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PSYCHIC CLUB  作者:
第一章:サイキッククラブへようこそ
3/20

1-3

「着きました。ここが星宿寮です」


 目の前には綺麗な建物がある。確かに《星宿寮》という表札もある。


「皆を呼んできますので、こちらでお待ちください」


 中へ入り、ラウンジに通される。


「うっわ、豪華。ここの寮ってみんなこんなん?」


 綺羅はソファーに座って足をブラブラさせる。光翔もふんぞり返っている。


「こんなもんじゃねぇの? まあ、全寮制でもねぇしな」


 光翔に聞いても無駄なようだった。



「光翔、眼鏡を持ってきました。かけなさい」


 戻ってきた流は手にケースを持っている。中にはノーフレームの眼鏡が入っていた。


「嫌だ」


 光翔はぷいっと顔を背けたが、その頭を後ろから固定する手があった。


「や、やめろ!」


 光翔はジタバタと暴れるが、小さく見える手はなかなか力強い。


「まともに生活できないんですから諦めてください。作りに行けなくなりますよ。私は介護をするためにいるわけじゃないんですから」

「嫌だ! 俺様がダサくなる!」


 諭しながら流が眼鏡を近付けるが、往生際が悪い光翔は更に暴れる。


「眼鏡如きでゴチャゴチャ言ってる時点で十分ダサいから安心しな」


 どこまで面倒臭いと思わせれば気が済むのだろうか。溜息と共に、綺羅は吐き出す。

 ピタリと光翔が止まった隙に流が眼鏡をかける。


「何だ。案外似合うじゃん」


 本人が言うほどではない。黒縁眼鏡でもないんだし、と綺羅は思う。

 すると、光翔と目が合う。じーっと見つめてくる。

 ついにきたか、と綺羅は思う。気付けばラウンジには三人の生徒がいて、その目が全て向けられている。

 一人は光翔の頭の上からぴょこっと顔を出す小柄で可愛らしい少年だ。先程頭を固定していた小さな手の持ち主である。

 それから、二人の女子がいる。二人は正に光と影というように対照的である。一人は黒髪の大人しそうな印象で、もう一人は茶色がかった髪の元気そうな雰囲気の少女だ。


「お前……二年だったのか?」

「そうだけど」


 リボンのカラーを見たのだろう。綺羅も彼と色が違うことは知っていたのだが、色分けを覚えようという気もなかった。

 これまで、どの学校も長続きせず、制服も一番長くいた最初の学校のものだった。それが原因で次の学校からは転校のペースが速まっていたが、最後という言葉を裏付けるかのように今回は新しい制服が用意されていた。

 胸元を見れば、確かに彼らと同じ星形のピンズがついている。特に気にもしなかったが。この意味を知らなかったのは綺羅だけなのだろう。クラスメイト達も知っていたのだ。


「先輩には敬語を使え! 俺も流も三年だ」

「大して変わらないし、知らなかったし」

「変わるだろ! 今、知っただろ!?」


 ぎゃあぎゃあうるさいと綺羅は耳を塞ぐ。



「では、改めまして、ようこそ、星宿寮へ。寮長の天霧流です」


 クスッと笑って流は再び紹介する。心なしか名前を強調して言ったように聞こえる。


「ねぇ、名前覚えなきゃダメ?」

「ダメに決まってんだろ、もう一度言ってやるが、俺は不動光翔。この学園で俺を知らねぇなんてモグリだかんな!」

「先輩、うるさいって有名ですもんねー」

「うるさくねぇ。イケメン天才マジシャン様だからだ」


 光翔は不本意だと言いたげだが、うるさいのは紛れもない事実だと綺羅は認識している。

「僕は一年の小金井叶多(こがねいかなた)、よろしくね! 綺羅先輩!」


 少年がニコッと微笑む。その辺の化粧が濃いだけの女子よりは可愛いというのが綺羅の感想だった。

 背も百六十あるかどうかと言ったところだろう。癖毛に童顔、くりくりとした目が可愛らしさを引き立てている。


「同じく一年の日野優月(ひのゆづき)です。よろしくお願いしますね!」


 光の方の女子が続いて挨拶する。

 彼女も小柄だが、少しふっくらとして健康的である。化粧をしているわけでもなく、嫌みのない感じが好印象である。

 ショートカットであるが、自分のベリーショートとは大違いで少女らしい愛らしさがあると綺羅は同性ながら思わずにはいられない。

 そもそも体つきや顔つきが違うのだ。比較の対象としてはかけ離れている。綺羅はガリガリと称されるのがぴったりと当てはまるほど貧相な体つきをしていた。それでもコンプレックスを抱いたことはない。

