石の砕きを知る
兄・昭次は発見されなかった。
学校に復帰してからもその事を言われる。
伸次には何もわからなかったわけじゃなかった。
心当たりはあった。あの黒い怪人はもしかしたら兄だったんじゃないのか、という気がかりがあった。
しかし、何と説明すればいいのかわからなかった。
だから、言うに言えなくて、ずっと心の中にしまっているばかりで、グズグズと渦巻くその心ばかりが、膿んでいく。
昭次はいつも一緒にいた。
一歳の年の差で、泣き虫の伸次に対していつも勝ち気で。
いつもグズグズしている伸次を引っ張っていってくれる兄。
昭次。昭次。もしあの黒い怪人が昭次だったら、きっと自分は、あの黒い怪人を殺せやしないのだと思う。
『兄ちゃん知ったら、きっと〝バカ野郎〟って俺怒られちゃうな‥‥‥しっかりしなくちゃいけないのに。わかってるのに、身体と心が言う事聞かないんだ‥‥‥兄ちゃんならどうするんだ‥‥‥』
わからない。
『兄ちゃんなら‥‥‥』
わからない。
『俺は兄ちゃんじゃない‥‥‥』
わからない。
いくら考えても、昭次のやっているような事は出来そうにない。
昭次のような強くて頼りがいのある人間になんてなれそうにない。
それが単純にわかっただけで、この先生きていくのにほんとうに必要なことはなんにもわからない。
どうすれば強くなれるのか、どうすれば頼もしい存在になれるのか、自分の気質じゃないから、本当に理解しがたい。
その時だった。胸の下に隠れていた石が皮膚を突き破って現れた。
伸次はそれを組織の追っ手が来た合図だと理解した。
その日は学校が創立記念日で休みで、ちょうど天気も良く、雪も降っていなかったから、母に何も言わず家を飛び出した。
感覚の赴くままに走り、近所の公園で遊具遊びをしていた少年に襲いかかる量産的怪人に蹴りを食らわせた。
「逃げて!」
少年が逃げ出したところで、胸の石をドンと叩く。
白い強化皮膚と黒い複眼の怪人に変身すると、怪人を蹴りつける。
そうしていると、怪人はワラワラと現れ出した。
こいつら全員自分を追いかけてきたんだと理解しているから、遠慮をするつもりはまったくなかった。
この間までしっかりと身体を休める機会はあった。
身体の調子は万全になっていた。
背中から触手を伸ばして、怪人たちの頭を掴み上げる。
滑り台やブランコに叩きつけながら、触手を回避したらしい怪人の石を殴り砕く。すると、変身が解けて人間の姿に戻った。
「なっっっ‥‥‥!!」
『なるほど‥‥‥!! 石を壊すと怪人になる能力はなくなるんだ!! それに、石は砕くと塵になって完全に消えるらしいぞ‥‥‥!!』
これはいいことを知った。殺さずに無力化ができる。
ズワリ、と脳みそに一本の筒が突き刺さるような感覚がおこる。そして、なにかがジュジュっとのぼっていく。
これは歓喜。歓喜。
人命さえ奪わずに怪人だけを消せるようで。
そして即行動。即行。
小柄な十歳児の身体を全体で駆動させて、隙さえ見つければ殴り潰していく。石たけを、殴り飛ばしていく。
怪人は次々に人間に戻っていくし、怪人は次々に無力になっていく。「石があ、石があ」と泣き叫ぶ者もいた。
「なるほど‥‥‥なるほど‥‥‥‥‥‥俺の、石って‥‥‥俺の脳に神経を通してくるから、お、俺の気がおかしくなっていくんだ‥‥‥でも、俺は‥‥‥俺は大丈夫な気がするから、これでいいんだ‥‥‥」
脳みそがビリビリしている。
「お、お前らが何者かわからないけど‥‥‥こうしたのはお前らだから‥‥‥強くたくましくなっていく俺の姿を、見続けてくれ‥‥‥これからも、是非とも、どうかよろしく頼むよ‥‥‥」




