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白天祭 ―再び四階―

 昨日、頭部を兜、腰下危うい範囲をタオルで覆った男は、こう言ったのだ。


 ―――明日の朝、本部四階でアルルカ部隊長に会ってほしいんだ。



 こうして佐倉は、再び、本部四階前へと戻ってきた。

 昨日はムドウ部隊長と四階で昇格試験の話し合い。今日はアルルカ部隊長との話し合いである。三階と四階をつなぐ踊り場から、階段の先を見上げ、佐倉は昨日と同じように一歩、踏み出せずにいた。

 昨日は、『四階は魔の巣窟』なんて言われて、この階段を上がれなかった。

 今日は、この先で会う人のことを考えて、立ち止まっている。


 アルルカ部隊長が、街に戻ってきている。


 昨日、頭部を兜、腰下危―――半裸の人はそう教えてくれた。一部の人間しか知らないが、外遊部隊の昇格試験は二度あるそうだ。期間不明のアルルカ部隊長による昇格試験。そしてもうひとつが、他部隊と同じ期間に行なわれるアルルカ部隊長不在の昇格試験。大半がアルルカ部隊長不在の昇格試験を通過して外遊部隊へ入る為、外遊部隊員でも昇格試験が二つあることを知らない隊員は多いのだと云う。

「人形に知ってほしいような情報でもないし、情報が漏洩しないよう一部の人間しか知らないほうがいいこともあるだろう?」

 モントールは穏やかに、半裸のまま説明をしてくれたが、そういう大事なことを末端の新兵部隊員にさらりと明かすのはやめてほしい。もっとしっかり隠すべきだ。その目も眩むほどに神々しい美裸体とともに。



 佐倉は昨日のことを思い出して、項垂れた。

 こっちにそんな重要なことを話してはダメだ、と思うと同時に、何で今ごろまで話してくれなかったのか、と矛盾に満ちた想いが、存在していた。あの神々しい美裸体の人のことを考えて、佐倉は少し気落ちした。いや、水をはじくそのキメ細やかでハリのある肌に嫉妬する、とかそういう話では断じてない。


―――アルルカ部隊長が、街に戻ってきている。


「そんな重要なことさらりと明かすとか。こっちがぽろりとダダ漏らした時は、誰が、この首ごとんって刈りに来るの……!?」と美裸体の主には憤然と抗議した。でも心では、美裸体の主が『必要が無ければ、重要なことは決して話さない』人だと、その時、気がついたのだ。 


 モントールは、アルルカ部隊長が佐倉との再会を望まなければ、何も言わなかったに違いない。こちらに全く気付かせることなく、常と同じように穏やかにこちらの世話を焼いていたはずだ。アルルカ部隊長が戻ってきていることも、もしかしたら、もうすぐモントールが街を去ることも、彼にとって必要がないと思えば、教えてくれなかったのかもしれないのだ。


 モントールは正しい。なんせこちらは末端の新兵部隊員だ。重要な話がまわってくるほうが間違っている。万が一、今回のように、極秘なはずの情報がまわってきてしまっても、末端の新兵部隊員は右往左往するしかない。それに自分は子供で、何にもできなくて、その上、突詰めていくと、得体の知れない存在だ。


 誰も、こんな子供に重要なことを話すわけがない。

 

 自分でも分かっている。

 分かっているけれども。

 分かっているけれど、くやしい。

 世の中、そんなものだと簡単に割り切れなかった。

 

 何よりもくやしいのは、モントールが、そう考えていることだ。

 彼はアルルカ部隊長について、少し前に街へ戻ってきたのだと言った。つまり、アルルカ部隊長のことをこちらに伝える機会が、モントールにはいくらでもあった。でも彼は打ち明けてはくれなかった。話してくれたのは、前日である。アルルカ部隊長との再会の前日まで、彼はこの話をしなかった。それはまるで、モントールがこっちを信用していないようにも感じた。


