式神使いのOL
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
清一が挨拶を返すと、女性はにっこりと笑い流し目を送る。
「やるじゃない、あの警備さん倒すなんて!」
女性は妖艶な笑いを浮かべる。
「俺、会いに行って止めないといけない人がいるんです。通してください」
「そう、残念ながら」
女性は残念そうな微笑む。。
「どいておくれよ!」
ジュヌの強い口調に女性は目を細める。
「式神のジュヌヴィエーヴちゃん、こんな話を知っているかな」
「えっ」
驚くジュヌに女性は言葉を重ねる。
「東日本大震災が起きた2011年、リーマンショックの就職難と相まって最悪の就職率だったの」
「何でボクの名前を知っているんだい?」
「だって、あなたマンガのキャラじゃない。有名よ」
いたずらっぽく笑う女の言葉にジュヌは納得すると同時にある事に気付いた。
(やっぱりこの人も式神使いだ)
姿が見えている。
「話を戻すね」
「……」
「その年にどうにか就職できた私に、周囲は冷たかった。まあ当然かな。早期退職やらリストラやらでどんどんいなくなっていったし」
「誰からも仕事を教えてもらえず、かといって何もやらないとタダ飯ぐらいと怒られる日々……必死に食らいついた思い出。そのくせ数年で回復したからと氷河期のように同情もされない」
「氷河期を恨んでいるのかい? それとも氷河期のように扱ってほしいのかい?」
ジュヌの声は女に遮られ、無駄にホールに響いた。
「――どっちも違うかな。そういう物だと知って欲しいだけ。いまだに悩んでいるんだぁ~後輩たちとの接触の仕方」
「あなたは抵抗軍の方ではないのですか?」
清一の言葉に女は満面の笑みで視線を向けた。
「そうよ、参加してる」
「なぜ?」
「君は頭がいい人のやることは正しいって思ってる?」
女性の問いを含んだ視線が清一の目に真っすぐ注がれた。
「そこまで大きくは間違っていないと思います」
「そう」
女性は多少失望した表情を見せ口を開く。
「1941年12月、日本は真珠湾を攻撃しアメリカに対して戦争を仕掛けたの、知ってる?」
「当たり前じゃないですか」
清一はバカにされたのかと不服そうな顔を見せるも、女性はそれに微笑みで返して問いを続けた。
「ねえ、当時の日本の首脳陣ってどんな人たちだと思う?」
「それは……」
清一が言葉に詰まると、女性は笑う。
「当時日本にもアメリカとの戦争は無謀だっていう人たちは沢山いたの。でも結局は戦争を始め、多くの戦死者を出し爆撃で国は焦土になり原子爆弾まで落とされ降伏した」
「知っています」
「当時の日本の上層部は、東京帝国大学卒だったり、陸軍士官学校から陸軍大学校を卒業したり海軍兵学校から海軍大学校を卒業したり――当時のエリート達だったのよ」
「エリート……」
清一がこだまのように言葉を続けると、女は首を傾けため息をついた。
「そう、エリート。今の私なんかじゃ手が届かない位の頭脳の持ち主の秀才たち……でも間違えたの」
「今も間違えていると」
清一の言葉に女は首を振り「どうだか?」と茶目っ気たっぷりに言葉にする。
(やりにくいな)
女性は右手の中でふわついている魔力を弄んでいる。
(時間稼ぎなのかな?)
「世の中何が正しくって何が正しくないって一概には言えないなって思ったの」
「だって、当時はみんなそれが正しいって思ってたんでしょ?」
「時間がたち過去として振り返らないと、どちらが正しいのか分からないと言いたいのかい?」
「そうね、だから試してみるの。どっちが間違っていないのかをね」
ジュヌの言葉を受け、パンプスの音を鳴らしながら歩み寄ってきた。
「式神、キンメル」
女性が指をパチンと鳴らすと、剣を携えた男が具現化した。
(キンメル? かつてのアメリカ海軍大将か? だから真珠湾の話をしたのか?)
