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見習い神官兼陰陽師、式神失格としてリリースされた型落ち倉庫番のフィギュアと共に一人前の階段を駆け上がります  作者: クワ
第四章

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凄腕の空手家警備員、柏野

 電話口の清香が震える。

「それって大道寺君」

「そうです、太田と氷上が抵抗軍に身を投じてしまった」

「――ねえ、テレビでいっぱい人が殺されているのって……」

「間違いなく抵抗軍の行動です」

「友達なんでしょ! 何故止めなかったの」

「止めたんです! でも無理だった……」

 絶叫に近い清香の言葉に絶叫で小野寺も言葉を返した。


「説得するのに仲間が欲しい。頼れるのは君ぐらいなんだ!」

「そんなこと言われたって」

「今、太田たちがいる場所は……」

「ちょっと待って、メモとるから」

 清一とジュヌは必死にメモを取る姉のペン先の動きを盗み見る。


「ジュヌ」

「ああ、清一」

「ワン?」

 清香は電話で必死になり、玄関のトビラが開いたのを気付くことはなかった。


 都内 丸の内


 都内有数のオフィス街。地下鉄の階段を上り切った清一は頭を垂直になるほどの角度を付けて見上げる。

「凄いな」

 清一は至る所にある天を伺うような高層ビルを見上げ感嘆のため息を吐く。

 緊急事態宣言が発令されたからなのか見渡す限り人の気配が一切無く、まるでジオラマの町を探索しているように感じられて気味が悪かった。


「おっとこんなことをしている場合じゃなかったな」

「清一、急ごう」

 目的の高層ビルを目指して歩き出す。


 しばらく歩くと目的の建物が見えてくる。

「見えてきたよ」

 ジュヌは心ばかりか焦っているのが歩調から感じられ、生みの親を救うという気持ちがそうさせているのだと清一は受け取った。


「入り口に仕掛けとかあるかも」

「だね、気を付けて入ろう」

 恐る恐るトビラの前に立つ。

 シャーーーー

 高層ビルの表にある自動ドアは特に何があるわけでなく清一たちを感じるとると、ひとりでに開いた。


 拍子抜けした清一とジュヌはそのままおっかなびっくりにビル内に侵入する。

「おはようございます」

 突然遠くから声を掛けられる。


「「おはようございます」」

 挨拶を返しつつ顔を向けると警備員の制服を着た人が立っている。

 二人は軽く会釈し、エレベーターを探す。

「エレベーターはっと――あそこか」

 清一とジュヌがエレベーターに向かい歩みを始め、道半ばまで来た時、先ほどの警備員が二人の前に割って入った。


「当ビルにどのような御用ですか? 申し訳ございませんが部外者の立ち入りはお断りさせていただいております」

 警備員をよく見ると、年齢は初老くらいだろうか。なかなかにガタイの良い男性で、丁寧ながら有無を言わさぬ迫力を出して止めに入った。

「ボクたちは会わなければいけない人がいるんだ! お願いだから止めないでおくれよ」

 ジュヌのお願いに首を振り「ダメです。お引き取り下さい」と言って取り合ってくれない。


「警備さん、すまないが太田さんっていう世話になった人を止めなきゃいけないんだよ。頼むよ」

 清一の言葉に一瞬反応すると、少しにこやかに笑いかけてきた。

「それなら、なおさら通せません」

 そう言って帽子のつばを持ち位置を調整した。


「君たちは悪い子たちじゃないみたいだからね。このまま素直に帰って欲しい。傷つけたくないんだ」

 清一はあることに気が付いた。

(この人、ジュヌの事が見えているし会話もしている)

