表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PSYCHIC CLUB  作者:
第三章:新たな生活を壊す者
PR
10/20

3-4

 昼休みも終わりに近付く頃、綺羅は走っていた。

 食後の運動というわけでもない。決して運動が好きなのではない。

 爽やかな汗を流そうなどという健全な考えは綺羅の中には存在しない。


 ただただ、わけもわからず、何かに突き動かされるがままに全力疾走だ。

 とにかく急がなければならなかった。理由なんか考えてもわかるはずがない。

 根拠不明の焦りに突き動かされ、自身でも困惑しながらも走るしかなかった。


 体育館の方へ出て、足が止まる。探す視線の先に光翔はいた。

 今日もクラスメイトとバスケットボールでもしていたのだろうか。いつも彼はそうなのだと言う。

 何人かの男子と一緒にいる。手には缶飲料、次々にゴミ箱に放り込まれていく。


 なぜ、自分がここにきたのかわからないまま、綺羅は視界の隅にその赤を見付ける。

 そして、同時に叫んでいた。


「離れて!」


 叫んだ瞬間視線が向けられる。綺羅は続けて叫ぶ。


「光翔、ゴミ箱!」


 何のことかわからないという顔をした男子達、けれど、光翔だけは理解したらしかった。一番ゴミ箱の側にいた男子を引き剥がす。

 その瞬間にゴミ箱が燃えた。

 騒然、叫び声と混乱に包まれ、体育教師の準備室から何人かが慌てて出てくる。

 誰の悪戯だと騒ぎになっても発火装置や火を起こせるようなものは誰も所持していなかった。



「今の、潤か……?」


 光翔は綺羅の元にやってきて問いかけてくる。

 かなり動揺しているのがわかる。予想通りいとも容易く彼の心は揺らいだ。

 目の前でゴミ箱が炎上したことではないだろう。それが問題なのではない。それだけでは光翔を動揺させることはできない。

 だが、やはり、光翔にとって潤は弱点でしかなかった。


「敵だって、はっきりしたでしょ?」


 今回の狙いは間違いなく光翔だったのだろう。

 潤自身が光翔にうんざりしていたのか、彼に旧友を狙わせることに意味があるのかは今の時点ではわからない。

 綺羅にはどちらでもいいことだ。光翔が狙われたことだけが事実なのだから。


「んなわけねぇだろ! 潤はきっと何か知らせたいんだ」


 確かにそういう見方もできなくもない。

 だが、綺羅には光翔の希望的観測にしか思えなかった。

 光翔が絆などというものに縋り付いていたいのだとしても、それは綺羅には理解できるものではない。これまでの人生で知り得なかったものだ。


 綺羅をいじめる相手はいつだって徒党を組んでいた。けれども、誰もが我が身可愛さにより強い人間につくと言うだけである。それらは偽りの仲間でしかなく、光翔が言うような絆は存在しない。

 だからこそ、綺羅は本物の友情など、美しい絆などこの世には存在しないものではないかとさえ考える。


「ほんと、お幸せなやつ。そんなんだと死ぬよ」


 光翔はサイキッククラブの要と言って間違いない。

 常に明るく、仲間想いの光翔が皆を引っ張ってきている。

 その支柱を崩してしまえば、あまりに脆い繋がりだ。個々では抵抗力を持たずにバラバラになるだろう。


 サイキッククラブが生き抜くにはそれぞれが光翔に寄りかかることをやめるか、光翔がもっと絶対的に強い心を持つしかない。

 それをわかっていても、綺羅はアドバイスしてやる気など微塵もない。そんなことは教育者がすればいいだけのことであって、結束しようが、バラバラになろうが、自分には関係のないことだと言い切れる。