 この人やグレースフロンティアの為に、何かをしたかった。

 そんな気持ちは、向こうにとってはありがた迷惑な気持ちなのかもしれない。

 相手に先にドアを閉められてしまっている気がして―――心が沈んだ。



 これから会うアルルカ部隊長のことを考えても、嬉しい、と一言で終えることはできない。もちろん再び会うことになって、嬉しい。こうやってここで生活できるのも、アルルカ部隊長のおかげだ。部屋の手配や金銭的援助もしてくれた。感謝しきれない。外遊部隊長として尊敬してもいる。

 それでも、アルルカ部隊長のことで思い浮かぶのは、あの天幕だ。

 街へ向かう際の荒野、必死でその甲冑の背を追った時のことでも、街に着いた後、手配をしてもらった部屋に案内された時のことでもない。アルルカ部隊長といえば、あの夜のアルルカ部隊長だ。何かの手がかりを思い出せないかと何度も何度も頭の中で思い出すあの『最初の夜』、天幕の中にいた人。奇妙なお団子頭の人。なぜか日本の武将スタイルだった人。掠れた低い声で、素性を訊ねてきた人。

 

 こちらを、シバリクビにしたかもしれない人。


 感謝も尊敬も再会の喜びもある。でも、薄暗い天幕とあの時に座ったざらついた硬い木箱の感触を思い出すと、緊張する。

 ちゃんと、話ができるだろうか。

 何かを隠されたりせず、隠されたことにも気付かないなんてことがないように?



 昨日から、様々な形の不安が胃の底にごろごろとたまっていた。

 気は重くなるばかりだ。

 ふ、と四階を見上げていた目が彷徨う。


 自然と背後を見ていた。

「何してんだ、お前」

と、言ってくれる人は―――今日はいなかった。

 昨日と同じように、早く行けっつってんだろ、と言葉で背中を押してくれる人を無意識に探していたことに気付き、佐倉はゆっくりと前を向いた。何を甘ったれてるんだろう。


 昨日、その人は、ムドウ部隊長の部屋で激怒した。

 いつものぐだぐだ文句を言う感じじゃなくて、こっちのことをどうでもいいというように、一度も視線を合わせてくれなかったのだ。いつものように、舌打ちしてぎゃあぎゃあ言ってくれないあの痩せた背中を思い出すと、気分がさらに滅入る。

 その上、今日は、まだ、会ってない。

 もはやどんな顔して会えばいいのか、途方に暮れるばかりだ。


 今の気分は、最低だ。


 モントールのことで「お前では役立たない」と殴打され、アルルカ部隊長のことで咽喉元に剣を突きつけられているような緊張感にさらされ、ラックバレーのことではもうどうしたらいいのかすら分からず、くよくよくよくよ悩んでいる―――ちょっと、今、ミカエルをぶん殴りに行きたい気分だった。うん、出会い頭に一度殴ったら、たぶんその後、五回ぐらい床に転がされる結果になるとは思うけど。でも一発めは相手も油断しているから、当たる(と経験済み)。

 

「なーにしてんだ、お前」

 突然、背後にかかったその言葉に、佐倉は飛び上がるほど驚いた。

 勢いよく振り返る。そこには病的に痩せて、病的に白くて、過労で棺桶に両足を突っ込んでいる男がしかめっ面で―――


 いなかった。


 相手を見て、佐倉は即座に舌打ちした。

「なんだバラッドさんか。期待して損した」

 期待して損した。期待して損した!

 期待した分、無性に腹が立った。階段を数歩上がる。考えていたのは、死にかけみたいな人のことであって、今、声をかけてきた、人類最後の日まで腹抱えて笑っていそうな人では断じて……佐倉は、そこで歩みを止めた。


 今、誰が、そこにいた?