「警備員さん、式神使い?」


「ふふ、そうだよ。よくわかったね」

 警備員は構えの姿勢を取り、先ほどより一段ばかり低い声で警告をする。

「帰りなさい!」

「しかし、俺には――」

 フォン

 警備員は警告の蹴りを見せる。空気の切り裂く音が響き渡った。


「なぜ? 警備さん悪人じゃなさそうなのになぜ邪魔をするんだい?」

 ジュヌの言葉に警備員は寂しそうな顔を見せた後、すぐに感情を殺した真顔に戻った。


「そこの男の子は学生さんかい?」

「はい、高校生です」

「じゃあ、まだ世の中のどうしようもないことに触れていないのかな?」

「それは、どういう意味……」


 警備員は視線を上げ遠い目をしながら口を開いた。

「かつて俺は国帝大学で空手に打ち込んでいてな、仲間たちと共に武道館でかなり勝ち進んだんだぜ」

 フォン

 右足が風邪切り音を鳴らした。

「君も聞いた事あるだろう。就職氷河期って。ちょうど俺の時が一番酷くてな、その当時は一流大学かコネがあるヤツ以外はブラック企業しか就職先が無かったんだ」

「罵声当たり前、サービス残業当たり前……そんな折、同じ大学の戦友が亡くなったって聞いてな。どうにか都合をつけて葬式に駆けつけたさ」

「死因は自殺だった。あんなに身体と精神を鍛えていたのにさ、どうしてそうなっちまったんだろうな? それがあってか俺は転職し、それを繰り返し、今は冴えない警備員さ」

 警備員は自嘲の笑いを浮かべる。


「さっき、君たちに挨拶しただろう?」

「はい」

「あれ、警備員は毎朝するんだぜ。そう、何度も何度も……人の列が続く限り。だが出勤して来るスーツ着ている連中、誰一人返して来やしない。若い連中なんて小ばかにした態度をとりやがる!」

「何が日本企業は年功序列だ! ふざけやがって!」

 警備員は怒りのあまりボキボキと手を鳴らした。

「俺らの頃の大学は偏差値が無いような所は無かったんだよ! 今なんて試験があるのかないのか分からない大学がゴロゴロあるんだろう」

「そういうガキが、少子高齢化のお陰でバブルの時のような好条件を出されて大企業に就職し、氷河期(俺たち)を見下しやがる」

 男の怒りは留まることを知らず話に熱がこもる。


「だから俺は抵抗軍に呼応したのさ。もうこの年だ。今更やり直しなんざきかねぇし、どうせ先行きなんかありゃしねぇ。あるのは理不尽な格差だけだ」

「だけど、その先は破滅しかないのでは?」

 清一の言葉に警備員は手を数度叩き破顔した。

「君は優しい。だがな、それすらもうどうでもいいんだよ」

 自暴自棄になっているのだろうか? 清一は寂しそうな視線で警備員を見た。


「だから、悪いがここを通せねえ。通りたきゃ俺を超えていきな」

 警備員が構えると、みるみる集中力が上がっていき、それに伴い威圧感が上昇した。


「警備さんゴメンなさい。それでも行かなきゃいけないんです」

「君、名前は?」

 清一に警備員が問いかける。

「俺の名は、柏野 秀喜(かしの ひでき)。君の名は?」

「中条 清一です」

「上等! かかってこい」

 そう言うと、柏野は式神を呼び出す。

 式神は学生服のような上下に羽織を纏いつつ刀を持つ、なかなかに精悍そうな少年だった。


「これで二対二、行くぞ」


「よし、半次郎!」

「はい」

(半次郎? 桐野 利秋(きりの としあき)か?)

 清一は幕末の人切りの名前を思い出した。

 柏野は二、三歩ステップを踏むと跳躍し蹴りを仕掛ける。

「くっ」

 清一はすんでのところで避けると半次郎と呼ばれた式神が刀を横薙ぎに振る。

 それを伏せて回避し、転がり半次郎目掛けて足払いを掛けた。


 半次郎がもつれて受け身を取りながら前転するとジュヌがそこに炎の魔法を打ち込み、その隙に清一は起き上がり刀を抜く。

「清一! 彼ら強いよ」

「ああ、困ったな」

 その一瞬の衝突からさえ、柏野の実力もさることながら、式神の半次郎も少なくとも年単位で場数を踏んでいるだろうことが容易にわかる。

(だが、示現流じゃねえな。半次郎違いか?)

「来る」

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