新たな敵
その夜
清一ジュヌヴィエーヴのフィギュアの前でひとり呟く。
「ジュヌがフィギュアだと言えるんだけどな。俺はお前の事が好きみたいだ」
「色々と迷惑を掛けてごめんな。これからも一緒にいて欲しい」
清一はふっとため息をついた。
「今、こんな事言っても仕方ねぇよな」
電気を消し、もう一度フィギュアを見る。
「ジュヌ、おやすみ」
翌日
「清一、感じる?」
清香とエイムズが血相を変えて部屋へ来た。
「ちょ、ちょ、今着替え中」
「あ、ゴメン」
ズボンに財布と胸ポケットにお札、カバンに各道具を詰めて肩にかける。
「よし、準備OK」
「ボクもいつでも出れるよ!」
「行くワン」
「姉貴、エイムズ、行こうか」
「よし、出発」
「なぜ、今日になっていきなり出てきたんだろう?」
「確かに、昨日は反応なかったよね」
「誰かが召喚でもしたのかな?」
一行は凄まじい魔力反応が出ている場所へ急ぐ。
「この辺のはずなんだけど」
反応がある住宅地の一角を見回す。マンションが数棟あるだけのごく普通の――感じ取れない者が見たらそう感じるだろう。
「どこからだ!」
三人目が一つの集合住宅に注がれる。
建てて数年程の真新しい住宅からは想像つかない空気にノドが焼けるような苦しさを感じた。
「行こう」
エイムズの声に正気になり皆で歩き出した。
建物はオートロックで閉じられており一筋縄でいかなそうに感じたのだが。
「魔狐、そこの隙間から侵入して内側からこのトビラを開けて」
「こん」
魔狐は隙間に入る。
その間に清一は少しばかり後ろに下がる。
(ええっと、1、2、3、4、5――5階建てか)
「あっ、来た」
ガチャ
魔狐がトビラを開けると、清香が閉まらないように素早く手を入れた。
「行こう」
建物の中へと進む。まるでいざなわれるように……。
「何階だろう?」
清一が小さく呟くと清香が反応した。
「気配を辿ろう! エレベーターで最上階まで上がってそこから降りてゆくのはどうかな?」
「エレベーターの中で襲われたらひとたまりもないぞ」
「まあ、それもそうだね」
エイムズの警告を受けた清一が頷く。
トントントン
階段をゆっくりと上ってゆくと段々と魔の気配が強くなってゆく。
「ここは……強烈だな」
一段と強いフロアにたどり着いた時、その気配が胸を押しつぶすように息苦しくなった。
「ここのどこかだな」
「ただ、カギが閉まって入れなかったら」
「ピンポン押しても出て来るか分からないしな」
今更ながら部屋の中の事を気にしている自分たちに呆れて苦笑いを出すと廊下を歩き出した。
「どうやらここのようだ」
エイムズが言うまでもなく、まるで妖気を思わせるような禍々しい気配が中から漂ってきていた。
「チャイムを鳴らすぞ」
清一がボタンに手を伸ばしたその時、この世の物とは思えないような声色の声が響いて来た。
「あいてるよ~」
「うっ」
思わず背筋が寒くなる。
エイムズはポケットから黒い手袋を出した。
「それは」
「感電防止の手袋。ドアノブは金属だから」
清香の質問にこともなさげに答える。
「清香さん、私が開ける。このトビラは右開きだから、あなたとジェームズさん、清一さん、そしてジュヌヴィエーヴさんは左側へ、希狛と魔狐はこちら側でいいですか?」
「エイムズさん、あなたは大丈夫?」
「大丈夫です!」
心配げな清香にエイムズは自信ありげに頷く。
ジュヌが無言で銃に装填している。清香と清一がお札を出して開いた瞬間放り込む準備を取っている。ジェームズが剣を臥す。魔狐と希狛はトビラの開き半径外から侵入できるよう外側に身を置き中を伺う。
エイムズは慎重にドアノブを握り、音もなくゆっくりと捻る。
「開けるぞ!」
勢いよくトビラを引くと、むせるような邪悪な気配が流れ出てきた。
何か出て来るかとしばらく構えたまま動かずにいた所、中から何も動きが無い。
「姉貴」
「うん」
