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ARROGANT  作者: co
健介
153/194

13

 そして再度橘家に戻り、チャイムを押すと朱鷺母が玄関まで来てくれて、報告してくれた。

「激論になってるわよ」


 原田はうんざりしたが、君島はなぜか張り切って健介を抱いたまま応接室に向かった。

 部屋に入ると激論真っ只中。



「だからね。そもそも親のいない6歳未満なら養子縁組は離縁不可能」

「おかしいだろそれ?虐待されてんだぞ?」

「だって法律だもん」

「そんな法律おかしいだろ?だいたいなんでそんな家に養子に出してんだよ?」

「そんなことあるかなぁ?特別養子縁組ってかなり難しいみたいだよ?」

「難しいって言ったって実際そんなヤツが養子取ってんだろ?」

「いえ、しかし実際手続きとしてはかなり困難ですし、資格を得るだけでも時間も掛かることですし、」

「そんな面倒なことした人がなんで虐待してるんですか。虐待するような人間がなんで養子なんか取るんですか」

「それはなんとも、」

「虐待されてるとしたらその縁組解消できるんですよね?」

「だから6歳未満は不可能なんだってば!」

「なんだよそれ。なんの法律だよ。子供をなんだと思ってるんだよ?」

「それにだいたいね、もし縁組解消できたって原田君は引き取れない」

「なんでだよ!」

「無理でしょー!むしろ引き取れる理由がないよ!」

「子供が懐いてる!」

「いえ、それだけでは確実に無理です」

「それ以外に理由なんかいらないでしょ!」

「いるでしょー!」


 大和と昴と秘書が議論を戦わせていた。知事と朱鷺父はほぼ傍観。

 そこに君島がいきなり参戦。


「いらないよ!この子は浩一が引き取らなきゃ死ぬよ!」


 君島がいきなり大声を発したので、抱かれている健介が驚いて横にいる原田の顔を見上げて手を伸ばした。

 急に動いた健介に気付いて、君島が原田にその身体を渡し、そしてソファの大和の横に座って激論に参加した。


「ひどい虐待されてる!あんな傷付けられて放置するなんて許されないよ!」

「傷?縛った傷だけじゃないのか?」

「火傷の痕があった。タバコの火で付けられたやつ。だからヤマちゃんのタバコを怖がったんだよ」

「うわ……。本当か?」

「でもその引き取った家でやられたって証拠もないでしょ?」

「証拠もなにも、浩一が引き取ったら確実にそんなことにならないんだから全部解決だよ!」

「無理無理!めちゃくちゃ言うよね秋ちゃん!」


「めちゃくちゃなのは今の健介の状況だよ!本当に殺されるよ!」



 健介が君島の怒鳴り声に怯えるので、原田はソファから離れた入口付近のテーブルチェアに座っている。向かいには朱鷺も座っている。

 じきに、落ち着いてきた健介が朱鷺に顔を向けて、その頬に絆創膏が貼られているのを見て、手を伸ばした。

 原田が抱いている手を緩めると、健介はその膝から下りて朱鷺の方に歩いて行って、抱き上げろと両手を伸ばして催促し、朱鷺の膝に乗った。

 そして珍しそうに、朱鷺の頬の絆創膏を指で撫でている。

「お前がやったんだろ?」

 と原田が言うと健介が顔を向けたが、すぐにまた絆創膏に目を戻して指で撫でる。

 お前がやったんだぞ、と朱鷺も笑って健介の頬をつついた。

 すると健介も、ぎこちなく笑った。




「殺されるなんて大げさな」

「今だって!今だってその家に戻れば縛られるんだよ?こんなこと普通だとでも言うの?」

「そうだとしたら、そこの家庭に注意するとか教育するとか、」

「そんなことしなきゃならないような家庭にどうしてわざわざ子供を預けるんですか!」

「しかし完璧な家庭なんてね、そうそうないだろ?」

「完璧なんて求めてない!浩一だったら最低限健介を傷つけるようなことはしないって言ってるだけです!」




 激論がどんな流れになっているのか、聞こえない朱鷺にはわからない。

 抱いている健介が機嫌よく笑っているので、立ち上がって後ろの出窓に向かった。

 そこから見えるサルスベリの木にお母さんがみかんを切って置いたら最近小鳥が来るようになった。もしかしたら来てるかも、と窓を二人で覗いてみる。


 そして激論を傍聴している原田は、君島の過熱振りに却って冷えてしまっている。

 慣れれば、そんなに難しい子供じゃない。

 君島にだって慣れたし、今朱鷺が抱いていても笑っている。

 今の子供の状況は確かに不幸だしそれは改善されて欲しいと思うが、引き取るのは自分じゃなくてもいい。

 慣れれば難しい子供じゃない。合う保護者はきっとどこかにいるはずだ。

 俺じゃなくてもいい。俺がいなくても、子供は朱鷺に抱かれて笑っている。

 俺がいなくてもいい。

 それを君島に気付かせようと、原田は席を立った。





「だから!たとえ原田君に懐いていたとしても、原田君が子供を傷つけないとしても、原田君には引き取る資格がないの!」

「だからなんとかして欲しいって知事に相談に来たんじゃないか!」

「ですから最初から無理だと知事がお答えに、」

「浩一じゃなきゃ死ぬのに!死ねって言うの?殺すの?健介を!」

「いや、そんな極端な、」

「死ぬよ!だってほら!健介はああやって浩一にずっとしがみついて、」


 君島がそう言って威勢よくテーブル方面を指差した。

 全員その指差した先を見た。

 しかしそこには窓から外を見て笑っている朱鷺と抱かれている健介しかいない。

 しかも健介は何かを指差して楽しそうに声を上げている。


 そこに朱鷺母がティーポットを持って入ってきて、朱鷺と健介を見て声を掛けた。

「メジロが来たの?可愛いでしょ」

 そんな朱鷺母の顔を見て、健介がまた笑った。



「……あれ?」

「秋ちゃん……」

「おや?」

「笑ってますね」


 朱鷺に抱かれて朱鷺母を見上げて健介が笑っている。

 原田以外に懐いていない、原田が引き取らなければ子供が死ぬ、と力説してきた君島の根拠が一気に崩壊。

 君島自身が一番驚いて、愕然と三人を見詰めていた。




 そして、原田がいないことに気付いたのは大和だった。

「原田は?」

 と腰を浮かせて視線を動かす。


 その様子を見た健介も気付いた。

 気付いた健介が、何度も部屋を見回してその姿を探した。

 何度見回してもその姿が見つけられずに、健介の目には見る間に涙が膨らみ、それから朱鷺の腕の中で暴れ出して、叫んだ。




「ぱぱ―――っ!」

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