ジュヌヴィエーヴの生みの親・太田とジュヌと清一の関係
「この部屋にはいない」
「こっちにもいない」
早足で各部屋を確認しつつ、どんどんと奥の部屋に近づくと、魔力を感じる一室がある。
「ジュヌ」
「うん、清一」
二人一匹でその部屋に急ぐ。
部屋はトビラが開け放たれ、中からは窓より入る太陽光が廊下まで伸びていた。
みなで頷きあい部屋に踏み込んだ。
中はガラス張りの部屋になっており、オフィスデスクがアイランド形式で規則正しく並べられ、その島が六つ程ある。
「あれは?」
一番奥の窓際には一段と大きなオフィスデスクが設置してあり、そこに置いてある立派そうな背もたれのイスに何者かが座っているのを確認できる。
「太田さん!」
清一が声を掛ける。
「陽翔!」
次に声を出したジュヌの声に反応し、ゆっくりとイスが回転してゆく。
「よう、久しぶりって、数日前に会ったばっかりか」
二人一匹は太田に向けゆっくりと歩みだした。
「なぜ、なぜ、そんな無謀な事をしたんですか」
清一の中の太田は、不利な場面でも反撃できるタイミングをしぶとく待ち、いざそのタイミングが来たら冷静に対処して逆転する。少なくともテレビゲームの中ではそうだった。少なくともゲーム的に考えると絶望的に戦力差が離れている。
「そうだよ、あまりにも無謀だよ」
太田は再びクルリとイスを翻す。
「今日は、いい天気だな」
ほがらかな声で独り言というには大きな声で太田が呟いた。
「小さく薄い雲があるのがもったいないな。画竜点睛を欠くってのはこのことだな」
「そう思わないか?」
太田は振り返り、清一たちに問いかけてきた。
「……太田さん、それは太田さんの心の中の話ですか?」
太田は微笑みを浮かべるだけで言葉を口にすることは無かった。
清一は歩みを止める。太田との距離はいつでも仕掛けられる至近距離――逆に太田のその緩やかな態度から奇襲は無いと清一はうっすらと考えていた。
「本当に二人とも強くなったな」
「……」
「三人を撃破してきたんだろう?」
「……はい」
清一は辛うじて頷くことができた。話したいことが溢れているのに上手く言葉にできない。
「どうした、まさか再起不能にしちまったか?」
「そんなことないよ、三人とも生きているよ!」
「はは、ジュヌヴィエーヴ、冗談だよ」
焦るジュヌに対し穏やかにからかった。
「もう、焦っただろう」
「ははは、悪かったよ」
清一は二人を見て不思議な感覚を覚えた。
(以前は、こんな感じで一緒にいたんだろうな)
「中条君だったよな? 悪い、アリガトな」
「太田さん……」
「お前にジュヌヴィエーヴを渡さなきゃ死んでいただろう。二人で困難を乗り切ってきたんだ、誇っていい」
「……陽翔」
「シケた顔すんなって。俺はお前らをホメてんだぜ」
太田は身体を返し、ガラスへ向け数歩進む。
「俺にはできなかったからな」
「太田さん!」
「なんだよ、改まって?」
「ジュヌヴィエーヴを譲ってくれてありがとうございます」
「清一……」
直角に頭を下げる清一を見る事なしに太田は笑った。
「俺、この間、初めてジュヌの出ているマンガ買って読みました」
「……」
「ここまで性格、仕草、言葉遣い、細部にこだわって作った式神はほとんどないと思います」
「ふふ、ただ偏屈でこだわりが強すぎるだけだ」
太田が自虐的な笑いを浮かべる。
「そんなことない、陽翔のお陰でボクはここまで瓜二つになれたんだ」
「困ったやつらだ、やりにくいっての」
背中越しにも苦笑いをしている様子が見て取れた。
「太田さん、止めましょう、今なら……」
「残念ながら……もう遅いんだ」
「陽翔?」
「優希は帰れっていってたろ」
「はい」
やさしい声で子供に諭すように話を続ける。
「もう、俺たちは、動いちまったから」
「まさか!」
「ああ、お前たちが想像したとおりだ」
二人の顔が曇る。
「そんな……」
「本来なら、ボスのように式神を呼びたいところなんだけど、死んじまったから」
(そういえば、この間会ったときは、フィギュア買いに来てたようなカンジだったな)
清一は抵抗軍の話を聞いた時の事を思い出した。
「残念だな、どうする?」
「陽翔、いるか!」
そんな折、部屋の外から聞きなれた声が聞こえてきた。
「チッ、おせっかいが」
声は徐々に近づき、激しい息遣いと共に背後に迫った。
「陽翔」
「ん? あんだよ」
太田はめんどくさそうに大道寺を見る。
「何だよじゃないだろ! 何やってんだよ」
大道寺は激怒しながら太田に詰め寄った。
「もう、遅せぇんだって」
いつの間にか清一の背後に清香も到着していた。
「陽翔、行くぞ!」
「行くってどこにだよ?」
「逃げんだよ!」
「お前は関わってないだろ! 俺らは適当にやるから気にするな。卓也……お前はきれいな道を行け」
パァン
頬をビンタする音が響く。
「陽翔。お前は何度も俺を助けただろ! お前がいなきゃ俺は死んでた」
大道寺の視線が真っすぐと太田を捉える。
「今度は俺が救う番だ!」
「しかしなぁ」
「大丈夫だ! 抵抗軍はまだまだ沢山いる。そこに目を奪われている内に国外へ脱出するんだ」
渋る太田の服を力強く引っ張る。
「陽翔、行こう。こうなっちゃ仕方がないじゃない」
いつの間にか氷上が清一の横に立っていた。
「下の二人にも声をかけて行くようなら一緒に行動しよう」
「でも、あの二人年上だぜ」
疑問符を浮かべる太田に大道寺は笑いながら「わからないだろ。声をかけるだけ掛けよう」と声を出した。
「仕方ねぇ、じゃあ行くか」
そう頭を掻く太田に対しジュヌは寂しそうに声をかける。
「陽翔……」
「ジュヌヴィエーヴ、元気でな。ソイツは俺よりもいい奴だから二人仲良く幸せにな」
「うん、ボクはそのつもりだよ。だけど、陽翔がボクに命を吹き込んでくれなかったら今のボクは無かったから」
「フッ、気にするなって」
「お礼だけは言わせて欲しい」
「好きにしろ」
「ボクを生み出してくれてありがとう」
太田は照れているのか右手を上げてそれに答えると、三人連なって部屋を出て行った。
「ジュヌ」
清一が頭を撫でると、ジュヌは清一の方へ身体を向けた。
「これからも、よろしくお願いするよ」
そう言って満開の笑顔を浮かべた。
「こちらこそよろしく」
清一もそれに答えて笑う。
ジュヌがゆっくりとまぶたを閉じると、つま先で立つ。
「……ん」
「えっ」
清一はまわりに視線を動かす。
「はぁ、清一」
清香が呆れてため息と一緒に声を漏らした。
「チョット、この姿勢疲れるんだよ」
ジュヌは目を開けると批判的な視線を向けてきた。
「えっ、えっ?」
ジュヌは清一の戸惑う姿を横目に再び瞳をまぶたで隠しつま先で身長差を埋める。
(こうなったらやるしかねぇ)
清一はジュヌの右手でジュヌの唇の角度を合わせて、己の唇でそれを塞いだ。
「ん、んん」
それは、数秒だったのかそれとも数分だったのか。時が動いているのか止まっているのかも分からない。
ただ、唇を合わせていたのだけは確かだ。




