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ARROGANT  作者: co
施設
162/194

「うわ。こんなイケメン連れて来た!僕の誘いを断ったのはこういうことだったんだね?」

 前田先生が原田を指差して君島を詰る。

「先生、冗談はそのくらいにして、この子診て下さい」

 君島がにっこり笑って健介を示した。


 はいはい、と乗ってこない君島にがっかりしながらも、先生は笑顔で原田に椅子を勧めた。

 しかし健介が原田の腕の中ですっかり寝入っているので、ベッドの方がいいかと横のベッドに寝かせた。


「それで、どういった症状?」

「泣いて暴れているうちに引き付けを起こしました。痙攣と嘔吐の症状が2分ほど。熱はないです。それからは落ち着いてます」

 君島が応える。

「何度目?」

「僕は初めて見ましたけど、前にもあったかもしれません」

「はっきりしない?」

「わかりません」

「んー。まぁ、心配ですよね、お父さん。でもよくあることです。一時的な症状であることがほとんどです」

 前田先生が、にっこり微笑んで原田を振り向いた。

「今後その症状が何度も見られるようだったら、その時検査しましょう。他に気になるところはありますか?」

 お父さんと決めつけられて原田が困っている間に、君島が呟いた。


「先生。実はね、この子孤児なんだよ」


 怪訝そうに前田先生が横にいる君島を見下ろした。

「孤児?」

「うん。身寄りが無くて施設に入ってる子なんだ」

「……うん?それで?」

「虐待受けてて、身体に昔の傷から直近の傷まで様々あります。それを、診て欲しいんです」

 そう言って、君島が先生を見上げた。

「傷?」

 前田先生はまだ怪訝そうな顔のまま寝ている健介を見下ろした。

「身体、見ていいですか?脱がせますよ?」

 そう断ってから、起こさないようにゆっくりとトレーナーの裾を捲り上げた。



 その時、ドアをノックする音が聞こえ原田が振り向くと、森口が顔を出した。

「あ、あの、診察中ですか?」

「はい」

「ちょっと、その、来てもらえますか?」

 森口に手招きされて、原田が廊下に出た。



 君島が先生に手を貸して健介の服を脱がせ、白いベッドの上に横たえた。

 大人しく目を閉じているその小さな身体を二人で見下ろす。

「……縛った痕か」

 前田先生が健介の細い手首と足首に触れる。

「それだけじゃないです」

 君島が、仰向けの健介の肩をゆっくりと返し、上半身だけうつ伏せになる形にして、履いているおむつを下げて見せた。

「先生、こっちに回って見てください」

 言われる前に先生が健介の背中に回り、その腰に顔を近付けてその傷痕を見た。


「……ひどいな」

 先生が顔を顰めた。

「ずいぶん古い痕もあるね。もう白くなってる」

 そして顔を上げて君島を見た。

「でも、この火傷は全部古いね。最近付けられたような新しい傷はないね」


「先生。これ、記録してもらえますか?」

「いいよ。写真写していいかな」

「お願いします」

「秋ちゃん、おむつ取ってくれる?」

「はい」

 君島が健介を起こさないようにそっとおむつを下げる。

 カメラを持って戻ってきた先生が、健介の両手を下に下げて形を整えて、全体の写真を一枚撮った。それから手首と足首の紐の痕、そしてお尻の火傷の痕をそれぞれ撮った。

「ありがとう。もう服着せてあげて。よかったらおむつの新品があるけど大丈夫?」

「あ、下さい。散々暴れたから漏らしてるみたい」

「うん。合うサイズ用意してください」

 先生が指示すると、傍にいる看護師がはいと応えて棚に向かった。



「山崎まこと君。虐待されて身寄りがなく現在施設にいる子供。それで、どういうことかな?秋ちゃん。このカルテ何かに使うの?」

 先生がさっき提出された診察申込書と診断カルテを入力しながら君島に訊く。

「わからないです。ただ、この子の状況をきちんと診察して記録して欲しかっただけで、」

 君島が応えながら健介に服を着せていく。しかし、さすがに服を着せられる際に身体を揺すられて君島の声も身近に聞こえているせいで、健介がぼんやりと目を開けた。

「なんとかしたいと思ってるんだけど、僕たちは若すぎるってだけで何の力にもなれなくて、」

「なんとかしたい?この子を?秋ちゃんが?」

「僕ってよりも、浩一が、」

「浩一?」


「……パパ」


 健介の両脚にパンツを履かせているところで、細い呟き声が聞こえた。

 起きちゃったか、と君島が急いで伸びるスウェット生地を引っ張りながらも先生に応える。

「さっきのイケメンにすっかり懐いてて、他の誰が抱いても大騒ぎなんだけど、彼だけが大人しくできるんだけど、」

「パパ!」

 まだパンツから足が出ていないのに健介が起き上がろうとする。

「ちょっと待て!すぐ終わるから!」

「パパーっ!」

 君島が押さえているのに立ち上がろうとした。

 しかしまだ履けていないパンツに足を取られてベッドから落ちそうになり、咄嗟に君島がその身体を支えた。

 その騒ぎに驚いた先生も椅子から立ち上がった。


 床に頭から落ちそうだったところを救われたのに、健介は君島から逃れようとして腕を振り回す。もちろん君島に敵うはずもなく、足もパンツが半端に脱げかかっていて自由にならない。

 パパ、と叫ぶ。

 何度も叫びながら、原田を探しながら、君島の腕の中で暴れている。

 君島に押さえられて動けず、足はパンツに引っ掛かって動かず、健介はパニックを起こしたように叫び始めた。


「おい、どうした!」

 先生が慌てて走り寄ってきた。

 騒ぎを聞いて廊下に出ていた原田と森口がドアを開けて入ってきた。

「パパ!」

 原田を見つけて君島に掴まれている健介が腕を伸ばした。


 原田が、駆け寄ろうとした。

 それを君島が止めた。



「来るな、浩一」



 君島に真っ直ぐ射るような視線を向けられ、原田は立ち止まった。

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