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ARROGANT  作者: co
翌木曜日
114/194

26

 そして、ため息を一つついてから椅子に座り直し、テーブルの上にある小型のマイクスタンドを岩城が向けたので、原田はそれに手を添え、口を開いた。



「この度は息子の為に多大なるご尽力をいただき感謝の念に堪えません。みなさまのご協力の下でこのように無事に取り戻すことができました。厚く御礼申し上げたい所存でおりましたところこのような機会に恵まれて誠に、」

「スト―――ップ!」


 咲良が原田の悠長な挨拶を遮断した。


「時間がないので失礼ながら謝辞はこのくらいで切り上げていただいて、大事なことを色々と訊いてみたいと思います!」

「わ―――!」

 と、また岩城が拍手の上歓声を上げる。




≪パパ声渋!(〃д〃)≫

≪流暢なご挨拶!(≧∇≦)≫

≪大人だなぁ~(*´ェ`*)≫

≪(ノ ̄〓 ̄)ノ ちゅ~≫




 なんなんだよ、と再び原田が頬杖をつくと、咲良がいきなり核心を抉る質問を口にした。




「まずお訊きしたいのはですねお父さん。そもそも、犯人のあの女は、お父さんの元奥さんなんですか?」

「は?」

「咲良ちゃーん!その話は僕が説明しまーす!」




 原田の素っ頓狂な返事に被せて、君島が声を張った。




≪咲良さん、すげー突っ込み!≫

≪それ訊きたい!≫

≪てか、応えたの誰?≫

≪秋ちゃん?≫

≪僕って言った?≫

≪秋ちゃん、僕っこ?≫

≪可愛い!(*^・^*)≫





 君島が原田の前にあるマイクを掴んで引き寄せ、咲良を見ながら説明した。


「テレビや新聞やネットでどう言われてるのか正直よく知らないけど、事件の真相はとてもシンプルです。健介は身代金目的で赤の他人に自宅から連れ去れた。僕たちが警察やラジオの力を借りて取り戻した。たったそれだけです」

「でも秋ちゃん、同級生の子の証言があったわよね?犯人はお母さんだって」

「嘘だって言ってたでしょ?今朝彼がわざわざ登校前に長い坂道を登ってテレビにそう訴えに来たんだよ。10歳の子がたった一人でカメラの前でそう言ったんだよ。そんな子の言葉にいい大人が何を言えるの?」

「それは証拠にならないじゃない。子供が言ったから本当だなんて言えないでしょ?」

「誰が何を言ったって犯人は健介と何の関わりもないんだ。関わりがないことを世間に証明する必要があるとは僕は思わないよ」

「はっきり言わないからいつまでも騒ぎが収まらないんじゃないの?」





≪すげーっ!≫

≪咲良さん容赦ない!≫

≪秋ちゃんの切り返しもお見事!≫

≪しかしどっちが事実?≫

≪お母さんだろ。あんだけ似てたら親子だろ≫

≪パパ分が悪いね≫

≪隠さなくてもいいのにね?≫





「騒ぎが収まらない?僕らが騒いでいるんじゃないよね?僕らは完全な事件被害者でしかないのに、どうしてこんなに日常生活に支障をきたすほどの攻撃をメディアから受けなきゃならないの?僕らにとってはまだ事件が続いている気分だよ。いつになったらこの攻撃が止むの?」


 そう言って、君島は咲良だけでなく調整室のスタッフにも目を向けた。


「皆さんには本当に感謝してます。警察のみなさんにもここのラジオのスタッフのみなさんにもあの日高速で健介のために車を止めてくれた人たちにも、僕たちは本当に本当に感謝してます。できれば、僕たちはこの事件をこのみなさんへの感謝で終えたいと思ってます。怒りや恨みに変えたくないと思ってます」



 君島が言葉を終えて、咲良も言葉に詰まり、少しの間沈黙した。

 そしてやはり咲良が繋ぐ。


「……そう、ね。そうよね。ただの、被害者なんだもんね。確かに騒いでるのは周りだもんね」




 そんな応酬を、原田は腕を組んでじっと聞いている。

 当然ながら、ここまでのやり取りは原田には一切理解不能。

 とりあえず犯人のあの女、つまり健介の母親と自分が、元夫婦だったという疑いが掛けられているらしいことは咲良の質問でわかった。しかし一体どうしてそんなことになったのかは分からない。全くわからないので、口を開くことも控えている。


 そんな原田に向き直って、咲良が言った。



「世間では、噂では、警察発表が嘘だと流布されてます。真実はあの犯人の女とお父さんが元夫婦で、離婚後お父さんが子供を引き取って会わせてくれなかったから思い余って誘拐した。その説が一番有力なんです。そうではないんですね?」

「……え?ああ、はい。違います」

「間違いないですよね?この噂が一番有力なのは、こう言うのもちょっと躊躇うんですけど、……あまりにね、犯人と健介君が似ていて、お父さんには全然似てないからなんです」


「咲良ちゃん、あのね、健介はまだ10歳の子供なんだよ。まだまだこれから顔も変わるしね、」


 咲良の暴論に君島が速攻で反論したのだが、その声に被せるように、高い声が響いた。





「あのね!僕ね!父さんに似てないの!だってそれはしょうがないの!」





 健介が立ち上がって叫んでいた。

 少し顔を赤くして、健介は続けた。





「あのね、だって僕、父さんの子供じゃないんだ」





 原田と君島は、息を呑んで健介を凝視した。

 咲良と岩城と調整室のスタッフは全員、その衝撃の告白に硬直して絶句した。



 BBSも、一瞬止まった。

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