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ARROGANT  作者: co
施設
168/194

11

 大和が運転しながら、とりあえずの予定を教えてくれた。

「秋ちゃんはまた向こうのお兄ちゃんの車で一緒に作戦練りながら行くらしいよ」

「作戦?」

「今夜はとにかく人手がないらしいんだよ。あちこちで事件勃発しているようで、健介の相談もできるかどうかわからないらしい」

「できなかったらどうなるんですか?」

「できるまで待つんだろ?」

「待つんですか?」

「それしかないだろ」

「腹減りました」

「俺もー。朱鷺は?」

 前を向いたまま、大和が訊いた。朱鷺に聞こえるはずもないのに。

 しょうがなくやはり原田が携帯を取り出して打ち込んで朱鷺に見せた。

 朱鷺も携帯を取り出して返事を見せてくれた。


『僕も』


「朱鷺も腹減ったそうです。健介もさっき吐いたんで腹減ってます」

 原田がそう応えたが大和は、だよなーと適当に返すだけでどこかに寄る気もないようだ。


「まずは健介の話を進める。案外、深刻な話だぞ。いや、元々深刻な状況だけど更に重いことになってる」

「何がですか」

「さっき、玄関で健介が叫んだだろ?それでお前が慌ててこれに乗りこんだけど」

「はい」

「あれな。あの玄関にいた子供ら。あいつら、健介と同じ里親の家に引き取られてた里子で、あいつらが健介を縛ったらしい。紐の痕があっただろ?あれ」


 それを聞いて、思わず腕の中の健介の頭を見下ろした。


 だから、あんなに叫んだのか。玄関を指差して、たい、と言ったのか。

 だから足首を捲って見せたのか。


「それも、いじめとかじゃないらしい。里親が縛れと命令したらしい。縛って大人しくさせないと、お前らの食事も抜くし夜は外に出すって言われたらしい」


 それで、縛られたのか。

 まるで生贄だ。

 こんな小さな子供を。


「あんな小さい子供らがそんなことさせられて泣いて謝ってんだよ。痛いって分かってたけどしなくちゃいけなかったって。ごめんなさいって。なぁ、どんな地獄だよ」

「そうですね」

「あの子らと健介と、どっちが辛かったんだろうな」

「比較にはならないです」

「どういう意味?」

「辛さが違うので比較しようがないです。どちらも辛いです」

「そうだな」


 会話の意味のわからない健介と、聞こえていない朱鷺が、二人で笑っている。



 どんな地獄だよ。

 確かに、本当に日本での出来事なのかと思うほどのひどい状況。

 しかしとりあえずは、健介もあの子らもそこからの生還者だ。


 きっと今度こそちゃんと保護されるはず。


「とりあえず健介の身の振り方が決まってから、飯食いに行こう」

「はい」


 きっと保護してくれる機関のはず。そういう名称の組織なのだから。

 そう信じて、先導する白い小型車を追ってそこに向かっていた。




 約30分ほどのドライブでそこに到着した。

 三階建ての役所然とした白い広い建物。その裏に白い小型車が停まり、その横にランクルを停めた。

 先に降りた森口が、こっちです!と全員を案内し、明るい玄関入口から階段で2階に登ってすぐのドア開けっ放しの一室まで一気に進んだ。


 そこはなんともごちゃごちゃな事務所内で、20台ほどの机が並んでいるもののその上が雑然としすぎていて、机ごとに区分けできていない風で、どこかで電話も鳴っている。しかしそこにいる職員が机の数の半分以下で、ほぼ全員電話に出ているために鳴る電話が放置されている。なので、戻ったばかりの森口が慌ててその電話を取った。

 ということで、急いでやってきた健介が放置されることになった。


 しょうがなくそこで待つことにして、大和と君島は壁際の長椅子に座り、健介を抱いている原田と朱鷺は立ったまま事務所をぐるりと見回している。

 あちこちで職員が電話に向かってしゃべっていることが重なって聞こえている。児童虐待の通報、保護要請、育児相談、場所の確認、捜索の失敗、行方不明、定員超過、職員不足、通話が切れたらすぐに鳴っている電話を取り、終わらない仕事が続いている。


「圧倒的に人員不足だな」

 大和が呟いた。

「土曜日の夜なのにね」

 君島が続けた。

「土曜の夜に泣いてる子がたくさんいるんだね。健介だけじゃないんだね」

「どうなってるんだろうな」

 大和がまた呟いた。


 職員たちの電話の応対の声が重なって聞こえる。

「診断は?入院ですか」

「見つかった?息子の家?夜逃げ?」

「いやいや、足りないです。無理です」

「よそに回せないですか?それはわかってますが」

「まだ戻れませんか」

「それで関谷さんは?破産?ご夫婦はそこに?」


 そしてやっと原田たちの元に森口が上司らしき男性を連れて戻ってきた。

「こちらの、方たちがその、その子を引き取りたいということで、」

 森口が慌てて相変わらずたどたどしく要領を得ない説明をしている間に、せっかちそうな上司が訊いてきた。



「養子をお考えということでよろしいですか?どなたですか?ご夫婦?こちらのお父さんお母さんということでよろしいですか?」



 せっかち上司は、当然のように健介を抱いた原田と長椅子に腰掛けている美女顔の君島を手で示した。

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