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遅刻寸前に学校に到着し、給食の時間まで空腹を堪えて、放課後は一度家に戻るつもりでいる。
昨日父が欲しい物はなんでも持って行っていいと言っていたから。
運べるものを少しずつ運び出そうと思っている。
健介はほんの少し、その用事を嬉しいと思っている。
放課後玄関で美少女杏ちゃんが健介の姿を見つけて走り寄ってきた。
「健介君!転校するんだって?」
え?と健介は目を見開く。
「拓海君が言ってたよ、健介君は遠くのお母さんの家に行ったから転校するんだって。お母さんのところに行けたんだ?」
杏ちゃんが喜んでいる。
「やっぱりね、子供はお母さんと一緒に暮らすのが一番幸せだから!よかったね!」
健介は、頷いた。
「お別れ会、呼んでね!」
そう言って杏ちゃんは走り去った。
そんなことになるのかな。
健介は、他人事のようにそう考えた。
そして坂を登って家に戻り、持って行く荷物をまとめて自分の部屋を出て、ふと向かいの父の部屋のドアを見詰めた。
少し開けてみる。
父の部屋の匂いが漏れた。
たばこと父の匂い。
なんて言ったっけ?芳香剤じゃないんだ、これ。
香水。
……アロガン
威張りん坊とか偉そうとか
偉そう。
そうだった。この前父さんはそうだった。
やっぱりそうだった。
やっぱりそうだった。
泣きそうになる自分が許せなくて健介は首を振った。
父さんは僕を傷つけたんだよ。ずっと僕を騙してたんだよ。
何度も繰り返しそう考える。
家を出てから、マックスがいなかったことに気付いた。
バスでお母さんの部屋に戻ると、お母さんがいなかった。
健介はがっかりした。
おかえり、と迎えてもらうことを楽しみにしていたから。
エアコンが切られているから外と同じくらいに寒い。
台所には今朝置いた鍋がそのまま放置されていた。
だから昨日の鍋のにおいがまだ部屋に満ちている。
健介はランドセルを置いて窓を開けて、鍋を洗った。
お湯が出るまで時間が掛かることに驚いた。
それに自分の家はシングルレバーだから、学校にあるような古いタイプの水道に戸惑う。
昨日は初めてお母さんと一緒に過ごした嬉しさで何も見えなかったけど、一日経つといろいろと目につく。
古くて狭い。短い期間であれば我慢できるかもしれないが、しかし健介はずっと原田の大きく機能的で猫のいる家屋で生活していた。
ここはお風呂もトイレも古いユニットで、これまでとは比べ物にならない。
そして狭いのに寒い。エアコンをつけても芯から暖まることはないようだ。
そして物が少ない。不安になるほど何もない。
箸一つ、茶碗一つないのだ。あっても少ない。布団は一組しかない。だから健介はお母さんと寝たのだ。
毎日毎日、今までと違う箇所を探していくような気がする。
だけど、お母さんと暮らしていくっていうのはこういうことなんだ。
健介はそう覚悟した。




