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≪。・゜(T◇T゜)゜・。≫
≪Noーwwwwwwww!。゜(T^T)゜。≫
≪ごめん健介!(T-T)≫
≪泣かせてゴメン!≫
≪犯人許せん!≫
≪可哀想すぎる・・・(;へ:)≫
涙を零す健介の頬を朱鷺が撫でて、ポケットから出したハンカチを目に当ててやる。
原田が席を立ち、健介の傍に向かう。
咲良が慌ててまた言葉を繋ぐ。
「ご、ごめんね、健介君。辛いことを、訊いて、」
健介も首を振って涙声で謝る。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ、健介君」
咲良にそう言われても健介は首を振った。
嘘を言ったから。
お母さんが死んだなんて、あの犯人がお母さんじゃないなんて、嘘を言ったから。
だから健介は咲良に謝っている。
嘘をついてごめんなさい。
嘘をついて泣いている息子の頭を抱いて、原田も心の中で謝る。
ごめんな。
本当の母親を母親じゃないなんて言わせてしまって。
確かにあの母親には母親の自覚も資格も権利も何もないのだけれど、健介にはその言葉を口にさせたくはなかった。どんな母親でも健介の母親には間違いないのだ。健介にそんな嘘をつかせたくはなかった。
すっかり俺のような、俺たちのような、嘘つきに育ててしまった。
ごめんな。
原田は心の中で健介に謝っている。
そして君島と言えば、この展開に感心していた。
全方向丸く収まってしまった。天才だな健介。と、心の中で喝采している。
もちろん健介が故意に論点をすり替えたのではない。きっと、父を助けたかっただけだ。健介がそういう子供だと君島は知っている。
自分と父が似ていない合理的な理由を自分なりに発見したから説得材料に持ち出したのだ。こんな偽知識をどこで得たか知らないが、父親だけでなく母親でも息子を産むという驚くべき事実は世間でも知る人間は多くはないと小学生は考えた。
みんなに納得してもらえる。自分と父が似ていない理由がちゃんとある。
本当は本当に血縁がないのだけれど、そうじゃない理由でも納得してもらえる。
小学生はそう考えた。そして、嘘をついた。
自分は犯人の子じゃない。父に似ていないのは父ではなく母から生まれたから。死んでしまった本当の母から生まれたから。
健介は父を助けるためにそんな嘘をついた。
しかし自発的に口にした嘘なのに、嘘をついているという事実とそしてその嘘の重さに、健介の小さな心は耐えられなくて涙を零している。実の母を母じゃないと断罪した悲しさに涙を零している。
そういう健介に、君島は感心している。
強くなったのだな。成長したのだな。そう感心している。
そんなふうに健介を眺めている君島の天使のように可愛い横顔に、またしても岩城が涙を零しながらも見惚れていた。
見惚れている自分にはっと気付いて、岩城は流れる涙を手で拭ってから君島に訴えた。
「あっ、秋ちゃん、秋ちゃんさん!なんで、なんで!」
突然呼ばれたので、君島が驚いて岩城に顔を向ける。
「なんなんですか!こんな子を!こんないい子を!」
「……え?」
「なんなんですか!秋ちゃんは一体、どういうことなんですか!」
「え?何が?」
岩城が一向に意味のある質問をしてくれないので君島が顔を顰めたが、次にはっきりと具体的に問われた。
ただ、君島に応えられる種類の質問ではなかった。
「どうして!どうして健介君のお母さんになってあげないんですか!」
君島は眉を潜めて首を掻き、顔を背けた。
そんな君島の態度を見て岩城が続ける。
「一緒に暮らしてるんですよね?今朝家にいましたもんね?秋ちゃんだって健介君可愛いんですよね?なんで結婚しないんですか?なんでお父さん独身なんですか?」
岩城が次に原田を指差した。
「秋ちゃんと結婚してたら、秋ちゃんがお母さんだったら、こんなに強くて優しくてきれいなお母さんがいたら、あんな犯人について行ったりしてないですよ!」
原田も頭を抱えて顔を背けた。
泣いていた健介も、今は俯いて笑みを噛み殺している。
朱鷺も手の中の携帯を操作しながら笑っている。
「確かに悪いのは一番悪いのは犯人だけど、この子の気持ちも、健介君の気持ちも考えると、お母さんが欲しかったっていう健介君の気持ち考えると、」
「岩城君」
咲良が笑いながら呼んだ。
「咲良さんもそう思いませんか!」
そんな咲良を振り向いて岩城が訴える。
君島はまだ首を掻きながら下から睨んだが、咲良はやはり悪魔のように微笑んで君島を見下ろし、はっきりと告げた。
「あのね、岩城君。秋ちゃんは、男性よ」
岩城が絶句した。
スタッフ全員固まった。
BBSもまた一瞬止まった。
直後、一斉に上がった。
≪嘘!≫
≪|)゜0゜(| ≫
≪∑( ̄ロ ̄|||)≫
≪男?!≫
≪( ゜ ▽ ゜ ;)エッ!!≫
≪マジ?(;゜ロ゜)≫
≪嘘ーーー!Σ(`д`ノ)ノ ≫