表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARROGANT  作者: co
水曜日
15/194

 嘘つき

 嘘つき


 お風呂の中で健介はその言葉を繰り返す。



 父さんは嘘つき。

 お母さんが生きていた。

 ずっと僕を探してた。

 火事で死んだなんてひどい嘘をついていた。



 秋ちゃんも嘘つき。

 父さんは僕を宇宙一大事だなんて。

 こんなに簡単にお母さんに返した。

 死んだなんて騙していたお母さんに。



 いいんだ。

 僕はこれからお母さんと楽しく暮らしていくんだ。

 どうせ僕なんかいらない子なんだから。

 僕だって父さんなんか秋ちゃんなんかいらない。



 健介は湯船で顔を覆った。



 その時、かちゃっと、ドアが開いた。


 目を向けると、



 全裸のお母さんが、髪をまとめて上げて、ハンドタオルだけ下げて、入ってきた。



 健介は驚き、バスタブに強く背中を押し付けた。



「背中、流そうか?健介」

 健介はぶんぶんと首を振り、目を背けた。



 普段から風呂は一人で入るし、一緒だとしたら君島くらいのもので、当然女性とは、大人の女性と入浴した経験は今までない。

 お母さんだとしても、健介にとっては昨日初めて会ったばかりの大人の女の人なのだ。



「僕、上がる」

 そう言って立ち上がる健介を、お母さんが両腕で掴んで抱いた。



 初めて柔らかい大人の女性の素肌を全身で感じて、

 健介は混乱した。



 いくら僕が小学生でも、いくら本当の母子でも、まだ全然話もし足りないのに、全然わからないのに、これは何



 そしてお母さんの手が健介の背中を這いまわった。



 混乱して硬直する健介の耳元で、お母さんが呟いた。



「やっぱり……。そうなのね」



 そしてお母さんが健介の身体を離し、健介の目を覗き込み、告げた。



「お尻の下に、傷痕があるの知ってる?」


 健介は黙ってお母さんを見詰めた。


「そこだけじゃなく、背中にもね、太ももの裏にもね。タバコの、」

 そこまで言って声を詰まらせた。



「お父さん、タバコ吸うでしょ」

「……うん。止めてないよ」




「火を、押し付けたの。その痕がある。あの人、前からやってたの」




 温まったはずの身体から血が抜けていくような気がした。




 健介はよく泣く子だったって言ったでしょ?

 あの時からそうだったの。

 泣けばいらいらしてずいぶんひどいことしてたの。

 前はこんなところになかったのに。

 こんなことするならどうして私から健介を取り上げたの



 お母さんがそう言って泣いた。




 健介の濡れた身体が冷えていく。


 同時に、心も冷えていった。



 僕は本当に、いらない子だったんだね。



 父さんって、そういう人だったんだね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