 今度はゆっくり振り返った。そこにいたのは、自分で口にした通りの人だ。金茶の髪をオールバックにした男が、特有の笑みを口元に浮かべて立っていた。一瞬、疲れすぎて幻覚でも見ているのかと思った。いや疲労というより、傭兵ギルド全体の願望から生まれた霊的な類かと思わずにはいられなかった。


「バ、バラッドさん……?」

「期待を裏切って悪かったな」

 何が面白いのか、にやにや笑い。

 その笑い方が、ものすごく懐かしい。

「バラッドさんだ」

「で、お前、何を期待してたんだ」

「バラッドさんだ……」

「何を、っていうか、誰を、期待してたんだ?」

「バラッドさんだ……!」

「興奮しすぎて聞いてねえのか、それともわざと聞いてねえのかどっちだ」

「うわーっバラッ…なんで、え、いつ復帰……やった、生きてる、地獄からの生還……!」

「なるほど、興奮して聞いてねえほうな」

「わあ、もう復帰したんですよね案内カウンターにいつ戻るんですか仕事の再開は……!」

「さっさと仕事しろって抜かしてやがるわけだなあ、お前」

 変わらないにやにや笑い。

 変わらない、にやにや笑いだ……!


 佐倉は上った階段を駆け下りた。

 喜びで抱きつかんばかりだった。

 飛びかかろうとするこちらの頭を、バラッドが掴むほうが早かった。

 彼は愉快そうに笑った。

「いや、そういうのは遠慮しとく」

 頭を掴まれたこちらは、持て余した歓喜と興奮をいったいどうすればいいのか。こうなったら、頭掴まれたまま、飛び跳ねたり腕を振ったりして発散させるしかなかった。朝日に輝くぱりっと清潔な白いシャツの腹部に、佐倉はミカエルのすました顔を思い描いた。持て余しているのは歓喜と興奮だけじゃない。腕を振り回しながら、鬱憤のこもった一発を、相手の腹に鋭くぶち当てることに成功した。数発続くと、頭の締め付けが強くなる。何度めかの恨みをこめた拳に、「そういうのは遠慮しとくって言ってんだろー?」と、相手の笑い声がさらに大きくなった。頭の締め付けは、林檎なら粉砕できるレベル。たぶん次か次くらいの一撃を腹にぶち当てたら、頭、潰されると思う。調子こくのはこのあたりでやめておこう。


「俺が当たりを引いたってなら、大歓迎、だったんだがなあ」

 笑いながら、わけの分からないことを言われた。

 頭への締め付けがさらに強くなる。

「それともお前、こういう暴力的なのが、イイんだ?」

 やめとこう。

 このあたりでホントにやめておこう……!


 佐倉は握り締めた拳を即座に緩めた。

「バ、バラッドさん、こんな所にいる場合じゃないですよ。下の凄まじい状況、ちゃんと見てきたんですか?」

「ちゃんと見てねえのはお前だ。一階は一晩であらかた片付けた。それを全然見ずに、カウンターを素通りするとか、どうよ?」

 掴まれた頭を、軽く揺すられる。

「辛気臭え顔して、お前、いったいどこへ行くつもりだ?」

「いや、今から―――」

―――アルルカ部隊長と会うんです。

 佐倉は言葉を飲み込んだ。どうしよう。自分の口が全く信用できない。こうペラペラする口があるから、モントールに信用されないのだ。


「む、ドウ部隊長に、会いたい、なって思って」

 バラッドの笑いが止まった。

「ムドウ部隊長にねえ」

「は、はい。ムドウ部隊長に、です」

 バラッドは、何が面白いのか軽く笑い声を漏らした後、こちらの頭から手を離した。

「ムドウ部隊長に会うのは、やめといたほうがいい」

 会うのは、やめたほうがいい?

