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第1話

修司へ


だんだん春らしい気候になってきましたね。


そろそろ中央公園の桜も花を咲かせるんじゃないかと思うと、嬉しくなります。


もう一緒に下校することもないし


ほとんど会うこともなくなるんだなって思うと


修司のことが恋しくてたまらなくなって


手紙を書いてしまいました。


卒業式の日に、修司と別れた後


悲しさとか、懐かしさとか、いろんな感情が一気に押し寄せてきて、どうしていいかわからなくなって


私が、心の中で何回も何回も修司の名前を叫んでたことなんて、修司は知らないと思います。


修司と私の高校は反対方向だし、どっちの高校もこの街から離れているから


もうあまり修司と会うことがないと思うと寂しいです。


修司に幸せな高校生活が待っていることを祈っています。


元気でね


2003年 3月27日 木下 佳奈子 





ドアが開いたと思ったら、消毒液の匂いがエレベーターの箱の中に押し寄せてきた。


建物は古く、床は固く冷んやりとしていて、廊下の両側の壁には、ひび割れのような、水がしたたり落ちた後のシミのようなものが目に付く。


右後ろのあたりがナースステーションになっていて、看護婦が足を組んで受付の机の帳簿に何か書き込んでいるのが見える。


廊下の左右には背もたれのないベンチが置かれていて、点滴を取り付けた青いパジャマの老人が座っている。僕が通り過ぎるとその老人は、悲しみの色を浮かべた顔で僕を見上げた。


左の壁の真ん中の部屋の横開きのドアが開いていて、廊下から中の様子が伺える。


入り口に近いベットの男性が文庫を読んでいるようだ。背表紙にはアメリカの広大な畑と、その空を飛ぶ飛行機の写真が載せられている。


突き当たりの左側の部屋のドアの取手にホワイトボードが取り付けてあって、黒いマジックで患者の名前が書かれている。


僕はホワイトボードの中に、知っている名前を見つけて部屋の中に入った。


入ってすぐ右側のベッドでは、おばあさんが片耳のイヤホンでラジオを聴いている。顔には水色のタオルが掛けられていて表情は見えないが、イヤホンからはわずかに音が漏れている。


突き当たりの窓からは、この建物よりも背の低い別の病棟が見える。やはり老朽化が進んでいて、ところどころ排水官の色が茶色に変わっている。


奥の左側のベッドが、天井からつり下げられたUの字のカーテンレールに沿って、カーテンで覆われている。


中で診察をしているのかと思って、しばらく様子を見ていたが、カーテンの中からは物音一つしない。


僕はしびれを切らして、カーテンをそっとまくり上げカーテンの内側に入った。


ベッドには誰も寝ていない。


小さな備え付けのテーブルに、お菓子のゴミが置かれている。


ベッドど窓の間の 座椅子に黒い縁取りがついている、丸イスの上に、人形のように静かに人間が座っている。


頭を左肩にのせるようにして首をだらりと真横に折り曲げ、肌は病的に白く、顔に表情が無い。


佳奈子だった。
















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