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バカラ 04

 白天祭のための人員要請を受けた新兵部隊員、三十名が訓練所を出た。

 今日は三十人程度でいいと、昼街部隊から言われていたらしい。ムドウ部隊長が志願者を募れば、およそ四倍の人数が志願した。後はもう、このギルドらしく、てめえは引っ込んでろという怒声の嵐だ。勿論、簡単に三十人が決まるわけもない。罵倒が乱闘へと発展しかけたところで、業を煮やしたムドウ部隊長が選出した。


 その三十人とは別に、強制参加を申し付けられた佐倉は、訓練所を出た男たちを見回した。

 名前と顔が一致しない人達ばかりだ。

 いつも何故か隣にいる痩身猫背の男は、訓練所の中にいる。なんだか味気なくて、ちょっと不安になる。落ち着かずに訓練所の扉へと振り返る。すると、訓練所から出てきたムドウ部隊長の隣に、下がり眉の少年を見つけた。その瞬間、佐倉は顔を輝かせた。


「チロ!」

 ムドウ部隊長の隣で、俯いて、がちがちになっていた少年は、佐倉の声に顔を上げた。

「さ、ササヅカ君!」

 駆け寄る佐倉に安堵の表情。成程、チロも三十人とは別の強制参加組みらしい。

「チロも一緒なんだね」

「う、うん、そうみたい」

 佐倉にとって、この世界で同年代の人はとても貴重だ。ギルドに入り浸っているのも原因で、ギルド外での親交は皆無に等しい。同期であるチロは佐倉にとって、友達と呼べる唯一の存在だった。


「チロが一緒でホント、良かったよー」

「うん、僕もほっとしたよー」

 二人は、ほわほわと平和的な笑顔を浮かべている。

 そんな二人の背後でムドウ部隊長は、くすぐったいような気分にさせられ、顔をしかめてそっぽを向いた。油断すると口元が緩みそうだ。――――こいつら、傭兵ギルドの一員って自覚あんのか。もっと殺伐とした空気は出せんのか! 叱るべきと自分を戒めるが、ぽわぽわっとしたガキ共を見ていると、声が出てこなかった。まあ、いい。今日だけは見逃してやるか。


 背後の筋肉ダルマの部隊長の心の内なぞ露知らず、佐倉は突然、振り返った。

「ミカエル、いないんですね」

 振り返ったこちらを、一瞬ムドウ部隊長はぎょっとしたように見返してきた。筋肉ダルマの部隊長はすぐに唸り声をあげて、顔を凶悪って感じに、しかめてくる。

「ハヅィは非番でいなかっただろうが」

「でも、私とチロがいるってことは、新人の挨拶を兼ねてるのかと」

「兼ねちゃいるが、ハヅィに挨拶が必要か?」

 言われて、あれだけ人に騒がれてる同期の姿が思い浮かんだ。挨拶、全然必要なさそうだ。ミカエルのことは、もうこのギルドの大半の人が知っているはずだ。


「あいつはもう顔が売れてる。それに比べて、その同期はどうだ、ええ?」

 威嚇されるみたいにがなり立てられ、震えがはしって涙が浮かんだ。いや、私じゃないけど。隣のチロが。

「てめえらも、白天祭の後の昇格試験は受けてもらうからな。新兵部隊から昇格できるのは、八割が今から会う昼街部隊だ。残り二割が夕街部隊。どちらの試験を受けるかくらい考えておけよ」

「受けるってことは、私、受かる可能性があるんですか?」

「あるわけねえだろ」

 即答。落ちるのに受けるのか。

「試験に慣れるために受けろって言ってんだ。てめえが受かったら、今生まれた赤ん坊だって受かる。いや、生まれてねえ胎児でも合格できるってもんだ」

 今度は佐倉が泣きそうだった。

 いったいいつになったら、ムドウ部隊長の拳骨をもらわない日がやってくるんだろう。赤ん坊から胎児レベルに戻されるくらいだから、まだまだ先になりそうだ。


「ハヅィは、朝街部隊から欲しいって声が上がってくるくらいだ。てめえらもちっとは見習って、昼街部隊の奴らに顔くらい覚えてもらえ」

「じゃあミカエル、次の試験で、朝街部隊ってことですか」

 それって、ラックバレーが言っていた試験免除の推薦加入ってやつだろうか。

 しかも、朝街部隊ってことは昼街や夕街よりさらに上の部隊だ。新兵部隊から直接入ったら、すごいことだ。 


 ムドウ部隊長から、いや、という否定と唸り声が返ってきた。

「ハヅィも朝街志望だからな。朝街の部隊長がくれって言っている時点で、渡しても良かったんだが……俺の一存で保留してる」

「ええ? なんでまた?」

「今、朝街部隊にハヅィを渡しても、ハヅィが伸びねえから」

 聞いて、ちょっと感動した。


「ムドウ部隊長って、部隊員のこと、ちゃんと考えてるんですね」

 それを言った瞬間、殴られた。

 がつんと拳骨で。ものすごく痛くて悶絶した。


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