 たとえば、彼らが綺羅の障害になるとしても、ただ面倒臭いと思いながら蹴散らしていくだけだ。


「とにかく潤を探すぞ!」


 光翔は綺羅が協力すると思っているようだが、綺羅にその気はない。


「おい、何で動かねぇんだよ!?」

「お友達を探すなら、あんたが勝手に一人でしなよ。あたしは潤を探さない。そういう約束だから」

「くそっ!」


 くるりと背を向ければ光翔の悪態が響く。それから彼は走っていったらしかった。

 しかしながら、潤が消えた方角とは違う。

 コンタクトはあれから新しく作られたはずなのに、彼はそこまで見ていられなかったのかもしれない。

 あるいは、彼はいつだって何も見ていないのかもしれない。


「あんたの目は本当に節穴かっての」


 綺羅は独りごちる。

 そうしたところで誰に届くわけでもない。

 届かせたいわけでもないのに、呟いて綺羅は溜息を吐いた。

 そして、綺羅は綺羅でまた別の方向へと歩き出す。どちらを追う理由もありはしないのだから。


「授業授業」


 勤勉なキャラでもないくせに、と心の中では吐き捨てながら、綺羅は教室に戻るのだった。



*****



 放課後、綺羅のクラスにやってきたのは叶多だった。走ってきたのか、息が切れている。


「何なのさ、そんなに慌てて」

「光翔先輩命令ですできる限り行動を共にしろ、って」


 監視のためか、それとも集団でいた方が安全だとでも言うのか。

 的が揃って歩くようなものでもあると綺羅は思う。

 敵から見れば纏まろうと問題ではなく、狙ってくれと言っているようにしか見えないはずだ。


「そういうことで、今日は僕と綺羅先輩と星南先輩が一緒ってことで……」

「敷地内の寮に帰るだけなのに、何で小学生よろしく集団下校しなきゃいけないのさ」


 この意見は尤もだと綺羅は思っていた。

 ただし、綺羅には仲良く集団下校した記憶はほとんどない。


「事件は全て校内で起きてるの!」


 キリッと叶多は決めたつもりらしかったが、そんなことが聞きたいわけではない。


「一人だと絶対危険だからってことらしいよ。まあ、そういう光翔先輩と流先輩は二人っきりで行動してるんだけどね」


 きっと二人は潤を探すのだろう。

 光翔が全てを打ち明け、協力を求めるとしたら流しかいないはずだ。

 そして、流はそれを断らない、断れないはずだ。


「あたしは大丈夫だよ」


 綺羅は三度首を突っ込んでいるが、大怪我はまだしていない。

 したとして、彼らほどダメージはないはずだった。


「僕達が大丈夫じゃないの!」

「男なんだから、あんたが守ればいいだけの話でしょうが」


 叶多は主張するが、綺羅には意味のないことだ。

 一人が危険なら、光翔と流同様二人であればいいはずだ。


「僕に守れるように見えます?」


 自分の魅力を最大限利用しようとでも言うのだろうか、叶多はうるうるした目で綺羅を見てくる。

 子犬のようにも見える。彼の目が「捨てないで捨てないで」と訴えかけてくるようでもあるのだ。

 番犬にはなりそうもない。彼の能力を考えれば、尚頼りない。


「見えない、確かに全然見えない。ちょー小動物」

「でしょでしょ!?」


 普通は小動物であるところを否定すべきだと綺羅は思うが、既にもう彼の思い通りになってしまっているのかもしれなかった。


「だーかーらー、一番強そうな先輩が護衛ってことで」


 にっこりと叶多が言う。勝ち誇ったような表情に見えるのは気のせいではないだろう。彼はそのつもりに違いないのだ。

 実に不本意な言われようだった。

 確かに綺羅は丈夫だ。一度は優月の能力の恩恵を受けているが、必要だったとは思わない。

 喧嘩だってできる。それこそ、相手によっては叶多と星南の二人を守れるくらいには。

 なにせ、神藤明臣仕込みなのだから。


 それとも、単純な力ではなく、三度事件の気配を嗅ぎ付けた鼻を頼ろうとでも言うのか。

 一度目はそこに居合わせただけだと思っていた。

