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ARROGANT  作者: co
翌木曜日
110/194

22

『こんばんはー!咲良のサンデーフロースペシャル版、サーズデーフローでーす!木曜日になっちゃいましたね!早いですね、あれからもう月火水木、四日も経ちました!

 みなさんにお約束していた通り、あの日曜日の放送の大反省会を生でお届けします!スペシャルゲストはバイトスタッフの岩城君!岩城君どうぞ!』

『え?あれ?俺?あ、はい、岩城です!え?ど、どうしたらいいんですか?』

『この慌て者のバイト君が、あの日あの大渋滞に巻き込まれてたんです!そのせいであんな放送になりました!これからあの日のあの場面を振り返ります!』


 マイクを切り、オープニングテーマが再度大きくなる。

 ホームページのリスナーBBSには一斉に書き込みが上がった。



≪待ってましたーwww≫

≪日曜日、生で聞いてましたよ!≫

≪サクラさん無事ですかー?≫

≪wkwk!≫

≪イワキ君って誰?≫



 マイクを入れる前に咲良が打ち合わせをする。

「岩城君、持ってきたデータ、時間どのくらいかな?」

「えーっと、20分……30分ぐらい」

「結構あるね」

「飛ばせる部分もあります」

「そっか」


 そしてマイクを入れる。


『それでは、いきなり始めます。1時間でなんとか終らせたいので、飛ばしますよ。ついてきてね!』

 再生します?と岩城がコントローラーを示したが、咲良が首を振った。


『まずは、あの日の番組直前のことね。私、本番だっていうのに携帯の電源を切ってなかったのね。たまにやるんだけど、それが鳴ってね。でもスタート直前だし出ないで切ろうと思ったの。だけど、みんなきっとテレビで知ってると思うけど、相手が秋ちゃんだったのね。だから出たの。出てすぐ切ろうと思ったの。そしたらあんな話よ』

『本当に番組の直前も直前で、秋ちゃんの話を聞いただけで返事もできないうちにスタッフに怒られて携帯切って、それですぐにオープニングで』

『本当に本当に、どうしようかと思って、秋ちゃんの頼みを聞くってことは番組一つ潰すってことだから、この番組は私だけの物じゃないからね、すごく迷った』


 咲良が唇を尖らせて、隣に座る君島を睨んだ。

 君島は微笑み、上目使いで手を立てて謝った。ごめんね。


『でも、秋ちゃんが言ってることだし、嘘ではないと思ったの。嘘ではないとしたら、あんな寒い夜に子供が一人で高速を走ってるなんて、危なすぎるでしょ?可哀想でしょ?だから番組潰すことにしたの。番組潰してでも、手助けできたらと思ったの』

『それで、本当はここであの時の放送を頭から流して振り返りたいところですが、時間がないのでずーっと飛ばします。みんなあの時もあの後にテレビでも聞いてると思うし』


 そこで、咲良がディスプレイを指差して岩城に目を向けて、映像を再生するように頼んだ。


『話はあそこから。お父さんが現場に到着して、やっと二人が出会うところ。この場面にさっき紹介した岩城君がたまたま遭遇しました。あの時のこと教えてくれる?』

『え、あ、はい。はい。てか、何から?』

『岩城君はたまたまあそこで渋滞にハマって、たまたま私のラジオを聞いていて、すぐに車を降りて子供とお父さんのところに行ったのね?』

『そ、そうです、そうです。もう全然渋滞で動かなくなってましたから、でも車は一応路肩に停めてカメラ持って携帯持って走りました!』

『そうなのね』


 ディスプレイでは、原田と健介が向かい合っている場面まで進んでいる。


『子供追ってた車も路肩に停まってて、それに被さるようにダンプも斜めに停まってて、それを避けて子供がいる場所まで走りました』

『行ったらもうお父さんも車降りて、子供も歩み寄ってるし、この後抱き合ってめでたしめでたしだとばっかり思ったから安心してたのに、あの声ですよ!』

 咲良が手の平を向けて岩城の言葉を止めた。


『あんな緊迫した場面ですから全て完璧にはできません。悪意がなくても上手く噛み合わないことがあります。あの時、なにげないたった一言で、少年の心が凍ってしまいました』



 ディスプレイでは、健介が後ずさりを始めた。



『ラジオでしゃべってた私もわからなかったし、これまでテレビなんかでも全然報道してないけど、現場ではこの時ピンチだったんです』

『少年が、せっかく駆け付けたお父さんからどんどんと離れて行ってしまったんです』

『実を言うとここのスタジオもパニックでした。電話もメールも書き込みも殺到してパンク状態でなおさら現場の様子が分からなくて、どうしようもなかった』

『私はしゃべるのが仕事だからこの後も何か繋げようとしたんだけど、ディレクターに止められました。現場にいる岩城君からの連絡が届いて、放送止めろって言ってたのよ』

『あの時のこと教えて。何があったの?岩城君』


『え、ええ、あの、はい。あの声で、子供が下がり始めて、いや、理由はちゃんとはわからなかったけどあの声で下がり始めたから、もうこれ以上聞かせないでやって欲しいって思ってディレクターにそう言いました。だって現場のカーラジオの音を車全部回って下げることなんかできないでしょ?だから、できればもう放送中断してくれって言いました』

『すごいこと言うでしょ?5秒沈黙しても放送事故だって言われるのに。でもディレクターがそれに近いことをする決断をしました。生で聞いてた人は知ってるよね?』

『突然トーク切って、突然クラシック流しました。あれは岩城君のリクエストだったのね?』

『リクエストっていうか、中断できないならせめて軽くて優しくて綺麗なインストを流してくれって頼みました』

『そして、リストの愛の夢を流しました。しかもボリュームを絞ってね』

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