エイムズの兄が襲われた廃ビルへ潜入
エイムズの話では兄が襲われたのは町中の廃ビル、魔の反応に釣られて襲われたとの事だ。
「良く助かったな」
清一は感心した。少なくとも救急搬送をされるくらいの攻撃を受けながらビルの外まで退却しているのだ。
正直逃れられていたか分からない。清一はそう思った。
「敵は、人間と獣人のような二人組と言っていた」
エイムズはそう語っていた。
ただ、警察には屈強な男二人に連れ込まれ襲われたと言ったそうだ。
ちなみに廃ビルはすでに調査済みとのことだが……。
「とりあえず、私たちのもそのビルに行ってみましょうか」
清香の突然の宣言に有無も言わせずに行くこととなった。
「姉貴、懐中電灯あるか?」
清一の言葉に姉は笑いながら「今はまだ昼よ」と言う。
ジェームズが「室内は暗い所もあると思われますので、途中の百円ショップで調達した方がよろしいと思います」と助け舟を出すと、清香はジェームズ様の言う通りですわと応じてくれた。
家にあるものを持ち出して電池を確認し、使えるものは持っていき、道中の店で人数分と予備の懐中電灯と電池を購入した。
「電池を入れないとつかないからね」
「わかってるって」
それぞれの電灯で点灯確認を行い、問題は起こらなかったのでそれぞれに分配し廃ビルに急ぐ。
ビルに到着する。
「俺が初めに入るよ」
「清一さま、では次は私めが」
「その次は、行くワン」
清一、ジェームズ、希狛がまず入り、安全なら外に伝え、ジュヌ、エイムズ、魔狐、最後に清香が入ることで決まった。
「よっと」
風化して壊れている場所から体を入れ侵入し、後続が入れるように数歩進む。
「やはり暗いな」
建物の中は当然電気などついておらず、窓から侵入する太陽光を頼りに見回すのだが、トイレや給湯室などはもとより一階のガラスを割られないようになのか侵入を防止するためなのかベニヤ板で窓を塞がれ集光出来ずに、間から漏れる光を頼りに周囲を確認する。
「懐中電灯を点けた方がよいかと」
後ろから入ってきたジェームズに促され、スイッチを入れた。
「特に異常はないな」
「魔物の匂いはしないワン」
「こちらに反応はないですね」
外に連絡すると、ジュヌを始めみな続々と入って来た。
「うわ、ホントに暗い」
「エイムズさん、お兄さんはどこで襲われたかご存じですか?」
「兄は三階で襲われたと言っておりました」
「行って確認してみましょう」
清香たちが先行し、エイムズが続き、清一たちが殿を務める。
「この建物って何階建てなんだ?」
「清一さま、外から確認したところ五階建てでしたよ」
「なら、三階を見終わったら、上から確認していった方がいいんじゃないかな」
「エイムズさんは、各階見回りましたか?」
清香の言葉に首を振った。
「それなら、時間が許す限りそうしましょう」
階段を上ってゆくと、二階以降はベニヤが無いおかげか日が入り一気に明るくなった。
フロアは学校の教室大の広さの部屋が二つ、会議室のような狭い部屋が三つほど、トイレに給湯室それに倉庫部屋が存在している。
建物の大きさ的には各フロア似たような作りと思われた。
「エイムズさん、この部屋でいいのかしら?」
清香が入った部屋は埃っぽい空気とは裏腹に荷物など何もなくがらんどうとしており、太陽光により部屋の半分ほどに日が入る事によって、室内を見通す事が出来た。
「はい、兄の話ではそうです。血の跡がありますので恐らくそうでしょう」
部屋に入ると慎重に調べを進めてゆく。
「さすがに警察が調べた後にエイムズさんが調べたから、なにも残ってないね」
「俺は隣の部屋を調べて来る」
「あ、清一待ってくれよ」
清一とジュヌが隣の部屋のトビラを開けると、前の部屋よりもかび臭い匂いが立ち込める。
「すごいな」
「ゴホゴホ」
「ジュヌ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
こちらの部屋も何も置いておらず、広々としていた。
「何もねぇな」