清一と清香が思い切って入り口の前に身を乗り出し中を伺うも、直線状には人影どころか物すらなにもない。
家の中は玄関から廊下が続き、リビングがあり、その奥に二つほどの部屋がある。
玄関から少し入った廊下の横には恐らく浴室かトイレかのトビラがある。
「姉貴、俺が先に入る」
「わかった」
「希狛、行くぞ。ジュヌは支援を頼む」
「了解」
さすがに土足で上がるのは気が引けた清一が靴を脱ぎ捨て廊下に上がった。
「よし」
手前のトビラを目一杯開き、中を確認する。
「浴室とトイレだな」
両引き戸は空いており、室内を確認できる。
「おっと」
その部屋を確認しに入っている間に、ジェームズと清香、そしてエイムズが玄関より侵入してきていた。
「姉貴」
「そうね」
清一に促され清香は思考を始め、それが固まると指示に近い提案を出した。
「清一、アンタはエイムズさんと左側に当たって。私たちは右側を当たるから」
「わかった。ジュヌと希狛、魔狐は向かいを確認しつつ何かあったなら飛び出して対処するということで姉貴、いいか?」
「そうしましょう」
左右でアイコンタクトを取り一斉に駆け出す。
「いない」
「こっちも」
「右の奥の部屋だ!」
その時、先ほどまで清一たちがいた部屋の手前まで進んだジュヌが、声を張り上げる。
「ギュワーーー」
振り返る清香たちに百眼の妖怪が飛びかからんと弓を引くように屈む。
「間に合え」
ジュヌが放った弾丸が多数ある目の一つに命中すると、妖怪は痛みのあまりか悶え始める。
「先ほどまではいなかったはずだが」
清一と清香がお札を飛ばすと、次々と妖怪に張り付き淡い光を放ち始めた。
「清一さん、左側にも」
そこには俗にガーゴイルなどと呼ばれているような悪魔が翼をはためかしながら獲物を襲う目でこちらを見ていた。
「浴室にも、何か湧いたワン」
ガタガタッっと激しい衝突音が玄関の方から聞こえてきた。
「囲まれたか」
「それぞれ目の前のヤツを倒すしかねぇな」
「そうだね」
「行くぞ!」
ドン
清一は刀を抜くと、鞘を投げ捨てガーゴイルと対峙し、エイムズもグラディウスほどの長さの剣を鞘から抜き取り構える。
清香が御幣を取り出し術を唱え、ジェームズが槍を取り出し妖怪へ向けた。
希狛は獅子へと変わり低いうなり声を上げると、魔狐が炎の術を唱えだしジュヌは銃へ弾丸を装填し終えるとレイピアに手を掛けた。
「芍薬氷雨」
清一が術を繰り出し、同時に刀で切りかかる。
ガーゴイルは巧みにそれを躱し、炎を吐き出す。
「セイクリッドジャベリン≪聖なる槍≫」
エイムズの魔法がガーゴイルの背後に刺さると、奇声を上げた。
「小夜嵐」
清香が術を放ち、追い打ちにお札を投げると百眼が怯んだ。
「もう一回」
その隙にジェームズが槍を手元から巧みに繰り出し、百眼の肉塊に多数突き込む。
「喰らえ!」
ジュヌが浴室から出てきた半魚人のような姿の魔物に射撃を放つと、体に命中し動きが緩慢になる。
そこへ魔狐が炎を放ち半魚人は炎に包まれ、希狛のナイフのような爪から繰り出される引っ掻きによって胸がえぐられる。
「よし、行ける」
一体一体と魔の者が地面に倒れると小さな歓声が上がり、三体目を仕留めた時にはみな満足そうな笑みを浮かべた。
「終わったのかな」
「邪気のわりに以外に手ごたえが無かったね」
「そうだな」
「ふふ、そうかい、彼らでは君たちの相手にならなかったみたいだね」
どこからともなくトビラの前で聞こえたこの世の物とも思えない声が部屋全体に響く。
「誰だ!」
「みんな、外向きの姿勢のまま中央に集まりましょう」
清香の言葉にみなジリジリと中央に向かって後退を始める。
「止めた方がいいよ。私がいるから」
ばっとみな振り向く。
そこには――青年と言うには若く見え、少年と言うにはもっと上に見える、エルフのように尖った耳を持つ粗末な衣装を着た人間のような姿をした者が立っていた。




