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ARROGANT  作者: co
施設
179/194

22

 オーダーを終えて、健介も原田の膝によじ登って落ち着き、沈黙が続いた後に飯川さんが口を開いた。

「君島さんからだいたいの事情をお聞きしました。私どもとしてはただただお礼とお詫びを申し上げるだけです」

 そう言って頭を下げるので、いえ、それほどでも、と原田が首を振る。

「それで、今日のところはまこと君をお願いしたいと思いますけど、」

 飯川さんが伏せていた目を開いて、続けた。


「やはり、引き取っていただくのは、現実的ではないですよね」


「えっ!あなたまで?!僕の話聞いたよね?!納得したんじゃないの?!」

 当然君島が間髪入れずに返す。

 それに対し、飯川さんも速攻で返した。


「はい!お聞きしました!この子を受け入れる態勢があることも、お気持ちがあることも、難しいながらも手続きができそうなことも、了解しました。その上で、」


 そして、原田と君島を見比べるように視線を動かし、言った。



「やはり、若すぎるんです。若すぎるから育児に不慣れだろうと言うことではなく、お二人ともまだまだこれから生活環境も家族形態も変わっていく年代ですよね?あと10年経ってたとしてもまだ若すぎます。今のまま生活が固定されているわけではないですから今後きっと、」

「つまりいずれ結婚して家族を持つだろうということですか?」

 原田が訊いた。


「……はい。簡単に言ってしまえば、そういうことです。この子がいることは、あなたたちの恋愛や結婚の足枷になるでしょう。そうなればあなたたちはこの子を負担に思うでしょうし、そうなったらこの子自身も不幸です。それよりは今のうちに離れてもらった方がいいと思います」

「足枷になんかならない!健介を拒絶するような女はこっちからお断りだ!」

 君島が速攻で反論する。

「今はそうおっしゃいます。みなさんそうです。それでも、時間というのはいろんなことを変えてしまうんです」

 何か諦めたように飯川さんが呟いた。

「変わらない人なんていないですから……」


 過去の実績に安心し変わらないだろうと信頼して預け、手ひどく裏切られた。

 飯川さんが思い出しているのは、今も行方不明らしい夜逃げした里親の関谷さんのことだろう。


「変わるのだと最初から予想して、考えて行かなければ、」

 飯川さんがしんみりとそこまで言い、その後ふと付け加えた。



「……それでも例えば、その、あなたたちがもしそういうカップルであれば、その場合だと今後の家族形態に変化がないと想定されて有利というか情状酌量の余地があるとい……」


 その発言のほとんど初期に、二人とも飯川さんをギンと発火しそうな程の強烈な視線で睨んだ。



 そんなタイミングでさっそく料理が運ばれてくる。


「お待たせしました!お子様チーズリゾットです!」

 そう笑顔で若いウェイトレスが丸いトレーごと小振りな陶器のボウルを健介の前に置いた。

 それを見て、機嫌を損ねたままの君島が彼女を見上げる。

「ずいぶん早いね。もしかして作り置きしてたの?」

 君島のそんな無礼な質問に若い女子がびっくりして息を呑んだが、同じく不機嫌な原田が応える。

「レトルトを加熱したかフリーズドライに熱湯を加えたに決まってるだろ。作り置きより安全だ」

「そうなの?!そんなインスタント商品が600円もするの?!」

「うるさいよ。場所代と宣伝費と人件費に決まってんだろ。クレーマーかお前は」

 続く君島と原田の言い合いに、若い女子は怯えて一礼して立ち去った。


 健介が目の前のリゾットに指を入れようとするので君島が止める。

 アニメキャラクターの形のスプーンは健介には持てそうにないので、原田が持ってリゾットを少量掬ってみる。

 それに健介が目を輝かせて、スプーンを持つ原田の手を掴んで引いてきて、スプーンに口を付けた。

「あっ!バカ!」

 君島の叫び声と同時に、唇に触れたリゾットの熱さに驚いた健介が爆ぜるように身体を引いて、1テンポ置いて弾けるように泣き喚きだした。

「熱いに決まってんだろ!バカなの?!」

 君島が笑いながら健介が膝に零したリゾットをタオルで拭き取る。

 原田も笑いながら泣き喚く健介の頬を撫で、泣き喚きながら健介はその原田の腕にしがみついて腹に顔を押し付けて泣き続ける。

 その間に頼んだ料理が次々と並べられ、原田の前にもチキングリルのセットが置かれた。

「冷めるまでこっち食べるか?」

 原田がそう言いながら、箸でポテトサラダを摘まんで健介の口元に持って行くと、まだぐすぐすと鼻を鳴らしながらも徐々に泣くのをやめて食いついた。

 まだ涙で頬を濡らしたまま膨れっ面で、咀嚼している。

 そしてどうやらそれが気に入ったらしく、ぴたりと泣き止んだ。



 そんな様子を向かいで眺めながら、また飯川さんが涙ぐんで笑みを浮かべている。


 複雑な心情なのだとは思う。

 どうやら相当な札付きの子供のようだし、こんなに大人しいこともないと言っていたから、満足気な今の様子は担当職員として嬉しいだろうけどそれも長く続かないとわかっているので切ないのだろう。

 確かに飯川さんの言うことは理解できる。自分たちは若すぎる。子供を引き受ける力はない。

 飯川さんの言う通り、やはり自分にはこの子供を引き取ることはできないだろうと、原田は正直に自分の現状を説明することにした。

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