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ARROGANT  作者: co
新居
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 しばらくくねくねと坂を下り、大きな落葉樹の林が現れ、道路脇にちょっとした広場が見えてきて大和がハザードを点けて車を寄せた。

 後ろをついてきた森口も、おどおどしながらその後ろに停車する。

 原田たちが車から降りて、そこに建つ家をしげしげと見上げた。

 でかいガレージに横開きの格子状シャッター。芝が張ってある程度の小さな庭と二階建て家屋正面は玄関吹き抜け。

 森口の車からも二人が飛び下りてきて、え、ここなの?!と訊いてくる。


「あー。かっこいい家ですねー」

 森口が感嘆する。

「こんな大きい家?!健介のためにこんなの買っちゃうんだ?!」

 君島のテンションがまた上がる。

「健介のためにこんなの買っちゃうのか?」

 大和も笑いながら訊いてくる。

「健介のためっていうか、親孝行らしいですよ」

 原田が小声で返事をしながら、携帯を耳に当てた。


「おはようございます。原田です。今よろしいですか?先日お願いした赤羽区の物件のことなんですけど。はい」

 不動産会社の担当が出て、挨拶を手短に終えて本題も手短に伝えた。

 しかしそれが上手く伝わらないというか、信じてもらえない。

「買いたいので押さえてください。私が。今。それは相談に乗ってもらいたいのですが。私です。すぐに。手付けがいるならすぐに振り込みます。今です。私です。原田です」

 何度も繰り返し、やっと了解してもらい、ここの住所をメールで知らせてくれるように頼んだ。


「まぁ、信用はされないだろうなぁ。手付で何百万払うの?」

 大和が笑いながら訊く。

「一割程度と言われたので、手持ちでは足りません」

「何千万?」

「内緒です」

「だいたい知ってるけど」

「じゃ訊かないでください」

「手持ちで足りないならどうするんだ?」

「んー。管理してる人に連絡しなきゃならないです」

「管理?」

「嫌だなぁ……」

「金の話は嫌なもんだよ」


 それだけの理由ではないのだが、詮索してこない大和が今はありがたい。


 車に戻り、次は原田の部屋に寄る。

 アパートに到着し、健介を置いていくとまた大騒ぎになるので抱いて連れて行く。

 部屋の中は健介が荒らしたままだった。そのありさまを見てもうんざりする。

 クローゼットを開けて適当に着替え、用意が済んでからベッドに座り、携帯を取り出す。

 そしてここ何年も掛けたことのない名前を呼び出し、コールする。

 健介もベッドによじのぼってきたので、掴まえて腹を抱いた。


 何度目かのコールで相手が出て、名前を叫ばれた。向こうの電話に表示が出たのだろうけど、挨拶を抜いてしまうほど驚かれたようだ。

「……はい。浩一です」

 そう応えるとその後しばらく電話の向こうから大声で途切れなく質問を並べられ、相手の息が切れたところで原田が一つだけ応えた。

「金を振り込んで欲しいのですが」

 その応えに対し、たちまち質問と疑惑と心配が並べられたがまた一つだけ応えた。

「家を買いたいと思ってます」

 それに対し今度は質問が山のように並べられたがそれには応えず、

「なのでまとまった金額が必要です。それを引き出して振り込んでもらう手続きに必要な物を教えていただきたいのですが」

 と、変わらず冷静に依頼した。すると相手もやっと冷静に訊いてきた。


『詐欺ではないのか?騙されてはいないのか?』

「いえ。自分が住むための家なので」

『なぜ急に?』

「必要になったから」

『必要?』

「本当はそのお金は一生使うつもりはなかったんですが、この家が欲しくなりました」

 こんな説明になっていない言い訳で、相手は納得した。

 原田がこんな要求をするのは初めてだから警戒したようだが、騙されるタイプではないことはよく知っているのだ。

 家を買うのなら大きな額がいるのだろうと、それなりの単位を提示してきた。

「はい。そのくらいです。手付で一割欲しいと言われたのでできれば早急にお願いします」

 相手はしぶしぶと、必要な書類を早急に送付するという返事をした。


 それはそうと浩一君今君は一体どんな生活を送ってるんだと話題を変えてきたところで、健介が携帯に手を伸ばして原田を呼んだ。

 その声が聞えたらしく、相手が息を呑んだ。

 そして当然山のような質問をすべく慌てて声を発してきたが、今相手に健介のことを突っ込まれるのは果てしなく面倒なので、原田は話を終える挨拶をした。


「今出先なので長く話せません。書類の送付、早急にお願いします。届きましたらまたご連絡を差し上げます。これで失礼します。山口さん」


 そう言って通話を切り、携帯をバッグに入れ、健介を抱き上げて部屋を出た。




 その後、この原田の資産管理をしている原田の亡父の親友の弁護士山口さんが、原田の居住県の県警に勤める榎本さんに速攻で通報し、その榎本さんから君島に問い合わせがあり、君島から詳しく榎本さんに伝えられた説明により山口さんがそのために都合のいいように書類を揃えて原田に送付した。

 そして滞りなく原田の口座にまとまった金額が振り込まれ、山口さんにあれこれ突っ込まれることも無かった。


 裏でそんな打ち合わせがあったことを原田は当然知らない。

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