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「この後、子供がお父さんから離れて後ろに下がって行くんです。ほら、これ」
岩城が画面を指し示す。その指先で健介が一歩下がった。
咲良もそれを見ながら説明を続ける。
「実はこの直後、ここも電話やサイトへの書き込みが殺到してパンク状態になったんです。
当然こちらでは現場の状況は全くわからないですし、殺到してる苦情の内容がさっきの彼の不用意な発言に対してでしたから、私が謝罪すべきかと本当に口を開いたところで岩城君の電話が繋がって、」
「現場で車降りた時から電話してたんですけど、番組の番号がまるで繋がんなくて、だから別のバイトに連絡つけてそいつにスタジオに走ってもらって、直前にやっとディレクターに話できて、とにかく今の男の電話は切ってくれって、できれば音を立てないでくれって頼んだんです」
「無理でしょ?ラジオなのに。でもね、ディレクターがトークを切るって言ったの。子供を助けるために番組潰してるんだからどうせ一緒だって」
「それでも無音の放送はできないっていうから、それなら軽くて綺麗で優しいインストを流してくれって頼んだんです。それで、」
二人が掛け合いのようにそこまで捲し立てたが、君島が手を叩いて「あ、」と声を漏らしたのでそこで途切れた。
そして君島が続けた。
「それが、愛の夢」
「ああ。あれ愛の夢って曲なんだ?ぴったりだったね」
岩城が笑った。
「悪い!もう時間だ!」
ディレクターがPCの画面を止め、咲良を向いた。
「どうする?咲良」
「この続き、ここでご覧になりませんか?」
咲良が振り向き、四人に向かって言った。
「本当はこの映像を編集してざっくりと台本作って総括の番組を始める予定だったんですけど、届いたばかりなのでぶっつけで見ながらしゃべることになります。現場にいた岩城君にも出演してもらいます」
「え!俺?まじすか!DJデビューすか!」
「ラジオだからこの映像はリスナーには見えないでしょ。説明して欲しいの。それを、もしよかったらここで見ていきませんか?」
咲良の提案に君島が返す。
「それって、出演交渉?」
ディレクターが応えた。
「できれば正式に出演していただきたいのですが、突然ですからご無理は言えません。
放送で紹介はいたしませんので最後まで黙ってていただいて構いません。もし何かおっしゃりたいこと等があれば、マイクはここに用意してます。
最後までただこの映像をご覧になって帰っていただいても一向に構いません。いかがですか?」
どうする?と君島が原田を振り返り、原田は腕組みをして首を傾げたが、朱鷺がまったくお構いなしにさっさと椅子に座って満面の笑みを浮かべて二人を見上げた。続いて健介もその隣に座って同じ様に満面の笑みを浮かべた。
「何?見たいのか?」
原田の質問に微笑む朱鷺が大きく頷いた。健介も頷いた。
「それなら!そうと決まったなら、Cスタの大型ディスプレイここに持ってこれるだろ?あれで再生させよう!」
ディレクターが大声で指示してドアを開けた。
「時間に間に合いません!」
隣の調整室から声が聞こえる。
「咲良が繋ぐよ!始めろ!」
中や外や隣がバタバタし始めた。四人はとりあえず邪魔にならないようにじっと固まっていた。
スタジオのドアが開いたまま、調整室からカウントダウンの声が聞こえ、とうとうオープニングテーマが流れた。