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ARROGANT  作者: co
翌木曜日
105/194

17

「それで、君島さんでもそのDJとはまだ連絡がつきませんか?」


 そう訊かれて、ちらりと君島が刑事を見上げて、応えた。


「……この後、会います」


「え!どこで?」

「ちょっとね、お礼を言うだけです。本当は一人で行くつもりだったんだけど、ついでだしみんなで行けばいいかなって、」

「え?みんなで?俺も?」

「俺もじゃないでしょ!浩一がお礼を言うべきでしょ!」

「僕も?」

「健介も。当然」

「あ、さてはさっきのせんべい二つ買ったのはそのためか?」

「へへー」

「うわ。俺、橘に持って行くんだと思ってた。もう一つ買わないと」

「えー。朱鷺ちゃんの家はまた別の物買おうよ」

「朱鷺ちゃん、何がいい?スイーツがいいって!洋菓子系がいいって!」

「あー、僕もそっちがいいと思うなー。駅前のデパートに新しいテナントが入ったらしくてさー、」


「君島さん」

 世間話を始めた勝手な家族に向かって宮下刑事が声を張った。

「自分も同行してかまいませんか?」

「ダメです」

 君島が即答した。



「今日このあと、あの放送の総括をするそうです。その特番を組んでいるそうです。それが終われば色々と落ち着くと思いますから、調書はその後にお願いできませんか?」



 君島の意外に理論的な提案に、渋々と刑事が頷いた。



「じゃあそろそろ、」

 原田がそう言って立ち上がろうとした。

 その原田を、榎本が呼び止めた。



「浩一君」




 原田が、ちらりと目を向けた。




「君は、」




 優しい眼差しで見上げる榎本に、原田が突き刺すような視線を浴びせる。

 その視線を受けたまま榎本が言った。




「……大きくなったね。原田の背を越えてるだろうね」




 まるで子供に話し掛けるような言葉を口にして、榎本は眩しそうに目を細める。

 原田が目を逸らしたのに榎本は続ける。




「小さい頃からよく似ていたけど、やっぱりそっくりに育った。なにより声がそっくりで、」




 そこで榎本は、言葉を切った。

 原田は目を伏せたまま。


 それからまた、榎本が口を開いた。




「たまには、横浜に帰っているのか?」




 原田が、ふと口だけで笑み、初めて応えた。




「帰る場所なんか、ないですから」



「山口は待ってるぞ」




 榎本はそう言った。


 原田は、笑んだままもう応えなかった。


 榎本もそれ以上続けなかった。




「健介。荷物はこっちだね?手分けして持っていこう」

 君島が立ち上がって健介の肩を抱いて奥のテーブルに向かった。

 原田も立ち上がってそれに続いた。

「教科書とか全部あるの?」

「あると思うよ。なかったらどうしよう?」

「なかったらどうしたらいいんですか?」

 君島が刑事を振り向いた。

「ああ、確認できたら連絡してください。探してみますので」

「はい。お願いします」


 無言のままランドセルやバッグを持ち上げる原田に目を向けず、君島は健介や刑事と会話を続けながら、朱鷺にも荷物を数点預けた。



 山口というのが横浜で事務所を開いている弁護士で、榎本同様原田の亡父の親友で、原田の個人資産を管理しているということを君島は知っている。



 君島がそれを知っているということを、原田は知らない。

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