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扉の前 00

 頭上の月は朧月だった。


 谷間の集落から吹き上がる風から、完全に夕餉の匂いが失われた。もういいだろう。谷間を見下ろす無数の影の中に、逸る気持ちが抑えられない者がいた。


「もう頃合だよ」

 黒影の塊から、女の声。


 応える声も、その塊から。

「辺境のニンゲン共は、朝を待たずに動き出す。その一刻前が適時だろうて」

 続くのは賛同の声だ。唯一、不満気に鼻を鳴らしたのは、最初の女だった。

「なぁに悠長なことを言っているんだか。寝首を掻くなら、今、谷へ下りりゃあいい」

「駄目だ。五番隊がまだ近い。奴らが引き返してくれば、大事になる」

「臆病者って言うんじゃないのかねえ、そういうのをさ」

 女は毒づいた。

「寝ているニンゲンは襲えても、武器を持った兵隊野郎共と遭遇するのはヤダってのかい」

 

 彼女は塊から離れた。その姿を、雲を拭った満月が捉える。

 月明かりに照らされた女の色は、鮮明な紅だった。


「おい、ハルト」

 呼ぶ声に、彼女は振り返らず、そのまま再び暗闇へと呑み込まれていった。

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