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ARROGANT  作者: co
翌木曜日
115/194

27



≪誰?≫

≪子供≫

≪誘拐された子?≫

≪息子?≫

≪子供もいる?≫

≪息子じゃないって?≫

≪父さんの子供じゃない?≫

≪どゆこと?≫

≪パパの子じゃない?≫

≪やっぱあの犯人の子?≫

≪てか、パパの子じゃないって何?≫




 そしてやはり、放送事故回避のために言葉を繋いだのは咲良。


「え、えっと、実はその、ここには秋ちゃんとお父さんだけでなく、健介君も来てます」

 今度はさすがに岩城も歓声を上げられない。


「健介君、今の、その、お父さんの子供じゃないって、言うのは、」

 そして言葉を繋いだものの狼狽えてしまっている咲良も、子供相手に適切な質問を見つけ出すことができない。


 原田も君島も呼吸すら忘れているが、かろうじて君島が健介の名を呼んだ。

 しかしその声も、続く健介の叫びに消された。




「あのね!僕、父さんには似てないの!だって僕父さんの子供じゃないの!僕、父さんから生まれたんじゃないの!」




 全員再び息を呑んだ。


 原田だけは、ん?と眉を顰めた。


 朱鷺は携帯の横に肘をついて、健介を見詰めている。


 健介は一つ頷いてから、自らの説を唱えた。





「あのね、僕、父さんから生まれたんじゃないんだ。お母さんから生まれたの。僕知らなかったけど、男でもお母さんから生まれるんだって。男はお父さんしか産めないと思ったんだけど、お母さんでも産むんだって。僕はお母さんから生まれた男だからお母さんに似てるんだよ。父さんから生まれたらきっと父さんに似てたと思うんだけど、違うからね。僕お母さん生まれの男だから父さんには似てないの。僕も最近、わかったんだ」






≪NOーwwwwwwww!≫

≪_(T▽T)ノ彡☆≫

≪間違ってる!性教育を間違えてる!≫

≪可愛すぎるー!≫

≪無邪気すぎるー!≫

≪(≧∀≦*)≫

≪俺も子供の頃そう思ってた!≫

≪いい!この汚れなさが泣ける!≫

≪このまま汚い大人にならないでいて欲しい!≫





 スタジオでは全員テーブルに伏せて頭を抱えていた。

 原田以外は全員笑いを堪えられなくて口を開けない。


 原田は、健介をじっと見ていた。


 お前はまだそんなことを言ってるの?本気でそう言ってるのか?


 原田はそんなことを考えている。




 そしてやはり放送事故回避のために咲良が口を開く。

「……そ、そうなの、ね。お父さんから生まれてないから、健介君はあまりお父さんに、似てな、……」

 しかし笑ってしまって口を開いても放送事故に近い。

 なんとかしようと、考え無しに言葉を繋いだ。

「きっと、お母さんに似てるのね。健介君の、お母さんは?」



 健介が咲良を真っ直ぐ見て、応えた。




「お母さんは、僕が小さい頃に死んだの」




 君島がその言葉に、顔を上げた。

 原田は健介をじっと見詰めたまま。



 自分たちが長い間信じ込ませていた偽りのストーリーを、健介自身が嘘だと知っているストーリーを、口にしている。

 あの犯人を母だと知っているのに、嘘を口にしている。

 自分の母は死んだと自ら嘘を言っている。


 自分を捨てた母は、母ではないと健介自身が断罪している。




 咲良も笑顔を引っ込めて、さらに訊いた。




「そう、なの。そう。あの犯人は、お母さんじゃないのね?」


「違うよ」


「そうなの。ちょっとね、健介君と顔が似てるかなって、思ったからね、」


「そうだね」

 咲良の言葉に、健介が笑った。





「僕も、似てるって思った」



「似てるって思ったからね、」





 その言葉の最後が震え、笑っている目尻から大粒の涙が零れ、そして健介はそのまま唇を噛んだ。




 笑っていたスタッフ全員が、一斉に衝撃を受けた。

 そして一斉に涙を落とした。




 お母さんに似ていたから、幼い頃に死別した母に似ていたから、この子は犯人を慕った。




 健介の一つの嘘と短い言葉と大粒の涙は、容易にその解釈を導いた。




 大人たちは全員、誤解した。

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