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ARROGANT  作者: co
8年前11月
123/194

 くしゅん、と子供がくしゃみをしたので、我に返った原田が慌てて当初の予定通りに、レジ袋の下両端を切って穴を開けタオルを股間に当ててレジ袋の穴に両足を通して持ち手の部分を腹で縛った。

 作業を終えて一息つき、改めてその子供の姿を眺めて、


 原田は膝を叩いて爆笑した。


 自分でやっておきながら腹の底から笑っている。

 こんな恰好の子供、見たことない。面白すぎる。

 上はギンガムチェックのブランケットに、下は赤いスーパーのロゴが入ったレジ袋が膨らんでいる。

 子供が小さくて3頭身ほどなので、まるで変な柄のミツバチのようだ。

 と思ったらさらに笑えた。


 そんなふうに自分を見て笑っている原田を見て、子供もぎこちなく笑顔になる。

 変なミツバチの子供が笑っているので、原田はさらに笑った。



 いやいや、面白いけどこいつを交番に連れて行かないとならないんだよな、と思い出し、最寄の交番の場所を思い出し、歩いて10分ぐらいだろうかと計算して、その道中も寒いから出る前にホットミルクでも飲ませるか、とまだ笑いながらキッチンに向かった。もちろん子供はついてきた。


 そしてマグカップに牛乳を入れてレンジに入れ、スイッチを押す。


 それを待つ間、いつものように換気扇を回してから引き出しに入れてあるたばことライターを取り出し、火を点けた。

 壁に寄り掛かり、煙を吐き、ふと下を見ると、




 笑っていた子供が表情を無くして、後ろに下がっていった。

 ずっと原田の後をちょこちょこと追い続けてきた子供が、初めて原田から離れようとしている。


 そしてその凍った表情で凝視しているのは、



 原田が指で挟んでいるタバコ。



 ああ、そうか。

 原田は瞬時にあの肌の斑点を思い出した。

 そうだった。と、すぐに点けたばかりのタバコを灰皿に押し付けた。


「悪かった。お前の前では吸わないよ」


 そう謝ってまた子供を見下ろしたが、子供はもう近寄ってこない。

 まぁ、あれだけの傷を負わされたのならそうかも知れない。



 この子供にとって、きっとタバコは凶器でしかない。



 原田はまだ完了の合図を鳴らさないレンジを開けて、そこそこ熱くなっているカップを取り出した。砂糖を適当にいれてスプーンで掻き回し、それを小さなダイニングテーブルまで持って行く。

 子供が離れてついてきた。

 そこで子供を振り向きそのサイズを見て、この椅子に座らせてもテーブルの上に頭が出る程度かと目算する。

 床がいいか、と部屋の隅に放り出してあるクッションを持ってきて子供を座らせ、しゃがんでカップを渡した。

 しかし子供がそれを落としそうになったので、しょうがなく原田も子供の横に座り、カップを子供の口につけてやる。

 一口ずつしか飲まないし、一度飲みこむたびに原田を見る。


 その潤んだ大きな目を見ていると、瀕死の小動物を保護したような気分になる。


 いや。

 瀕死のミツバチか。


 そう思い出して原田はまた吹き出した。

 その原田を見て、子供もまた笑った。



 身体の中から温まったせいか、子供の頬が赤くなってきた。瞼も重くなったように見える。

 何か掛けてやるか、と立ち上がってまた寝室に向かうと、気付いた子供が慌てて立ちあがって追ってきた。



 まるでカルガモの子のように俺を追ってくるこの子供が、一人でアンドレを追ってこんなところにまで来たんだろうか。

 ふとまたそんな疑問を覚える。

 子供の背中の斑点も見たから、少し違う理由も頭を掠める。



 逃げて来たんだろうか。



 そんなことを考えながら、クローゼットから色あせた赤いブルゾンを引っ張り出す。そして振り向き子供に被せる。当然大きすぎるサイズで、頭から被せても引き摺る程だ。このまま歩かせると躓いて転びそうなのでまた抱き上げて元のダイニングに連れて行く。

 そしてまたクッションに座らせると、ブルゾンで温かくなったせいで子供の瞼が閉じた。

 原田は横に座って徐々に子供の身体が倒れてくるのを見ていた。眠いのに寝たくないという子供の葛藤が面白かった。

 全然寝たくなかったのに、という悔しそうな顔のまま子供は寝入っている。原田の足を枕にして、顔を顰めて熟睡している。

 その頭が足から落ちそうになり、手で支えてやるが目を覚まさない。



 もう、いいかな。

 と原田は思った。



 寝ているうちに警察に連れて行こう。

 歩かせてもきっとついてくるだろうけど、抱いた方が早いだろう。

 すっかり夢の世界に入ったようで、子供の眉間から皺が消えていた。



 その小さな身体をゆっくりと抱き上げる。尻を持って起こさないように頭を押さえてその頬を自分の肩に付ける。



 いつの間にか、原田は上手く子供を抱けるようになっていた。

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