まるで別人
志郎は〈ミノ会〉の施設に侵入した。
その施設の中では無数の怪人が蠢いていた。
その光景を見て、志郎は驚きを隠せなかった。
きっとそのせいで気配を切るのを怠ってしまったのだろう、背後から肩を突かれた。振り向けば黒い怪人がいた。
「しまっ‥‥‥」
「君、獄伸次の知り合いか」
「‥‥‥う、うう‥‥‥き、君はいったい‥‥‥!?」
「獄伸次の知り合いだ」
声はまるで子供。
すると、志郎は途端に「こいつは獄昭次なのではないか」という思いに至った。なぜだかわからないが、不思議な直感だった。
「君は、獄昭次か‥‥‥!?」
「だとしたら?」
「俺は君の弟から、君を探してもらえないかと頼まれたんだ。伸次くんは君がいけないことをされたんではないかと恐れている! 心配になってるのさ、だから、君が獄昭次であることを認めるのなら‥‥‥」
「冗談言っていけない」
黒い怪人は嘲笑するような声を出した。
「俺はあいつの兄貴でないよ。きっとね」
「しかし、それは‥‥‥」
「そうだろう」
「‥‥‥君は、〈ミノ会〉の恐ろしいのを知らない」
「知るさ。だから獄伸次をここから出したんだろう」
「それは君が彼の兄だから、そういう兄弟の情を持っていたからなんだろう? でなければそんな事を、君のその豪雨のような感情でやると思えない」
「人の心を読む、大人の悪いところだ」
「だが善良な子供を見つけることはできる」
黒い怪人は変身を解いてみせた。
そうして見せた素顔はテレビで流れているような、あるいは兄弟の両親が駅前で配っているビラに貼り付けられているような、「獄昭次」の顔とはまるで違っていた。
その事に嫌な違和感をおぼえながらも頷くしかなかった。
黒い怪人はまたも変身し「俺は次郎だ」と語った。
「さっさと逃げなよ。そろそろ見つかる頃合いだ」
「構わないのか。君は、組織の者として」
「良いのさ。俺もそろそろ此処を出るつもりだ」
次郎は語って、見送った。
志郎は施設を出て伸次に調査の結果を語った。
顔は全く違うものだった、名前は次郎というらしい。
伸次はそれを聞くと、少し切ない顔をしてから、「ありがとうごさいました」と頭を下げた。志郎はどうにかしてこの少年の手助けをしたいと考えるようになった。
兄を想う優しい弟を、どうにかして兄に会わせたいと思った。
ひとりの大人として。
「〈ミノ会〉には、怪人はたくさんいましたか」
「ん‥‥‥? ああ、いたよ。たくさんね」
「‥‥‥そうか。まだ、いるんだ」
「どうしたんだ?」
「俺、これからも頑張ります。きっとあきらめない。俺、〈ミノ会〉がひどい事をしようとしているってことを、学んだんです。だから、それをゆるさないことを頑張る」
「君は強いな」
「そうですかね‥‥‥俺は‥‥‥」
「強いのさ。君のようなのはなかなか居ない。その『ゆるせない』っていう怒りが、強さの証明でいてくれるはずだ」
伸次は頷いて拳を天井に向けて突き上げた。
「俺、頑張ります!」
「そうだな、がんばろう」




