骨折り損
幹部級怪人は蜘蛛の能力を持っているらしい。
触手を出そうとするとそれは口から放たれる粘着性の糸で壁に押さえつけられ、拳を叩き込まれ、転がった。
伸次は顔の強化皮膚を一度外し、口の中に溜まった血を吐き出した。
頭の中がぐるぐると渦巻いて、身体から力が根こそぎ。根こそぎ。
視界がぐるぐる揺らいでいるのを感じる。
何度も殴られた。何度も蹴られた。
その度に嘔吐して、血を吐いて‥‥‥しかし、その度に立ち上がる。
蜘蛛怪人は「なんで死なないんだ」と恐怖すら感じた。
伸次の頭は「逃げたい」という思いが生じると同時にそれを忘却し、身体が恐怖をおぼえる度にそれを忘却していた。
こうすることにより、何度でも立ち上がることができた。
『蜘蛛糸の粘度も‥‥‥拳の速度も、蹴りも、慣れてきたぞ‥‥‥慣れてきたから、なんとか対応できるようになってきた‥‥‥赤い虚忌になって、身体の性能がアップしているんだ‥‥‥これ、いいね‥‥‥』
「これ、いいよねぇ!」
「なにが!!」
伸次の叫びに、蜘蛛怪人は叫び返した。
このとき、蜘蛛怪人はこの世でほんとうに恐ろしいのは何度倒しても起き上がってくる奴だと分かった。
倒れない奴というのは強いが、倒れても起き上がる奴はもっと強い。
伸次はまさにそういう奴で、頭がおかしくなるような感覚に襲われながらも何度も立ち上がっていた。
そして、ついに、蜘蛛怪人の拳は躱された。
対応を始めた。
「一撃手殺さんのでぇ」
「ヒッ‥‥‥」
まず触手が出された。
蜘蛛怪人は同じように蜘蛛糸を出したが、伸次は触手をうねらせて躱し、蜘蛛怪人の背後にいた量産怪人の石を砕いた。
「総帥の事知っていたらさ! 教えてほしいんだけど、是非とも!」
「知るか、知るかそんな事! あのお方は我々の前に姿を現さない! すべてを代理様にまかせているんだ!」
「じゃあさあ! その代理様の事教えてよ! 俺、この組織がやってることをどうにか止めたいんだ!」
「そう言われて、止めるとでも!?」
「止めんのさ!」
「こんな世界になにがある!! お前見たろう!? 自分の母や父に対して、心のない言葉を叩きつけるような人間の群れを!! あんな奴らのために、あんな奴らか生きる星のために何かをするつもりになんて、なぜなれる!!」
「みんなかっこいい鳥なんだ」
「なにィ?」
伸次はそれ以上を言わなかった。
拳を何度も蜘蛛怪人に叩きつけた。
一撃で壊せるとは思っていなかったから。
実際そのとおりで、何十発も殴りつけた。
肩と肘と拳が壊れてからは、触手を腕に巻きつけて無理矢理殴りつけて、そして炎のエネルギーが蜘蛛怪人の体内にたまりきると、最後の一発を叩きつけた。ばりんとゆっくり壊れて、塵になって消える。
「人を苦しめて、人の心を壊しておいて、自分が『人間の群れ』とやらっていうのより優れてると思うのは‥‥‥それは、おかしいよ」
「黙れ。俺は石を持ったんだ。石に選ばれたんだ」
「神石には選ばれなかった。お前みたいなのに生きる価値って、あるのかな。‥‥‥お前は、俺の兄に手を出したな。魔石とかっていうのを埋め込んで、化け物に変えたな」
伸次は蜘蛛怪人だった男の両腕と両足を折り砕いた。回復しても後遺症は逃れられないだろうという複雑骨折。
「どうせ自死する勇気もないんだろ、そうやって石もないくせに生命力だけはある脚なしのゴキブリとして生きていこうね‥‥‥」
「き、さ、ま、ぁぁ! わあ!」
伸次は変身を解いて、笑みを浮かべる。
「お元気で」




