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夜中に何度か健介が目覚めた。
というより、熟睡する時間の短い子供のようだ。
原田は元々寝ていないので、健介が目覚めてぐずって泣く前に気付いて宥める。
しかし宥めても一度起きてしまうと寝ないでぐずる。
しょうがないので布団を出て、寒いので毛布を被ったまま健介を抱いてカーテンを開けて下に広がる夜景を眺めたりする。
そうしているうちに、また健介がうとうとと瞼を閉じる。
健介がいくら泣いても朱鷺が起きることはないから気が楽だ。
それを何度か繰り返し、朝になった。
朝とは言えまだ日も昇らない早朝で、本当はもう一度寝て欲しいのだが健介が一向に泣き止まない。
ここまでぐずるのはもしかしておむつか?と気付き、買い置きがダイニングの隅にあったことを思い出し、原田は健介を抱いて部屋を出た。
他人の家で勝手に階段を降りたり部屋に入ったりすることに躊躇いを覚えながらも、こんな早朝に許可を取る方が失礼なので勝手にダイニングに失礼する。
暖房がタイマーでセットしてあったようで、室内は暖かい。
ソファに健介を降ろし、おむつを一つ取り出し、取り換えてやる。
まだ不満そうな顔をしているが、眠いだけだろう。
そこに橘母が下りてきて、あら早いのね、とあくび交じりに笑った。
「おはようございます。夕べは遅くまでお騒がせしました」
「いいわよ。一番うるさかったのは大和だし」
そう返されて、原田もつい笑う。
朝食前に健介と二人分のほうじ茶を入れてもらってソファに座ってまったりしていると、橘父、昴、大和と順番に下りてきた。
おー、はやいね、おはようございます、寝られた?まぁそこそこ、じゃあよかった、そんな挨拶をしていると次に君島がやかましく駆け下りてきた。
「あ!いた!布団まで無くなってたからいなくなったんだと思ったよ!どこ行ってたの?!」
第一声からやかましい。後ろから森口も来ておどおどと挨拶した。
「おはようございます。みなさん、お早いですね」
そうでもないけどな、だいたい朱鷺はいつも遅いしな、などと返しているうちに朱鷺も下りてきた。
洗面所に行ったり食卓についたりして慌ただしく順番に朝の準備を進めていく。
今日はどうするんだ?とか家ってどこなの?とかそういえば昨日の書類を書いてないなと思いだしたりして、順番に食卓を離れて昨日森口が持ってきた書類を広げた。
「家の住所か。ここの下ですから、ここと番地が違うぐらいですよね?」
と、原田がその書類を摘まんで大和に訊く。
「そうだろうな。全部みどりさんに依頼してしまったからみどりさんに訊くしかないな」
みどり不動産にあの物件はお願いした。
「今日営業してるだろ?始業頃に電話してみろよ」
「はい」
「あら。お店通したら手数料を取られるんじゃないの?私がお友達に話してあげるから直接買えばいいじゃない?」
母がキッチンから声を掛けてきたが、原田が断った。
「いや、手続きや引き渡しの手間を考えたら仲介料払った方が安いと思いますよ。それと、申し訳ないですけど、売り主と直接の交渉はあまり持ちたくないです」
「まぁ、それもそうね。じゃあ私も知り合いが買ったなんて言わない方がいいわね?」
「はい。できれば」
「そう。わかったわ」
そしてみんな出掛ける準備を始める。
そんな中、着替えを持っていないのは原田一人。健介の着替えは森口と君島が持ってきたし、二人は夕べ着替えを取ってからここに来たのだ。
朝からまた児童相談所に行くのだが、原田が着替えるために途中でアパートに寄ることにした。
行ってきます、とまた昨日と同じメンバーで車に分乗した。