「ああ、魔力の反応もないね」
清一たちが部屋を出ると、清香たちは小さな部屋を懐中電灯片手に調べていた。
「姉貴、なんかあった?」
「いや、ない」
「ひょっとしたら、ここは迎撃のために来ただけで、いたのは別のフロアだったのかも」
清香の言葉にみなはっとした。
「確かに、エイムズの兄貴が入ってきたのに気付いてここに来たのかも」
「五階から調べてみよう」
「おお」
「二手に分かれて探そう」
清香がそう言うとそれぞれ別の部屋に入ってゆく。
「何もない」
「こっちも」
小さな部屋を探すもこちらも何もない。
「次は四階だ」
「上と同じように分かれよう」
清一たちが調べ始めた矢先、魔狐が息せき切って入ってきた。
「コーン、コンコン」
魔狐の様子を見た清一たちは清香たちに何かあったと思い、駆けだした。
「姉貴!」
部屋の中には、多数の亜人類とも言うべき人の身長くらいある毛むくじゃらな何者かがよく分からない奇声を上げていた。
ジェームズがグルングルンと棘の付いた鉄球を回す。
「あれ……」
「清一が買ってきた武器のヤツだよね」
「ああ」
ジュヌと清一の会話をよそに、グルグルとロボットハンマーを振り回す王太子様。
「なんか、かっこ悪いね」
「ああ」
ハンマーでデミ・ヒューマンをバッタバッタと蹴散らす王太子様。
「何か、強いね」
「俺ら、来た意味無いんじゃね」
「……」
「キャージェームズサマァー、カッコいいですぅ」
清香の黄色い声が飛び交う。
「カッコいいのか……あれ?」
「さあ? 人には色々な好みがあるんじゃないのかな」
ジュヌと清一はあっけらかんとジェームズの大活躍を見守っていた。
部屋の中のデミ・ヒューマンたちが倒された後に何か残っていないか皆で調べ始めた。
「姉貴、こいつらは部屋に入ったらいたのか?」
「部屋にみんなで入ったら霧みたいなのが湧きたって出てきた」
「どっかに仕掛けがあるのかな」
「あるとしたらトビラ周辺かな」
「……」
「姉貴」
「どうしたの?」
「あれっ」
清一はトビラの一点を指さす。
「これはっ」
そこには紙のような切れ端が括りつけられていた。
「お札ね、特殊なタイプみたい」
清香は手袋を装着し、慎重にはがしてゆく。
はがし終えると、透明なチャック袋に入れて中の空気を抜いてチャックを閉めた。
「後で調べてみる」
「これは、後で調べに来た人間を罠に嵌めるヤツか?」
「かもしれない。だけど警察が掛かったらどうしてたのかな?」
「確かに」
その後、四階の残りの部屋および一階、二階を調べてみたが何も見つからなかった。
みなで廃ビルの外に出るころには、日がガクッとかたむき人々はオレンジ色に染まっていた。
「ねえ、エイムズさん」
「何でしょう?」
清香は優しくエイムズに声をかけた。
「お兄さんが入院しているってことはあなた一人なの?」
「はい」
「大丈夫? 何なら家に泊まる? 部屋なら余裕あるよ」
清香のいきなりの提案にエイムズはしばし固まる。
「姉貴?」
「清一は黙ってて」
「お、おう」
「迷惑になってしまいますから」
そう言って断るエイムズに清香は「一人じゃどうしようも無いから清一を頼りに来たんじゃないの?」と疑問を呈する。
「確かに、そうですね」
「なら、来なよ! 一人でいるときに襲われたらどうしようもないでしょ」
清香はそうやって強引に話を決めてしまった。
「清一は先に家に戻っていて」
「姉貴は?」
「エイムズさんの家へ寄ってから帰る」
「俺も手伝おうか?」
「アンタはいいの! 女性に対してデリカシーなさすぎ」
清香は清一の話を一蹴し、エイムズと一緒に会話をしながらそのまま歩き出した。
「清一はダメでジェームズはいいのかい?」
ジュヌは不快そうな声を出しジト目で清香たちの後ろ姿を眺めた。
「まあ、仕方がないさ」
「あまり金はねぇけど……お菓子でも買って帰るか」
「乾燥肉が欲しいワン」
「ボクはポテチかな」
「よし、行くか」
「オー」
清一たちは家の近くの店に向けて動き出した。




