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見習い神官兼陰陽師、式神失格としてリリースされた型落ち倉庫番のフィギュアと共に一人前の階段を駆け上がります  作者: クワ
第四章

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思い出のⅤチューバー 氷上

 チン

 エレベーターのベル音が鳴るとトビラが開け放たれた。


「最上階……」

 スプリングの押し戻す感覚と共に、フロアを指し示す明りが点灯する。

「清一」

「乗ったワン」


 エレベーターは順調に滑り出して上昇を続ける。

「このフロアに太田さんたちはいるのかな?」

「わからない。わからないが行くしかないよ」

 ジュヌの落ち着いた声がエレベーター内に響いた。


 チン


 エレベーターが開き、警戒しながらフロアに降り立つと慎重に周囲を見回す。

「誰もいないのか?」


 廊下をゆっくりと歩き進むと、以前見た顔を発見した。


「お二人とも、お久しぶりね」

「……」

「二人とも成長したみたいね。お姉さん、譲るように勧めた甲斐があったわね」

 そう言って微笑む。

「氷上さん、なぜ、なぜ、抵抗軍に身を投じたのですか? 勢力として不利すぎますし、第一魔物や妖怪を無視することになるじゃないですか」

 清一のぶちまけた思いを黙って聞いていた氷上は、おもむろに口を開いた。


「それでは現状変わらないでしょう。それとも、あなたや私のような人間が、我慢して、報酬もろくに貰えない、でも命を懸け続ける……それでいいの? 清一君」

「それは……」

「人間はなかなか変われない。変わらざるを得ない状態になっても変われない……そう、変われないの」

 諦めのため息交じりのセリフを聞きながら、変われないのは、ひょっとしたら太田や氷上自身の事を言っているのではと清一はふと思った。


「じゃあ、変わろうよ! 二人ならこの国以外でも生きていけるよ」

「ありがとうジュヌ。でも、もう遅いの」

「えっ、まさか……」

 氷上は目を伏せかぶりを振った。


「だから、私と太田君を説得しようとしても無駄よ」

「だけど……」

「でも、ジュヌに清一君……ありがとう。お姉さん嬉しかった」

 顔をほころばせながらジュヌの言葉を制止し、腰を曲げて頭を下げた。


「だから、ゴメン――帰ってね。あなた達を傷つけたくないの」

「陽翔に会わせておくれ! 説得してみせる」

「ジュヌ、もう無理なの」

「会えば……」

「明けない夜は無い。だけど昼になり天高く日が昇るには生贄が必要な時もある」


「……」

 そう言うとワンドを抜いて杖の先端を凝視する。

「よし!」

「えっ!?」

 氷上の声色は明るく変わり清一とジュヌは戸惑った。


「Vチューバー、氷上優希、今日で引退だよぉ~、ホントに今日で最後の最後……マイクもカメラも無いけれど、がんばるよぉ」

「式神、ヒル、おいでませぇ~」


 純白の流行りのウェディングドレスのような衣装を羽織った女性が現れた。

 結婚式に似つかわしくない所があるとすれば、両手に鋭い短剣を持ち合わせていた所だった。


「ジュヌ!」

「うん、行くしかない!」

 お互い頷きあうと、詠唱を始めた。


 二人が放った放物線を最短距離でかわし、床を蹴り上げ飛翔する。

「飛べば、着地点が計算できる」

 清一とジュヌはそれぞれ武器を構え迎撃の予備動作を始動する。

「えっ」

「そんな、バカな」

 ヒルは空中で身体をくねらせると、斬撃と刺突のタイミングをずらし攻撃を避けた。

「うぐっ」

 ヒルは清一の肩に剣を突き立て、己を振り子のように稼働させ、ジュヌの方へ飛んだ。


「ああっ」

 動きを見たジュヌが攻撃を避けようと動くも、避けきれずに剣先により腕を切り付けられる。


「な、なんて速さだ」

「はは、隙ありです~」

 氷上の魔法が清一を包むとかまいたちが体中を切り裂いた。


「フェイユ」

 ジュヌが魔法を唱えると、大小色とりどりのさまざまな葉っぱが吹き荒れヒルと氷上の視線を奪った。

「清一!」

 魔法が解けた清一がどうにか刀を構え、体勢を立て直す。その肩からは出血しているのが深紅に変わった服からも分かった。


「焔風花」

 燃え盛る炎を受けた氷上は、燃え移った炎を突風により消し去る。

「フラム」

 ジュヌの魔法もヒルを捉えたように見えたが、少し焦がしただけで火種は失せた。と同時にヒルの蹴り上げにより飛ばされる。


「ジュヌぅ、クソぉ」

 走り込み斬撃を加えた清一に蹴りを加え、そのまま飛ばされた。

「くそぅ強い」

 少しばかり絶望する二人の元に希狛の声が伝わってきた。

「そろそろ出番かワン」

「ぁ、あぶない、から、かくれ……」


 周囲が眩しく照らされると、雄々しい獅子の姿がそこにあった。

「清一、ジュヌ、一緒に戦うよ」


 そう言って希狛は激しい咆哮を上げた。

「希狛、その姿は」

「攻撃来るよ!」


「ライオンさんにだって負けないよ!」

 氷上の冷凍の魔法を素早くかわしながら、その元へと走る。

「殺らせません」

 ヒルが舞のように切り込むも、素早く回避し、狙いをそちらに変えると爪を立てた前足による攻撃により吹き飛ばす。


「俺だって」

 お札を投げつつ、法力を出して追撃を掛けた。

「ヒルの白い衣装に赤い横縞が浮かび上がるころには、その追撃が命中しその身が数メートル床を滑った。


「あわあわ、優希、ピンチだよ」

 希狛が前足を振り上げる。

 ジュヌは素早く氷上の後ろに回り込み、後頭部を鞘で殴り気絶させた。

「希狛、もういいよ」

 ジュヌはそう言って攻撃を止めた。


「おっと」

 氷上はそのまま前に倒れるも、ジュヌが体に腕を絡ませ転倒を防いだ。

「希狛手伝って」

 そう言って、近くの部屋の空いている長机に彼女を乗せた。


「よし、これで大丈夫」

 後ろから清一がフィギュアをもって部屋に入ってくる。

「あっ、ありがとう」

 清一から受け取ったフィギュアは希狛の一撃により傷がついている。

「よし」

 ジュヌはハンカチを取り出すと、それを拭き上げ氷上の胸元へと置く。


「清一、大丈夫かい?」

「どうかな? ちっとばかり自信が無いけど……」

 先ほどジュヌに掛けたように回復の術を唱え肩の傷を癒してゆく。


 同時に胸元から栄養補助食品を取り出し、口に入れる。

「さっきのジュヌの言った事身に沁みてわかった」

「はは、でしょ?」


「ところで希狛は獅子なの?」

「清一、驚かせてしまってすまない。元々狛犬というのは西洋で守り神だったライオンが東に伝わったものだ。だから私の姿も封印を解くとこの姿になる」

 清一は首を振り「いや、助かった。希狛がいなけりゃ死んでたかもしれない」と言って希狛の心を和ませた。


 乾燥した口の中にかみ砕いた断片が張り付く。

 清一の傷が塞がった後、ジュヌの傷も治して、太田を探すために部屋を出た。

「どこにいるんだろうか?」

「探さないとな」

「おう」

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