清一は訝し気に男を見ると、男は歯を出して笑い顔をこちらに見せつけた。
「ただでは通してくれなさそうだね」
「恐らくな」
「希狛は隠れていて」
二人は武器を構える。と同時に希狛は物陰に隠れた。
「ジュヌ、来るぞ!」
女が詠唱を始める。
「清一、彼女魔法使いの方だよ!」
西洋系の魔法使いがなぜ式神をと清一は頭を掠めたがすぐに消え去った。
キンメルの大剣が切り下げられるのを間一髪かわし、身体を伸ばし遠心力を利用して刀を振るう。
カキン
キンメルの背中のマントが清一の起こした風でたなびいた。
金属音が響き渡り双方態勢を崩しながら着地をする。
「――中田 明美の名において命ずる。 ファイヤー」
「くっ、うわぁ」
体勢を崩した清一にそれが直撃し、衣装に燃え移った。
「月影水明」
地面から湧きあがる水により火を消し、それと同時に再び剣を振り下ろすキンメルの攻撃を刀で受け流し後方へ飛びつつ距離を稼ぐ。
「焔風花」
(俺がこの前線の戦士を足止めするから、頼むジュヌ――魔法使いを直接叩いてくれ)
「グラス」
ジュヌが明美目掛けて走りながら氷の魔法を唱えた。
「ファイヤー」
それを魔法で相殺する。
「よし、今だ!」
懐近くまで踏み込んだジュヌがレイピアで突きを繰り出し合間に魔法を挟む。
「なるほど、そう来たか」
そう言うキンメルに清一は袈裟切りを繰り出す。
ギン
金属音と共に大剣に阻まれる。
「アンタの相手は俺だ」
「……うん、面白くなってきた」
清一のその姿を見て、笑う事なしにそう呟いた。
キンメルが鋭く剣を振りぬくと、真空波が周囲を切り裂き薙ぎ倒しつつ前方に飛翔する。
「マジか! ジュヌ、あぶねえ」
レイピアを両手で斜めに持ちそれを弾くも、防ぎきれなかった刃がジュヌの体を切り付け、切り裂かれたの衣服が赤く滲んでゆく。
「ぐぅ」
「中田さんはこちらへ駆けて下さい」
再びキンメルが大剣を振りかぶる。
「ジュヌ! 間に合えぇぇぇ、雷時雨」
キンメルの大剣に電撃が貫き、痺れからか動きが止まった。
「よし、連撃」
清一が雷時雨を打ち、ジュヌと合流する。
「ジュヌ、大丈夫か?」
「清一、ゴメン」
「こっちは大丈夫。立て直そう」
「うん」
明美とキンメルは合流し、再び振出しに戻った。
「ジュヌ」
「何だい」
「アイツらの足元」
「ん?」
月影水明の月が明美とキンメルの足元で鈍い光を放ち、そこに存在していた。
「俺が再度起動させるから、雷の呪文を放ってくれ」
「わかった」
清一は刀を構えるふりをしつつ法力を唱えた。
「月影水明」
「おわ、なんだ?」
足元から噴き上げる水に気を取られた二人にジュヌが雷の呪文をお見舞いした。
「プリュイ」
二人はその電撃により動きが止まった。
「よし、俺も――雷時雨!」
カランカラン
連続する電撃の威力により、武器を取り落とした。
「もう一発」
ジュヌが魔法を唱えようと詠唱を始めるも、清一は手を上げて制止した。
「もう、済んでいるみたいだ」
流れる電圧がゼロになると、二人はそのままの状態で床に倒れ、その後キンメルはフィギュアに戻った。
「死んじゃった?」
清一とジュヌは明美に近づく。
「大丈夫かな?」
「やりすぎたかなぁ」
明美の脈に手を当てると、鼓動を感じることができた。
「心臓は動いている」
「よかった」
「ジュヌ、足をもって。ソファーに運ぼう」
「わかった、ちょっと待ってくれ。床に剣を置くから」
喜ぶジュヌに声をかけて明美をソファーまで運び終えると、引き返して杖とフィギュアを拾って再び明美の元へ歩き出す。
「清一、それ……」
「ああ、彼女の物だ」
よく見ると、キンメルのフィギュアは煤けてはいるが、洗えば問題なさそうだ。
「清一は優しいね」
「そうか? もし俺が彼女の立場だったら、ジュヌと別れ別れになるのは寂しいからね」
「うっ――そ、そうだね」
ジュヌは顔を赤らめあさっての方へ視線を向けた。
「さてとっと」
清一は床に屈み、自分とジュヌの武器を拾い上げジュヌに向き直る。
「ほらっ、レイピア」
「あっ、ありがとう」
レイピアを受け取り腰に差す。
「くっ」
ジュヌの顔が僅かながら歪んだ。
「大丈夫か?」
清一の言葉にジュヌは少し運動をし、全然平気だとアピールをした。
「はら、大丈夫……」
「オヤジの見よう見まねだけど……」
清一が回復の術を唱えると、傷口が徐々に消えてゆき、しまいには気付かないほどの大きさまで縮小した。
「よし、これで大丈夫」
そう言って清一はポケットからビスケットのような栄養補助食品を取り出し、ジュヌに手渡した。
「俺の法力は、オヤジ譲りの回復力――細胞分裂を増進するヤツだから、血液中の栄養素を大量に使っちまう。だからそれを食べてくれ」
「ありがとう」
ジュヌはそれを受け取ると、袋を剥ぎ口に入れる。
「喉が渇くな、水を持ってくればよかった」
そう言うジュヌに清一は月影を指さし「まだあれなら出るぞ」と話すも、ジュヌは「いい、さすがにあれは止めとく」と言って力いっぱい拒否された。
「エレベーターを呼ぼう」
清一がエレベーターの呼ぶボタンを押すと、停止していたそれの数字が、勢いよく減ってゆく。
「もうそろそろ来るね」
「そうだな」
「希狛、行くぞ」
清一が声を掛けると希狛が物陰からふわふわと姿を現した。