「何で?」

「昨日から、ムドウ部隊長の姿を外で見てねえから」

「自室にいるって話は先輩達から聞いてますけど」

 別段、不思議なことでもない。今朝、仮眠室へと向かう新兵部隊員が、ムドウ部隊長の所在をそう教えてくれた。ムドウ部隊長だって眠る時間が必要だ。きっと自室で眠っているに違いない。……あの部屋に眠れるスペースがあるならば。


 つまり案内カウンターが言いたいのは、睡眠の邪魔をするな、ってことだろうか?

「眠っているようならお邪魔しないように、気をつけます、けど」

 見上げれば、満面の笑みで頷かれた。

「そうしてくれ。起きているようなら、入室する前に、ぜひ一度、俺に連絡が欲しいもんだがな」

 奇妙な要求だった。

 睡眠は邪魔するな。起きているような連絡しろ……?

「え、ムドウ部隊長の睡眠時間の管理って、バラッドさんがやっているんですか?」

 案内カウンターの事務作業の中に、新兵部隊の部隊長の睡眠管理という仕事があるとは知らなかった。……事務員による睡眠管理ってなんぞ。


 返ってきたのは、笑い声。

「睡眠管理って、お前の頭はやっぱりぶっ飛んで―――まあ、いいか」

 バラッドは満足そうに笑いながら頷いた。

「お前の上司の睡眠管理も俺の仕事だから、ムドウ部隊長が起きているようなら部屋に入る前に、絶対、連絡を寄こせ」

「分かりました、けど」

「ムドウ部隊長はきっと昨日の夜中から、一睡もしてねえ。ササヅカ、そんな上司、見てらんねえよな? 俺とお前で、一緒に寝かしつけてやらなきゃならねえ、そう思うだろ?」


 ムドウ部隊長を寝かしつける。佐倉は想像した。仕事中毒のムドウ部隊長に、寝てくださいと叫ぶ自分と、笑って状況を見ている案内カウンターが頭に浮かんできた。筋肉ダルマに上掛けをかけようと飛びかかる自分。逆にムドウ部隊長の繰り出す頭部への一撃で、あっさりノックアウトしている姿がありありと浮かぶ。素晴らしい。脳内でもバラッドは、ちっとも『一緒』に寝かしつけてはくれなかった。

 佐倉は真剣に首を振った。

「寝かしつけるって言うか、逆にベッドに沈められそうですよね」

 返ってきたのは、またしても爆笑だった。この人、いったい何がそんなに面白いんだろう。ぶっ倒れてから、以前よりさらに頭がおかしくなったんじゃなかろうか。

「そうだな。お前がムドウ部隊長のベッドに沈んだら、かなり面白い展開、だよな」

「……こっちがベッドに沈んだら、助けてくれますよね?」

 さすがにそんな時まで、横で笑っているなんて、勘弁してほしい。

「当たり前だろ」

 バラッドは笑みを消し、真剣に頷いた。

「そうなったら、全面的に、積極的に、助けてやるよ」

「よろしくお願いします、ね……?」

 なぜか適切じゃない言葉を発しているような気がして、佐倉は首を傾げた。


 何にせよ、こちらが実際に会うのは、アルルカ部隊長だ。

 昨日、一睡もしていないらしいムドウ部隊長に会うわけではない。ムドウ部隊長の邪魔になることも、バラッドに協力してもらうことも無いはずだ。


「絶対、必ず、呼べよ」

 バラッドは再度、念を押し、階段をおりていく。笑い声が遠くなる。一階の自分の仕事場へと戻っていくのだろう。……戻ってもらわなければ、本当に、困る。


 遠くなる笑い声を聞きながら、佐倉は再び階段を見上げ―――

 息を飲んだ。

 先ほどまで、階段を見上げてあんなに鬱々と悩んでいたのに。

 いったいどういうことなのか。

 嘘みたいに、心の中から不安が消えていた。耳の奥には、笑い声が残っている。いや、笑い声がこびりついている。愕然とした。何このバラッド効果。傭兵ギルドの事務員の笑い声が耳奥にこびりつくと、気分上昇、やる気が溢れる効果があります、みたいな―――何それ、エセくさいくせに効果テキメンすぎて、逆に怖い。


