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ARROGANT  作者: co
8年前2月
131/194

 いい家だな。

 敷地も広いし家屋もでかいし、さすがに若夫婦向けで若干スタイリッシュなデザインだが建材が上質なので安っぽくはない。

 なにしろここは地価の高い高級住宅街だから安物は目立ってしまう。朱鷺の実家の豪邸もこの近所だ。

 こんな物を新婚1年ももたずに別れるような息子に買い与える親ってのは一体どんな道楽者なんだろう。


 半月前に朱鷺に相談された中古物件を見上げて、原田はそんな感想を抱いた。

 取引のある不動産屋に相談すると、この一帯は土地自体が売りに出ることがほぼない稀少物件なので是非お世話させてくださいとの即答だった。

 朱鷺の母にそう伝えると、それじゃ先方にそうお伝えするわね、お庭の手入れぐらいはした方がいいのかしら?そういうことは原田君に頼めるの?と訊かれ、その程度は俺じゃなくても社長で充分手配できることですがと言おうと思ったが止めた。


 好みの家だったので、一回見てみたいと思ったから。


 そして見た感じ、やはり道楽者の家だと思った。

 シンプルなだけに増築しにくいデザインだというのに、内部も応用の効かない間取り。

 新婚で建てたはずなのに、なぜか家族が増える想定をしていない。

 二階の間取りは夫婦の寝室とそれぞれの個室とオーディオルームの4部屋。

 子供ができたら恐らく個室を子供部屋に充てるつもりなのだろうが、間違いなく揉めるだろう。

 まぁそれ以前に揉めて離婚しているわけだが。


 庭と言ってもたいしたものもない。多少落ち葉が積もって芝が伸びている程度だ。このあたりは緑地帯なので落ち葉は止むを得ないが、多少掃除をして芝ぐらい刈ればいいか。建物もまだ新しいので外壁を洗う必要も無い気がする。

 少人数の家族なら十分贅沢に暮らせる家だ。

 恐らくすぐに買い手が付くだろう。


 ……高いんだろうなぁ。


 最後にそんな感想を抱いて、原田は車に戻った。

 そしてそこから坂を上がったところにある朱鷺の実家に向かい、開けておいてもらった車用門を通る。

 落葉樹はすっかり葉を落とし、それでも冬木が緑を保ち小さな赤い実を付けている。季節毎に彩を変える花壇の横に車を停めた。

 玄関でチャイムを押すと朱鷺とパピヨンが出てきた。

「いたのか」

 と原田が言うと、ワン、と尻尾を振って応えた。


 そしてスリッパを用意されて案内されたのは、リビングではなくダイニング。

 ドアを開けて挨拶すると、朱鷺母はエプロン姿でトングを持ちオーブンを開いていた。

「わざわざありがとう、原田君。リビングじゃ寒いからこっちでいいわよね」

 そう笑って、原田の返事も聞かずに作業に戻った。

「リンゴをたくさんいただいたからアップルパイにしたんだけど、やっぱり多過ぎたわ」

 そう言いながら一つ皿に置いて、原田の前に持ってきた。

「どう?」

 上目使いで原田を見上げて、朱鷺母が訊いた。

「……卵黄が多いんじゃないですか?」

「やっぱりねー。少ないよりはいいかと思ったんだけど、多過ぎてもダメねー」

 原田の返事に朱鷺母はため息をついてそれをテーブルに置き、オーブンに戻って次の一つを皿に乗せて朱鷺の前に置いた。

「でも焼きたてだから美味しいわよ。原田君、コーヒーと紅茶とどっちがいい?」

「コーヒーをお願いします」

「朱鷺は?朱鷺も?そう。ちょっと待ってね」

 そしてまたキッチンに作業に戻った。


 料理中の暖かい室内に、甘く香ばしい香りが満ちている。

 原田が席に着くとパピヨンが尻尾を振って舌を垂らして見上げている。

 しょうがなく頷いてやると、飛び乗ってきた。

 なぜかわからないがこの飼い犬は初対面から原田を気に入っていて、家にいる間は纏わりつく。

 そして原田の膝に座って満足気に朱鷺に顔を向け、朱鷺はそんな飼い犬の様子に笑ってから立ち上がり、コーヒーの準備をしている母を手伝おうと背を向けるとパピヨンはただちに原田の膝から下りて朱鷺の元に走った。


 犬だけがワンワンとやかましい中、朱鷺と朱鷺母が饒舌な手で静かに賑やかに会話している。

 突然朱鷺母が振り向き、

「あらまぁ、そうなの?原田君」

 そう驚いた顔をされた。


 一体何の話をしているのやら。




 家庭や家族に縁のない年月が長いのでこれが標準なのかどうかも判断できないが、この温かく賑やかな空間は悪くないと原田は思っている。


 ただ、自分の物ではないし自分の空間ではないので、やはり気疲れはする。



 さらに言えば、君島の家族はこれに輪を掛けてやかましいので本当に疲れる。だから君島の実家に足を踏み入れたことは一度もない。

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