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ARROGANT  作者: co
健介
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 朱鷺も原田は部屋にいないだろうなと思いつつ訪ねてきて、駐輪場のバイクが裸で放置されているのを見て慌てて階段を駆け上がりチャイムを押し、開かないだろうなと思いながらも引いたドアが簡単に開いてしまい、ここまでは君島と全く同じステップで君島と同様の不安と焦りを抱いてリビングに飛び込んできた。

 そしてドアを開けてまず正面に立っている君島と目が合い、次に君島の身体が向いている方を見て原田の姿を確認し、それと同時に原田が腕に抱く子供を見て、君島の場合の原田の遺体発見予想は飛ばしたものの、やはり同様の衝撃を受けて愕然としていた。


 そんな朱鷺を見て、君島が膝を叩いて爆笑した。

 そして新たな大人の登場に、子供は怯えてまた原田にしがみついた。



 その際に子供の爪が原田の首を引っ掻き、別に痛くもないのだがなんとなくその頭を見下ろして声を掛けた。

「おい。痛いぞ」

 原田に話し掛けられたので子供が顔を上げて、小さく訊いた。

「たぃ?」

「うん。たい」

 子供は握っていた小さな拳を開いて、原田の首の自分が引っ掻いて白い筋になったところを撫でた。



 その様子を、朱鷺がまだ目を見開いて息を呑んで凝視している。

 それを見て君島がまだ笑っている。



 そして朱鷺がやっと息を吐き、まだ目を見開いたまま君島に訊ねた。

『何が起こったの?』

『よくわかんない』

『どこの子?』

『わかんない』

『どういうこと?!』

『あの子、浩一をパパって呼んでる』

『原田さんの子供?!』

 そして朱鷺も、笑う君島につられて半端な笑顔を作った。

 なんだかわからないけど笑うしかない。



 その様子を、子供がじっと見ていた。

 どうやら大人二人の手話に、目を奪われている。

 その視線に気付き、原田も二人に目をやる。

 子供は特に朱鷺の指に注目しているようだ。

 原田にはよくわからないが、手話にも個性があるらしい。それを子供が見分けたということなんだろうか?

 なんだかわからないけど、部屋に来て子供が初めて落ち着いたのでそのまま椅子に座らせてやった。


 子供はそのまま大人しく、朱鷺の手を見ている。

 気付いた朱鷺が、手で子供にひらひらと話し掛けた。

 当然子供は意味がわからず、朱鷺の手を凝視している。

 君島は意地悪なので朱鷺の手話を子供に通訳してやらない。

 朱鷺も、通じていないことを知りながら次々と子供に質問している。


『名前は?』

『いくつ?』

『どこから来たの?』


 全員、静かに口を閉じている。

 その中で話しているのは朱鷺の指だけ。


 部屋の中がすっかり静かになったので、原田もほっとしてさっき台に置いたお茶にまた手を伸ばした。

 しかしせっかく静かになったのに、また君島の爆笑が響いた。


「うわ!ひどいね朱鷺ちゃん!そんなこと言うの?!」


 原田がそっちに目を向けると、子供が突然笑い出した君島を口を開けて見上げている。朱鷺は微笑んで君島を見ながらまだ指を動かしている。


「似てないよ!髪の毛がぐちゃぐちゃなところだけでしょ!」

 君島が笑いながらそう言い、振り向いて原田に報告した。


「ねぇ!朱鷺ちゃんひどいんだよ!」

「何」

「朱鷺ちゃんこの子に、天龍に似てるねって言ったんだよ!ひどいよね!」

「天龍?源一郎?」

「僕は源一郎以外の天龍は知らないよ」

「似てないだろ?」

「ね!天龍って、」

「あんな三白眼じゃないし」

「髪はたしかに天」



「ケンチケ!」



「天龍、……え?」

「ケンチケ!」

「ケンチケ?」

「……誰、」

「あれ?」

「今の、お前か?」

「え?ケンチケ?」

「ケンチケ!」

「……え?」



 原田と君島が発声元を見下ろした。

 子供が右手を上げて、また口を開いた。




「ケンチケ」




 原田と君島は子供を見下ろしたまま、硬直した。


 二人が突然固まったので、朱鷺は怪訝に思い君島の腕をつついた。説明してよ、と。

 それに気付いた君島が、何を説明したらいいのか思いつかずにとりあえず手話で示した。


『ケンスケ』


 それを見た朱鷺が首を振って応えた。


『健介には似てないよ。天龍だよ』


 君島も首を振って、たどたどしく説明を試みる。


『この子が、今しゃべった。ケンスケって言ったの』

『ケンスケ?じゃ、ケンスケって名前なの?源一郎じゃないんだ?』



「ケ、ケンスケって、名前なの?この子」

 君島が原田に訊いた。

「……いや、そんな名前じゃなかった。たしかハルオとかヨシオとか、」

 原田は覚えてもいない。

「ハルオ?」

 君島が子供をそう呼んだが返事はない。

「ヨシオ?」

 子供を真っ直ぐ見てそう訊いても反応がない。



「ケンスケ?」

「あい!」

 君島の問いに、子供がいい返事をして右手を上げた。

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