 二度目は標的の側にいた。

 けれど、三度目が何なのかは自身でもわかっていない。


 二度目に星南を狙った聖は彼女を生贄だと言った。

 綺羅を引きずり出すこと、それが目的ならば側にいるべきか、離れるべきかわからない。

 だが、何をすべきか、行き着くところはわかっている。神藤明臣を探すことだ。


「あのさ、あたしの意思を無視してくれちゃってるけどさ、こっちにだってやることあるんだよ。あんたが姫を守ってやんなよ。子犬でも噛み付けるんだ、意地見せな」

「って言うか、先輩のせいで嫌われたんです。責任とってください」


 綺羅は首を傾げる。

 朝、叶多に星南を押し付けたからだろうか。

 自分のせいだと言われればそれぐらいしか思い浮かばない。


「あー、どさくさに紛れて胸でも触ったとか?」

「そんなことしません!」

「じゃあ、お尻?」

「本当に触ってませんから! 僕を何だと思ってるんですか!」


 叶多が顔を真っ赤にして憤慨した。

 冗談だったのだが、叶多は随分と純情なようだ。

 優月とは抱き合ってるくせに、と綺羅は思うものの、その話題を持ち出してはいけない気がした。

 そこに愛があるとしたら、家族愛でしかない。そういう目で観察してみてよくわかった。優月の方が少しお姉さんのような感じなのだ。

 彼女から見ても叶多は守るべき対象なのだろう。


「と・に・か・く! 先輩が一緒に来てください!」

「仕方ないなぁ」


 叶多は承諾するまで動かない構えのようであり、薄情にも去ろうとすれば噛み付いてきそうな勢いであった。

 彼は確実に意地の見せ所を違えるだろう。



 星南は教室でじっと何かに耐えるように待っていた。

 ここに彼女の居場所はないのだと綺羅は気付く。

 居辛いところで一人待っていたのだろう。それも光翔の言い付けなのかもしれない。

 彼に言われれば星南は従うだろう。他に心を許すものもない。


「えーっと……朝のことは悪かったよ。でも、気付いた奴が追わなきゃいけないんだよ、ああいうのは。いや、何を追ったとか、話すつもりはないんだけど」


 自分でも誠意のない謝罪だと綺羅はわかっていた。本当に謝っているのかどうかも定かではない。

 正直、謝罪の必要性を感じていない。それに言葉だけの謝罪にも意味はない。

 しかし、星南は首を横に振った。


「……ありがとう」


 星南は綺羅に対して怒っているようではなかった。

 問い詰める気もないようだ。


「やっぱりさ、あんたが胸とかお尻とか触ったんじゃないの?」


 綺羅は叶多を振り返るが、星南は不思議そうにしていた。

 叶多の思い違いだったらしいと綺羅は判断する。

 彼らは総じて不器用だ。綺羅が言えたことではないが、対人スキルが高くない。サイキック同士であっても、何もかもわかり合えるわけではない。わかり合えていたなら、潤は今でも星宿寮にいたように思う。



*****



 一日に二度も事件が起きて、校内はざわついていた。

 さすがに、サイキッククラブに起因するものだと周囲も気付いたと見える。

 三人で歩いていれば、視線やひそひそ話に気付いた。


 けれど、ざわつくのは寮内も同じだ。

 星南が狙われたこと、光翔が狙われたらしいことで次は自分だと思う気配がある。

 特に光翔を狙ったのは潤だと彼らは誰も言わなくとも確信しているだろう。

 ゴミ箱が突然燃えたとなれば、そんな不自然なことができるのは校内では潤だけだと知っているからだ。

 たとえ、光翔と綺羅が潤を目撃したことを黙っていたとしても。


 これからもっと面倒になりそうだと思えば、溜息を吐きたくもなる。

 こんなことは綺羅にとって初めてのことだ。

 綺羅も他人の問題に巻き込まれることには慣れていない。

 そこに父親が絡んでいる以上他人の問題とも言い切れないが、まだ対面が果たされたわけでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