いた。

 しかし健介の世話はやはり原田一人では無理だったので君島の存在はありがたいと思うこともなくはなかった。特に風呂に入れてもらう時にはそう思うこともあった。


 多忙を極めて日々疲れ果て、君島がいるせいでほとんど寝られず、健介にしがみつかれているせいで中々出勤できず、そしてすべてのスケジュールが押している。

 じきに原田は自分が何をしているのかよくわからなくなった。よくわからないまま機械のように反射で動いていた。今詐欺に遭ったら簡単に騙されるだろうなと自分でも思った。


 そんな忘我の日々でも発見があった。

 健介が夜寝ないのは、暗いからだ。

 疲れ果てている原田がつい電気を点けたまま寝てしまうと、一緒に寝ている健介は朝まで起きない。

 何度目かで原田がそれに気付き、夜は小さな灯りを点けることにした。

 それでもつい忘れて健介がベッドで寝てから電気を消してしまい、ダイニングで原田が仕事をしていると確実に起きてぐずり出す。

 しまった、と思いつつ寝室に行くと健介は泣いて怒っている。

 だから、ご機嫌を取るためにヤクルトを与えてしまう。

 そして君島に叱られる。


 毎日毎日全ての仕事の段取りをなんとかこなしていき、少しずつ形になっていく。

 あちこちの役所に出向く必要があり、そのせいで仕事ができず、原田はほとんど休職扱いになった。

 そうなると会社の車を使うことも気が引けるので車も買うことにする。

 新居の家具も家電も生活用品も一式買わなければならない。しかも全て取り急ぎ。

 それも物件引き渡し後でアパート解約前に必ず配送してもらわなければならないし、その時間に必ず新居にいて受け取りあるいは設置をしてもらわなければならない。

 そんな絶対に譲れない些事が毎日発生する。


 そんな積み重ねで、やっと引っ越しが完了した。

 引っ越しが完了したところで何も終わらないのだが、一つ山を越えた気分にはなった。

 だからという訳ではないが、荷解きもろくに進んでいないのについオーディオの設置を始めてしまった。

 コードをあちこち繋いでいるうちに、後ろで健介がCDを詰め込んだ箱をひっくり返して掻き回している。

 振り向くと、ヴァンヘイレンを差し出してきた。

 こんなもん聴きたいのか。問題児だな。と笑いながら掛けると、予想外に大音量で健介が驚き君島が飛んできてなにか怒鳴って健介を泣かせた。



 それから橘一家が引っ越し祝いに蕎麦を持ってきてくれた。

 逆じゃないのかと、ふるまうのはこっちじゃないのかと思ったが、どうでもいいじゃないここのお蕎麦美味しいのよ食べましょう、と相変わらず強引な橘母に押し切られる。

 そして蕎麦と一緒に、中々結構な食器やリネン系の品や乾物調味料等の高級消耗品をどっさりと持ってきてくれた。

「贈答品がたくさんあるのよ。よかったら使って。気に入らなかったら捨てて」

 そんな男前なセリフを吐く母に感謝して、ありがたく使わせてもらう。


 お酒もたくさん持ってきてくれて、弱いくせに飲みたがる君島がワイン一杯で真っ赤になっている。そしてご機嫌な笑顔で、語った。

「健介は、強いよね。この子本当に強いよ。誰よりも強い。だから誰よりも貪欲に幸せを掴みとる。そのために浩一は選ばれたんだよ。浩一は健介の踏み台だからね。いいように利用されたらいい」

 そしてまたにっこりと笑ったが、なーに気取ってんだよ秋ちゃん!と大和にパンチされた。

 ただ、酔ってるとは言え君島は現役格闘家なので、簡単に防御して一瞬で反撃した。

 そして酔っているために手加減を忘れ、まともに頬を殴られて大和が椅子から転げ落ちた。



 それからは、朱鷺が毎日遊びに来る。

 毎日君島に泣かされている健介は、朱鷺が来ると喜んでしがみつく。

 だから原田が外出の用事がある時には朱鷺に来てもらって相手をしてもらい、気が逸れているうちに車で出掛けるのだが、車の音が聞こえた途端に気付いて泣きだす。

 帰ってくるまで泣き止まないので、原田はあまり一人で外出できない。


 会社や現場は健介が寝ている隙に行く。

 たばこは会社でしか吸わなくなったので、一応毎日顔は出していた。

 仕事量は大幅に減らしてもらったが、時間の束縛の緩いものを任された。


 森口も三日と空けずにやってくる。

 そのために予定を忘れずに済むし手続きを手伝ってくれるので案外計画通りにスケジュールが進んで行った。

 児相での健介の手続きがひと段落したのは、目標通りの年末だった。

 順序が逆になったが、里親になるための講習会を規定通りの回数受講して、最後が12月になった。

 既に里親の原田と既に里子の健介と同居人の君島で参加し、それが終了してから事務室に行って飯川さんに挨拶をした。

 お世話になりました、これからもお世話になります、よろしくお願いします。

 そこにいる職員も全員健介のことは知っているので、卒業おめでとう!と妙な言葉で口々に祝福してくれた。



 その後、県庁まで県知事にお礼を言いに行ったり安達さんや横井さんに報告に行ったり健介の保育園を決めたり君島が復職したり原田の現場をみんなで見に行ったり健介がはしかに掛かったり君島の親が突撃してきたり健介が小学校に入学したり猫を拾ったりして、日々積み重ねてここまで来た。

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