清一とジュヌヴィエーヴ――戦いその後
部屋を出てエレベーターへと足を向ける。
清一とジュヌ、清香に希狛、それにジェームズ。
「この子大丈夫?」
清香は獅子になった希狛の姿におっかなびっくりで接触してみていた。
「希狛は大丈夫だよ、きっと」
「きっとなんだ」
「大丈夫だ。我は危害は加えん」
「わっ、喋った!」
「そんなにおかしいか? 清香殿の方がよっぽどおかしな人だ」
清香は安心したのかふわふわな毛を気持ちよさそうに撫でまわす。
「くすぐったいので遠慮していただきたいのだが」
「あら、ごめんなさい」
エレベーターを使い中間階まで降りる。
「あのOLさんいないね」
「大道寺君たちと一緒に行ったのかな?」
(ジュヌ……大丈夫かな)
清一がジュヌに視線を向けると、ジュヌは慌てて視線を逸らす。
(あれ、反らされた、俺の事嫌っている、いや嫌ってるならキスしないだろ……だよな)
(ビックリした! いきなり見ないでおくれよ。まともに顔が見られないよぉ)
ジュヌと清一は、お互い無意識に唇に触れる。
そしてお互いを方へ視線を向け、それに気づきすぐに反らす。
「重病ね」
清香がため息をつく。
「まあ、いいのではないでしょうか。若いお二人ですし」
そう言うジェームズへ向け清一とジュヌは強く否定する。
「そんなんじゃない!」
「そんなのではない!」
お互い見やって、顔を赤らめ視線を背ける。
(どうしよう、思わず口にしちまったけど……勘違いして嫌われるかも)
(どうしよう、清一絶対勘違いするよ……このままだと嫌われちゃうよ)
「何考えてるか手に取るように分かるわね」
「……清香殿」
「希狛、あなた……あそこはちょっと居心地が悪いわね」
清香は希狛に同情し頭を撫でた。
チーン
エレベーターで地上まで降り立つと、広いロビーへと歩き出す。
辺りを見渡すも柏野の姿も無かった。
「姉貴が来たときは、柏野さんはここにいたの?」
「柏野って、あの警備員の人? いたよ」
「なら、みんなで逃げたのかな?」
清一は柏野にしても中田にしてもできれば一緒に行って逃げおおせて欲しいと密かに願っていた。
ビルから一歩外に出ると、傾きかけた日差しが優しい光を一向に注がせる。
青空と夕焼けを混ぜた紫がかった空に視線を預けたまま清一はジュヌの気配に向かって口を開いた。
「さっきはゴメンな」
「ボクの方こそゴメン」
「「えっ」」
清一とジュヌはお互い見やり固まった。
「もう、めんどくさいなぁ、もう一度キスしちゃいなよ」
「あ、姉貴……な、なにいってるんだよ!?」
「そ、そうだよ、なにをいきなり言うんだい?」
清香たちはため息をつく。
「「「本当にめんどくさい」」」
「姉貴、電車途中までしか動いてないって」
「そこから乗り換えとかあるかな? バスとかどう」
清香はスマホをいじくりだす。
「なさそうね」
「行けるとこまで行って歩くしかねぇかな」
「うーん、それだけは避けたいかな」
市勢は緊急事態宣言もあってか、どこもかしこもすごく混乱しており、交通機関を始めあらゆる機関がまともに動いておらず、帰るのに難渋した。
「とりあえず、乗ろう! 折り返しで動いているかもしれない」
電車は途中途中休憩しつつ終点までゆっくりと進んだ。
「折り返しの駅に到着すると、対向ホームに電車が止まっている。
駅員を捕まえて行く先を訪ねた。
「ラッキー、これに乗れば帰れるよ」
清香の判断通り、折り返しの電車が用意されていたようだ。
「ただ、出発の時刻が……」
一時間程度待つことになりそうだ。
「仕方がない、待つしかないよ」
宣言が出てから外出する人間が少なくなったとはいえ、電車は混んでいるため式神を元の大きさに戻す必要がありそうだ。
「ジュヌ、しばしのお別れだ」
「清一、電車を降りたら具現化しておくれよ」
「ああ、約束する」
(また始まった)
(めんどくさい)
式神を戻すと清香と二人で車外のベンチにて出発の時間まで過ごす。
プルルルル
発車ベルが鳴り響くと電車に飛び乗り動き出すのを待った。
ガッとドアが閉まると、ゆっくりと電車が動き出す。
「よかった、どうにか帰れそうだ」
「清一、ついでだから買い物して帰るよ」
「了解! 式神用意しとくね」
「確かにそうね。私もそうする」
手が塞がっている時に襲われたらひとたまりもない。
家に着くと太陽は地平線へと飲まれ残光を残すのみとなっており、その薄い光が神社へとわずかに注ぎ、街灯の明りとの光の小競り合いをしていた。
「やっと帰ってこれた」
清一がカギを開け清香と共に家に入ると、買い物袋を居間に置いてテレビをつけた。
「清一、何か新しい情報ある?」
「わからねぇ。今ちょうどニュースの時間じゃねぇみたいだ」
「あ、たしかに」
清香は壁に掛けてあるアナログ時計を見て呟く。
「そうだ、行く前にお風呂湧かしてあるから順番に入って行って」
「ボクからでいい? 汗で凄いことになっているんだよ」
「入っちゃって」
清香は忙しいあまり誰が言ったかを確認せずに適当に相槌を打った。
テレビの右上には6:57分を映し出していた。
一通りチャンネルを変えるも時間帯が悪いのか、スマートフォンの方がマシな情報を得られると判断し、点けっぱなしでテーブルに戻った。
「清一、冷蔵庫に仕舞うから手伝って」
「わかった」
そう言ってパッケージングされたものを冷蔵庫に入れてゆく。
「肉とか冷凍する物はそのままでしといていいから」
「わかってるよ」
子ども扱いにため息を一つついて作業を進めていく。
「よし、終わった」
「ご苦労様」
清一は清香に「何かやることがある?」と問う。
「とりあえず無いかな。先にお風呂入っちゃってよ」
「わかった、先に入るよ」
「うん」
清一は自室に戻り、タンスから着替えを引っ張り出して風呂に向かった。
ガラララ
清一は風呂のトビラを開ける。
「えっ!!」
清一の目が丸くなる。
「まだ、チョット早いかな」
ジュヌは両手で隠すと赤みを帯びた顔とともに後ろを向いた。
「ゴ、ゴメン」
清一がばっとトビラを閉めると意味が無いのをわかっていながら後ろへ体を回転させた。
(ヤバい、鼓動がヤバい)
早鐘が競輪の最終週を示すように理性のラストを指し示し、それを必死に鎮圧しようと深呼吸を繰り返す。
(前回は悲鳴を上げられて姉貴が来たっけ)
(それにしても、色気が凄かったな)
清一は思わず真っ赤に火照った視線を思い出した。
「やばい、心頭滅却!」
一方、脱衣室。
(また、清一に見られちゃった……さすがに恥ずかしいな)
バスタオルで体を拭きつつ、洗面台に自分の顔を写してみる。
(変じゃないよね! 髪がボサボサだ。直さないと)
それから三十分後
「清一、またせてゴメン」
「ああ、大丈夫、たいして待ってないから」
「はぁ、デートかよ!」
清香のひと際大きなため息は、換気扇から夜空へと流れ、静かに溶けていった