 そんなことよりも揃いも揃って笑顔で自分を見ているということが、綺羅には信じられなかった。これが普通だと言うのならば、今までの普通は何だったのだろうか。


「彼女は森谷星南(もりやせいな)です。同じ二年生ですよ」


 最後に流が影の方の少女を紹介する。彼女は優月の背に隠れるようにしている。

 怖がられている、そういった空気に綺羅は敏感だった。今までは当たり前だったのだが、ここまで好意的にされると、それが奇異なことに思えてしまう。


「あんた、口、きけないの?」


 仲良くしようという気は更々ないのだが、何か言葉をかけた方がいい気がして問うた。星南は更に優月の後ろに隠れる。一瞬、脅えの表情を浮かべたのを綺羅は見逃さなかった。

 傷付けるような言葉しか言えないのは綺羅なりの処世術だ。

 そうしたところで気分は良くならないのだが、好かれようと努力をしても無駄なことだ。より嫌われる努力をした方が自分にとっても後腐れがない。


「お前、そんなにズケズケ言うなよ」


 光翔は顔を顰めている。


「あんただって不躾だったよ。それに、あたしは自分が傷付けられるってわかってて相手に優しくするようなマゾじゃないの」


 彼が言えたことではないと非難の眼差しを向ける。


「さっきから、ちょいちょい言ってることがわかんねぇんだけど、何なんだよ、お前」

「あたしは何だろうね……ただの人じゃなかったのかな?」


 聞かれても明確な答えは持ち合わせてはいない。普通ではないのかもしれないが、ここでは限りなく普通なのか。

 自分だけが空回っているような気さえしてくる。


「でも、サイキッククラブに来たってことはただの人じゃないですよね?」


 またそれだ、そう思って綺羅は叶多を見る。


「それ、何? やっぱり、聞かなきゃいけないってこと?」


 面倒なことは聞きたくないのだが、避けては通れないのかもしれない。


「サイキックとは霊能力者や超能力者と言われる類の人間の総称、といったところでしょうか。霊媒なども含みます」

「じゃあ、あたしって本当に魔女だったんだ」


 流の説明は丁寧だったが、それは吃驚だと綺羅は笑う。魔女、否定してきたことだが、本当にそうならば納得できてしまうことがある。


「お前、魔法使うのか? だったら、俺の割れたコンタクト元に戻してくれよ!」


 光翔は真に受けたようだ。単純な男である。


「まさか、ただの人って言ったでしょ?」

「チッ……使えねぇ」


 元々、悪いのは彼なのだが、怒りは萎んでいる。それも彼のせいだ。


「あたしだって知りたいよ。何で、自分からは何もしてないのに学校や土地を転々としなきゃいけないのかとか。見てもいないのに、その目で誘惑したって言われるのかとか」


 綺羅には理解できないことを理解する人間は多い。だから、連鎖は続く。


「ここにいるのは皆、それぞれ能力を持っているサイキックです。そして、私達のような人間を保護するためにこの星宿寮はあります。だから、通称サイキッククラブ。あなたの伯父さんが作ってくださったんです」


 寮長と言うだけあって、彼はこの中ではリーダー的存在のようである。一番老けて見えるのもあるだろう。

 彼は丁寧に説明してくれるが、理解しようという気が綺羅にはなかった。


「あー、なるほどね」

「わかってくださいましたか?」

「表向きには違っても裏では一緒だよ。どうしようもない問題児、それともオブラートに包んでマイノリティとかカッコいい言葉使ってあげた方がいい? あたしはごめんだけどね」


 物事は最悪の方向にしか考えない。綺羅の主義だ。

 彼らが本当にサイキックであるとして、それを自分と一緒にするというのは厄介な人間だからだとしか思えない。

 臭い物には蓋、問題のある人間は他人を腐らせる前に隔離、サイキックでなくとも自分が危険人物と認識されていることを綺羅は悟っている。


「お前……!」


 光翔が立ち上がる。怒っているのは明白だが、何とも思えない。

 恐怖を感じられたならば良かったのだろうか。叶多が小さな体で必死に抑えているのが滑稽に見えるくらいだ。


「あの人さ、教育者だったくせに、ドロップアウトしたあたしをどうにもできなくて、随分自分を責めたらしいよ? あたしをこんな風にしたの、自分の妹だからって罪滅ぼしのつもりなのかな? でも、慣れ合う気はないよ。あんた達だって本当はそうでしょ?」

「ふざけんな! お前がサイキックじゃなくたっていい。一緒に暮らすなら仲間だ。他の仲間を侮辱するのは許さねぇ!」


 光翔は激昂している。全身から憤怒が滲み出ている。彼は本気で怒っている。

 それは何も言えずに見ている他の『仲間』を守るためなのだろうか。


「許してくれなくていい。追い出してよ」

「んだと?」

「生憎、痛いのも苦しいのも慣れてる。できれば呪い殺すとかで、あたしを終わりにしてくれると助かるんだけど。あ、もしかして、あたしって既に呪いがかかってる?」


 これまで何度も追い出されてきた。今更、ここで落ち着きたいとは思わない。望むのは終焉、死だ。

 死は唯一約束されたものだと信じるからこそ、自殺はしなかった。


「終わりにしてやるよ。ここがお前の終着駅だ。お前は絶対に俺達の仲間になる。どこにも行かなくていいようにしてやる。俺がお前にダチとか仲間ってもんを教えてやるよ!」


 売り言葉に買い言葉だが、やはり彼はとことん面倒な人種だった。綺羅の期待とは真逆のことを言ってのけた。


「ごめんだよ。あんた達と一緒にされるなんて。普通じゃないってこと、認めて生きるつもりはない。特別な物なんて何も見えないのに、見えるなんて嘘は吐かない。してもいない誘惑をしたとは言わない」


 彼らがサイキックだと主張することまでを否定するつもりはない。自分がそうであると認める要素もない。


「お前、何でそんなんなんだよ!?」


 叫ぶ光翔は悲しんでいるようにすら見えた。直情的で、うるさくて、彼を敵に回せば、このわけのわからない場所から逃げ出せると思っていたのに誤算だった。


「世界の全てを憎んでるような目して」

「憎んでるよ。何もかも疎ましい。だって、世界があたしにそういう目を向けてくるからね。目には目を、歯に歯を。歴史っていいこと教えてくれるよ」


 綺羅は瞳を伏せる。復讐したいとは思わない。敢えて言うならば生き続けることがそうなのかもしれない。

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