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ARROGANT  作者: co
翌木曜日
101/194

13

 とりあえず朱鷺が持ってきたお重を少し摘まんでから、原田は自分の部屋に着替えに戻った。

 部屋に入るとベッドが小さく盛り上がっていることに気付く。

 猫の大きさだ。

 横に座って布団をめくってやると、猫は起きて頭を振った。

 そして原田に目を向けることもなく、怒ったような顔のまま前足を伸ばして原田の膝に登り、そのまま何度か足踏みしてからそこに丸くなった。

 猫の体温で膝が暖かくなる。

 お前の相手をしている時間は無いんだけどな、と見下ろしていると、前足で太ももを揉み始めた。

 子猫が母乳を求める仕草。


 多分、あまりに小さい頃に母から離されたせいで、マックスはいつまでもこの動作を止めない。母猫の元で育つ子猫は時期になれば母に鉄拳制裁を食らい、乳離れをする。

 しかしマックスを立派な大人猫に躾ける母がこの家にはいない。

 人間では、正しい猫の躾ができない。

 きちんとした躾を受けないままマックスは大人になった。


 どうなんだろうな。お前はそんなうちに来て幸せなのか?

 そう考えながら見下ろしているが、マックスは満足気に目を閉じて一心に原田の足を揉んでいる。


 ……どー見ても、幸せそうだ。


 原田は笑った。

 笑ってから、あれ?と気付いた。



「……お前、いつの間に帰ってきたんだ?」



 もちろん満足して原田を揉んでいるマックスは返事をしない。

 そんなマックスを抱き上げて、階下のベッドに連れて行った。

 着替えた後は毛が付くので抱けなくなるから。

 そしてダイニングの赤いベッドに下すと、マックスはその中の毛布をまた揉み始めた。



 部屋に戻り、原田はスーツに着替える。

 ダークグリーンのジャケットにダークブルーのネクタイ。

 原田はダークスーツしか持っていない。軽い色のスーツを着る勇気がない。ただでさえでかい自分が膨張するような気がしている。だから猫の毛が付くと目立つ。

 そして黒のコートをハンガーから外して階下に降りた。



「え。ほんなひゃんとひた格好?」

 ダイニングで君島が唇を何かの脂で光らせて何かを噛みながら、そんなことを言う。

「警察には世話になったからな。手土産どうする?」

「手土産!そんなのいるんだ?そっかー!かっこいー!」

「何がいいと思う?朱鷺」

 君島では話にならないと判断した原田が朱鷺に訊いた。

『うちではお礼お詫びの場合の手土産最上級品は、ゴールドの缶のおせんべいに決まってるよ』

 健介にそれを通訳してもらい、なんとなく商品に目星をつけて原田は頷いた。

「街の通り沿いに路面店がある。そこに寄ってから県警に行くか」


 そして四人で車に乗る。

 運転席に座って、シートの位置が動いていることに気付いて原田は首を傾げる。ただ、自分が何日か寝ていた事実は了解しているので、何があったか一々訊くのが面倒だ。

 何も訊かずに位置を戻してエンジンを掛けた。



 せんべい屋に行くまでに、原田が寝ている間に起きた出来事を君島に説明させた。


「高速で動画撮られてたの知ってる?知らないよね?てか何にも知らないよね?そういえば新聞の写真も見てないんじゃない?病院でも撮られてたのも知らないよね?」

「知らないって。何も知らないから説明しろって言ってんだろ」

「あ。偉そうだな。でも聞いたらびびっちゃうよ。高速で撮られた動画が毎日全国放送されてたんだよ。びっくりでしょ」

「その、さっきから言ってる高速の動画ってそもそも何なんだ?」

「なぁ~に言ってんの?!基本中の基本でしょ!ほら、健介がSAで逃げて路肩逆走して浩一が覆面で迎えにいったでしょ?」

「……あぁ、」

「それを録画してた人が大勢いたんだ。それをテレビに送った人も結構いるんだ」

「…………」

「あのね!あのね!朱鷺ちゃんが、ネットにはそれ以上に上がってるって!」

 朱鷺に通訳していた健介が挟まった。

「そうだろうね。ネットにはそれ以上の動画や写真が上がってるだろうね」

「でね!毎日すっごいアクセス数なんだって!コメントもパンク状態だって!」

「コメント?」

「パパかっけー!とかだって」

「…………」

「パパって浩一のことだよ。わかってる?」

「……いや、わからない」

「わかんないの?じゃ今までの説明、全然わかってないんじゃない?」

「全っ然、わからない」

「ダメじゃん」

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