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ARROGANT  作者: co
水曜日
10/194

 翌朝、健介は父と口をきかなかった。

 わざと遅くまでベッドの中にいて、寝坊した振りをして慌てて準備をして慌てて家を出たのだ。

 父の、車に気を付けろよ、という声だけを聞いた。


 そして集合場所に集まる友達に質問攻めにあった。


「やっぱお母さんだっただろ!」

「そっくりだもんな」

「オレのおかげだぞ!」

「そんで、どーすんの?」


「お父さんはなんて言ってるの?」

 となりのクラスの美少女杏ちゃんに訊かれた。

「父さんには、お母さん会ってない」

 杏ちゃんの質問には答えた。


「そうなのね。そういうことって多いから。お母さん、きっと怖いのよね」


 怖い

 確かにお母さんはそう言っていた。


「お母さんの味方、してあげてね。健介君」


 杏ちゃんが、小首を傾げて訴えた。

 健介は唇を噛んで頷いた。





 授業を終えて放課後になり、健介は約束のグラウンドまで走る。 

 昨日と同じベンチで、お母さんは待っていた。

 今日は笑って、健介を迎えた。

 おかえり、と。


 そして手を繋ぎ、二人で笑いながらバス停に向かった。



 それを、翼と拓海が尾行している。


「やっぱあいつ、お母さんのとこに行っちゃうんだな」

「そりゃそうでしょー。ママでしょー。普通」

「そうか?オレはとーちゃんの方が好きだけどな」

「最初っから両方いるなら選べるけどさー。健介はあの父さんしかいなかったわけだし」

「あー。確かにあの父さんだとオレもムリ」

「おまけにあんな美人が一緒に住んでるし」

「てかあの美人、おっさんなんだろ?オレそれもムリ!」

「な?健介が家出たくなるのも普通だろ?」

「確かに」


 そして二人の後を追って二人もバスに乗り込み、延々と走って降りた先は隣の区。


「ここ分かる?」

「なんとなく。サッカーの試合に来たことがある」


 健介はずっとお母さんの手を離さず、二人ぴったりとくっついて細い坂道を上がり、古い集合住宅に辿り着いた。

 それの二階の一室の扉をお母さんが開けるのを、翼と拓海はじっと見ていた。

 健介が笑ってその中に入って行った。




 健介は手を繋ぐ母に、延々と訊き出していた。



 お母さん、僕って赤ん坊の時どうだったの?

 そうね、生まれた時はとっても大きな子でね、看護婦さんとかみんな驚いたのよ。

 そうなの?初めて聞いた!

 そう、5キロ超えてて大変だったんだから!

 それって大変なの?

 何もかも大きくて。泣き声も大きくて。

 そっかー

 退院してからもすごくよく泣く子でね。大変だった。

 ごめんなさい

 ふふふ。それにね、全然寝ない子でね。

 そうなの?今寝るよ?

 そうなのね。大きくなったのね。

 そうなのかなぁ。それから?僕ってどんな子だったの?



 健介は、今まで知らなかったことを、今まで誰も答えてくれなかったことを、初めて聞かされていた。

 父も教えてくれなかった。

 何を訊いても覚えていないと返された全てを、お母さんは詳しく教えてくれた。

 まわりを見ている余裕なんかなかった。

 友人が尾行していることに気付くはずもなかった。




「てかさー。もう出てこないよな、健介」

「だよね。寒いよね」

「あいつ、どーすんのかな?ここに引っ越すのかな?」

「それはないでしょー。ここからじゃ学校遠いしー」

「転校するとか」

「するかな?」

「するかもなー。するんじゃねー?」

「しかし寒いよ」

「帰ろっか」

「寒いもんね」


 そして二人は震えながらバス停に走った。

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