 

 佐倉は四階を見据えた。

 耳の奥にこびりついている謎の効能のおかげなのか、驚くほど勇ましい気持ちになっていた。

「よし、なんでもかかって来い」

 そんな呟きが出るくらいに、である。

 佐倉は勢いよく階段を駆け上がった。今の自分なら、どんな突拍子のない状況でも立ち向かっていける。そう、強く、強く、思っていた。



 *************



 バラッドは階段を降りる足を止めた。


 仁王立ちだった。

 誰もいない一階の案内カウンター前で、ひとりの男が腕を組み、仁王立ちだった。


 バラッドは、その姿に吹きだした。

 音に反応した男が、こちらへと顔を向ける。

「出歩いてねえで、てめえ、仕事をせんか」

 怒気をはらんだ太い声が、そう言った。


 怒られているはずの案内カウンターの主は、むしろ全く違う所に関心を持っていた。

「なんだよ、当たりのドリンク、もう効果が切れたのか?」

 バラッドが予想していたよりも、少し効果切れが早い気がした。

 こちらの問いかけに、仁王立ちの男は珍しく、にやりと笑った。まるで、してやったり、とでもいうような顔だ。


「悪いが、当たりを引いたのは、俺じゃねえ」

 バラッドは呆気に取られて黙りこんだ。


 俺、じゃない……?


 仁王立ちの男はこちらの顔が面白かったのか、破顔した。

 常のしかめっ面が解消されて、すいぶんと若々しく見える。

「俺が部屋にこもれば、てめえは当たりが俺だと思いこむ。実際、当たりを引いた『御仁』も、これで安全ってわけだ。ざまあ見やがれ愉快狂!」


 そう笑った男―――ベイデン・ムドウを、バラッドはじっくりと見つめた。

 ムドウ部隊長が、『御仁』と呼ぶのは。

 ムドウ部隊長が、こっちの悪ふざけを許さないほどの『御仁』と言えば。


 ―――ああ、畜生。


 愉しいことを嗅ぎつける感覚が、訴えていた。上の階へ行け、と。

 こちらの腹に、ジャレた数発をぶちこんできた少女を思い出す。彼女は、ムドウ部隊長の所へ行く、と嘘をついた。その『御仁』が街にいることを俺が知らないと、本気で思っているんだろうか。それにしても、あいつ、嘘が絶望的に下手っくそ。あれが何を言おうとその顔見てりゃあ、すべて分かる。なんせ、あれの面白い所は、素直で開けっぴろげなその表情で―――


 バラッドの頭の中で、少女が素っ頓狂な絶叫をあげて全速力で駆けて行く。勇ましく駆けて行く先は、『街にいるはずのない御仁』の部屋。


 そこが当たりだと知らずに。

 そこが今、一番行ってはいけない場所だと、知らずに。


 ムドウ部隊長が部下達真っ青の怖い顔で、バラッドの仕事場を指差した。

 仕事しろ、と言ってやがる。

「俺は、四階に、確認をしに行ったほうがいいと思うがなあ」

 バラッドは、ムドウ部隊長に忠告した。

 さもないと、お前の部下が、とんでもないことになるわけで。

「俺は、ここで仕事をどうにかするべきだと思うがな」

 ムドウ部隊長は、しつこく案内カウンターを指差した。しかも絶妙なタイミングで通信機が信号を発した。出ろよ、とムドウ部隊長がバラッドを一睨み。出て、自分の仕事をしろ。その目はそう言っていた。


 この鬼部隊長の監視の目をかいくぐり、今すぐ四階へ行く方法―――バラッドでも、さすがに思いつかなかった。

 バラッドは笑うしかなかった。

「ああ、畜生。その部屋に行く場合も俺を呼べって、言っておけば良かったなあ」

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