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バカラ 12

 二階に行きかけた佐倉を、呼び止めたのはカウンターのバラッドだった。

 しかも嬉々としている。


「バカラで暴れたらしいな!」

「な―――」

 言葉を失った。

「な、なんでバラッドさんにまで話が広まってるんですか……」

「なあに言ってんだ。皆もう知っているだろうよ。昨日の夜には広まってた。新兵部隊にイカレたガキがいるってな」

「イカレてません!」

「本部前で匍匐前進したのは誰だった?」

「じ、自分ですけど」

「観光客と露店商を筋トレでどん引かせたのは?」

「……自分です」

「昼街部隊の喧嘩を何にもできねえのに買ったのは?」

「……はい、自分ですよ!」

 カウンターのバラッドが晴れ晴れとした良い笑顔を浮かべた。

「な、イカレ狂ってるだろ?」

「…………」

 はい、そうです。なんて当人が認めるわけもない。昼街部隊員を貶めようとしてやったことが、見事に自分に降りかかってきていた。うん、たしかに道端で匍匐前進したら、そりゃ頭おかしい人だ。

「ま、安心しろよ。うちのギルドは奇人狂人が出世株だ。良かったな。お前、上に行けるかもしれないぞ」

「そんな職場、嫌すぎる……」

 佐倉はカウンターに突っ伏した。

 あああああ。もー!

 昨日、今日、ドン底だ。

 突っ伏して、回想して、それから血の気が引いた。佐倉はゆるゆると顔を上げた。案内カウンターのバラッドを見つめる。


「広まってるって、まさか―――ムドウ部隊長にも?」

「ん?」

「あの、ムドウ部隊長は知らないですよね……?」

 それは願いだった。案内カウンターのバラッドは、そんな気持ちもお見通しだったに違いない。いい笑顔を浮かべている。ああ、もう答えを聞かずとも分かったね。

「そりゃ知っているだろ。昨日は、深夜にも本部出入りしているのを見かけたしな」

 それから、さらなる輝かしいにっこり笑いがきた。

「二階に行くのか? ―――そのムドウ部隊長がいると思うが?」

 何故、その沈痛にして悲壮感すら漂う情報を、こんなにも愉しそうに語ってくるんだろうこの人。

 佐倉は再び項垂れた。

 

 拳骨確実。絶対殴られる。間違いなく殴られる。

 ここはケンカも殺し合いも自由なんて、妙なこと掲げているギルドだけど、だからってムドウ部隊長が喧嘩した人間を殴らないというわけではない。むしろ殴る。ギルド全体はかなりの放任主義だと思うけど、各々の部隊長には各々の方針があるわけで……。

 あああああ。殴られるよ。頭頂部にがつん、だよ。

 くそう、それもこれも―――


「おはようございます」

 涼やかな声が背後に聞こえた。

「おう」

 案内カウンターのいい加減な挨拶。

 そう、それもこれもすべて―――

 佐倉はカウンターに突っ伏した身体を起こした。振り返る。そこに白冑の美童が立っていた。金髪のサラサラオカッパヘアが揺れる。青い瞳がこちらをゴミみたいに見つめ返してきた。

「君は相変わらず、ここで油を売」


 ミカエルの言葉も聞かずに、佐倉は相手の頬をぶん殴っていた。

 バラッドの口笛。うあ、もうこの人も殴りたい。

 殴り倒されたミカエル様は床に尻餅をついた。目を見開き、佐倉を見上げ、瞬く間に怒りで肩を震わせた。

「貴様、何を―――!」

「黙れ!」

「な、……っ」

「いいか、そのすました耳、かっぽじってようく聞きやがれ!」

「すました耳ってどんな耳だよ」

 と、カウンター。ええい、うるさいな! 今、大事な所なんだから横からチャチャ入れるのはやめて欲しい。あの人は後回しだ。

 佐倉はミカエルを見下ろした。

「二度と、私とチロに面倒をかけるな! 自分の信仰者ぐらい自分で押さえつけろ、この役立たずの目立ちたがり屋が!」

「な、んだと―――!」

 ミカエルが飛び起きた。さすがはミカエル。鎧を着てても動きが機敏だ。

 佐倉は激昂するミカエルを置いて歩き出した。

「待て! 何故怒っているのか、説明をしろ!」

「うるさいうるさい! 生理前なの!」

 佐倉は怒鳴り返して、階段を駆け上がった。

 周囲がぽかんとしたのは、発言の意味が分からなかったからだろう。今は確かに生理前だけど、その癇癪じゃないのは確かだ。この癇癪は、ミカエル信仰者の件と何よりも例のH氏の件の八つ当たり――でも、もうどうでもいい。

 そんなことより、こんなに暴力的になっているのは、日々殴られ過ぎているからに違いない。


 ―――それもこれもあれも全部。

 よく殴るムドウ部隊長のせいだ!

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