24
≪現場がピンチでスタジオもパニック!そんなことになってたんだな!≫
≪ラジオだと見えないからねー≫
≪あのパパが跪いたって!萌!≫
≪見たい!誰か動画上げて!≫
≪しゃがんで子供抱いてたのはあった≫
≪「おいで」するパパが見たい!≫
≪誰か動画!≫
≪ないんだろー。あったらとっくに上がってるハズ≫
≪つーか、今見てんじゃね?≫
≪スタジオで≫
≪そんな感じだよねー≫
≪だよね!岩城が撮ったね!≫
≪岩城GJ!≫
≪見たいwww!≫
≪パーカーwww!≫
≪って、誰情報?≫
画面は依然原田のアップのままで、静物のように表情すら動かない。
相変わらず動いているのはひらひらと落ちてくる雪のみ。
じきに、静物風だった原田が瞬きをしてわずかに眉を顰めた。
その後、ふわりと微笑んだ。
机に両肘をついて頭を抱えている原田以外の全員、前のめりに映像に食いついている。映画のワンシーンのように美しい様なのだ。
咲良だけは、なんとか放送事故を避けようと言葉を繋げる。
『それで、お父さんがパーカーは?と訊いた後は、少年はお父さんのところに歩いて行くんですね?』
『あ、あ、はい。その後はそうです』
『安心したんでしょうね』
『何か会話しながら、近づいて行きましたよ』
画面では、笑う原田がまた何か短く言葉を口にした。
さすがの朱鷺もしっかりとは読み切れず、健介に確認してまた笑い、君島に伝える。君島がそれを咲良に伝える。また咲良が笑みを噛み殺して報告する。
『はい。この時の会話が判明しました。あの電話、警察じゃなかったよ、だそうです』
『なんすか、それ?』
『高速にあるあの緊急電話、あれをお父さんは少年に、警察に繋がるって教えていたそうです』
『あれ?あれって警察に繋がるんじゃないんですか?』
『ねー!そう思うわよねー!違ったのね』
『それでも繋がったんですよね?』
『そう。だから秋ちゃんにも伝わって、私に連絡が来たんだから』
『結果的に間違いじゃなかったんだね』
『そうよね』
≪絶対動画あるな≫
≪動画見ながらやってるな≫
≪見てるな≫
≪てか、誰かいるんじゃね?≫
≪誰かいるな?≫
≪誰?≫
≪パパ。絶対パパスタジオにいる≫
≪だな。パパしか知らない情報だもんな。さっきから≫
≪スタジオにカメラねーのか!≫
≪つーか、いるならパパしゃべれ!≫
≪いるわけねーだろwww≫
そして画面では、原田が健介を掴まえて抱き締めた。
健介の腕が原田の首に回り、原田の肩に顔を埋めて泣き出した。
徐々に、車の内外の人々が手を叩きだす。
それが広がり、大きな音になっていく。
その音がスタジオのマイクに拾われた。
≪何の音?≫
≪ノイズ?≫
≪雨?≫
≪拍手。動画の≫
≪高速の!≫
≪パパが子供掴まえた所か!≫
≪やっぱ見てる!≫
『そして、テレビでも散々流れていた通りに少年はお父さんに保護されて、無事解決しました。この放送もほとんど事故並みに混乱しましたけど、裏ではそんなことになってました』
『あの時はリスナーのみなさんに何の説明もできなくて、今日まで待たせてしまってごめんなさい』
咲良がそろそろまとめに入ろうとしていたが、突然画面の音声が大きくなり言葉を遮られた。
室内に響いたのは、レディ・ガガ。
≪動画もフィニッシュだな≫
≪やっぱ見てる!≫
≪エンディングテーマwww≫
≪ガガ様≫
≪この時パパ睨むよな?≫
≪睨む≫
≪怒った≫
≪なんで?≫
≪理由不明≫
≪あれだけは不可解≫
健介を抱いて立ち上がっている原田が、再びアップになっている。
だから怒りに変った表情もはっきり映っている。
テレビで流されたどの映像よりも、大きくはっきりと映っている。
原田はその自分の表情を、頬杖をついて顔を顰めて眺めている。
他はみな、画面に釘付けだった。
やはり咲良が言葉を繋ごうと口を開いたが、ほぼ同時に岩城も口を開いた。
「……なんで、こんな顔してんですかね?」
「ね。なんでだろうね?」
君島が不用意に相槌を打った。
≪え?≫
≪何?≫
≪誰?≫
≪今の声≫
≪咲良さん?≫
≪違う≫
≪誰?≫
≪ゲスト?≫
≪パパ?≫
≪違うだろ≫
「何か腹立つことでもあったの?」
君島が原田に顔を向けた。
「……いや、別に」
原田も不用意に返事をした。
≪誰!≫
≪パパ?≫
≪パパだな?≫
≪パパだよwwwww≫
≪これって生だよな?≫
≪パパと誰!≫
≪秋ちゃん!≫
≪マジ?≫
≪秋ちゃんとパパwwww≫
≪いるのかよ!∑(゜ロ゜ノ)ノ≫