家族のもとへ
少年の身体は山を降りる三日のうちに回復していた。
道路が見えると、坂道を降っていき、コンビニエンス・ストアが見えると安堵に心を撫で下ろして、膝から崩れ落ちた。
少年は、自分の身なりを気にした。
手術着で、服には茶色に変色した血がベタベタとついていて薄汚い。
こんな薄汚い子供を拾ってくれるような善良な人間はいない。
「うう……」
どうすればいいのかわからなくなる。
少年は膝を掴んで泣きそうになった。
もともとこの少年は自分で物事を決めるのがあまり得意ではなく、そして泣き虫だった。学校では、占い好きのクラスメイトから「このクラスで一番心が弱い」と罵倒されたほどだった。
そうして泣いていると、声をかけられた。
顔を上げてみると厳つい夫婦がいて、少年は完全に恐怖した。
いわゆる元不良の二人は子どもが一人で汚い姿で泣いているので心配して声をかけてくれたのだ。
厳つい夫婦は警察に通報しようと一度は考えたが、何か事情があるのではないかと考えると、少年を自宅に連れて行った。
そのコンビニから車で四時間ほどのところにあった。
少年は縮こまっていた。
車内でサングラスをして剃り込みをいれたリーゼントの男は「名前は?」と少年に訊ね、少年は弱々しく「ひとや」「しんじ」と答えた。
「字は?」
茶髪の女が優しく問いかけた。
「地獄の、獄に……伸びる次、って……お母さん言ってました」
「へー。獄伸次かあ……」
少年・獄伸次は頷くと、女は頭を撫でた。
「お母さんのところに帰りたいね」
「う、うん……あっ、はい……」
「トシは?」
「じゅ、十歳です」
「おっ、うちの龍三の二歳上。立派なわけだ」
車内の灰皿にはタバコの吸い殻がこんもりとあったが、二人は伸次が車にいるうちは一度も煙草を吸おうとしなかった。
「娘でね。可愛いんだこれが」
「……アタシ、『獄伸次』って聞いたことあるかもな」
「ほんとうか?」
「ほら、テレビでたまに行方不明の番組あんじゃん。あれで、行方不明の兄弟ってやつ」
その言葉に伸次は反応を示した。
「きょう、だい……」
「そ。お兄ちゃんいる?」
「います。います。兄ちゃん、昭次って言います」
「ビンゴだ。ねぇ龍ちゃん、この子、行方不明のコだよ」
「俺ら見つけちゃったな。警察に連れて行くべきだけど、格好が格好だな。腹も減ってるだろ。その服自分のかい?」
「いや、あの、ち、ちがいます」
「じゃあ、かっけぇ服買いに行くべ」
服屋で新しく服を買ってもらった。
黒いスニーカー、白いデニムとラガーシャツ。
銭湯で身体も綺麗にしてもらった。
厳つい夫婦──小坂井夫婦の男の方・小坂井龍太郎の背中にはかなりデカめの火傷痕があり、見ていると、「昔にいろいろあった」と言われた。
そして、伸次は警察に届けられて、花巻にある家に帰る事ができた。
どうやら失踪から一年が経過していたらしい。
それに、十歳の誕生日を迎えてから四日後の話であるらしく、両親は泣きながら小坂井夫婦に感謝を述べていた。
龍太郎は、いまだ薄ら泣く伸次の頭を撫でた。




