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「それで、君島さんでもそのDJとはまだ連絡がつきませんか?」
そう訊かれて、ちらりと君島が刑事を見上げて、応えた。
「……この後、会います」
「え!どこで?」
「ちょっとね、お礼を言うだけです。本当は一人で行くつもりだったんだけど、ついでだしみんなで行けばいいかなって、」
「え?みんなで?俺も?」
「俺もじゃないでしょ!浩一がお礼を言うべきでしょ!」
「僕も?」
「健介も。当然」
「あ、さてはさっきのせんべい二つ買ったのはそのためか?」
「へへー」
「うわ。俺、橘に持って行くんだと思ってた。もう一つ買わないと」
「えー。朱鷺ちゃんの家はまた別の物買おうよ」
「朱鷺ちゃん、何がいい?スイーツがいいって!洋菓子系がいいって!」
「あー、僕もそっちがいいと思うなー。駅前のデパートに新しいテナントが入ったらしくてさー、」
「君島さん」
世間話を始めた勝手な家族に向かって宮下刑事が声を張った。
「自分も同行してかまいませんか?」
「ダメです」
君島が即答した。
「今日このあと、あの放送の総括をするそうです。その特番を組んでいるそうです。それが終われば色々と落ち着くと思いますから、調書はその後にお願いできませんか?」
君島の意外に理論的な提案に、渋々と刑事が頷いた。
「じゃあそろそろ、」
原田がそう言って立ち上がろうとした。
その原田を、榎本が呼び止めた。
「浩一君」
原田が、ちらりと目を向けた。
「君は、」
優しい眼差しで見上げる榎本に、原田が突き刺すような視線を浴びせる。
その視線を受けたまま榎本が言った。
「……大きくなったね。原田の背を越えてるだろうね」
まるで子供に話し掛けるような言葉を口にして、榎本は眩しそうに目を細める。
原田が目を逸らしたのに榎本は続ける。
「小さい頃からよく似ていたけど、やっぱりそっくりに育った。なにより声がそっくりで、」
そこで榎本は、言葉を切った。
原田は目を伏せたまま。
それからまた、榎本が口を開いた。
「たまには、横浜に帰っているのか?」
原田が、ふと口だけで笑み、初めて応えた。
「帰る場所なんか、ないですから」
「山口は待ってるぞ」
榎本はそう言った。
原田は、笑んだままもう応えなかった。
榎本もそれ以上続けなかった。
「健介。荷物はこっちだね?手分けして持っていこう」
君島が立ち上がって健介の肩を抱いて奥のテーブルに向かった。
原田も立ち上がってそれに続いた。
「教科書とか全部あるの?」
「あると思うよ。なかったらどうしよう?」
「なかったらどうしたらいいんですか?」
君島が刑事を振り向いた。
「ああ、確認できたら連絡してください。探してみますので」
「はい。お願いします」
無言のままランドセルやバッグを持ち上げる原田に目を向けず、君島は健介や刑事と会話を続けながら、朱鷺にも荷物を数点預けた。
山口というのが横浜で事務所を開いている弁護士で、榎本同様原田の亡父の親友で、原田の個人資産を管理しているということを君島は知っている。
君島がそれを知っているということを、原田は知らない。