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見習い神官兼陰陽師、式神失格としてリリースされた型落ち倉庫番のフィギュアと共に一人前の階段を駆け上がります  作者: クワ
第四章

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双方の事情~太田より~

 呆気にとられた二人が清之進の顔を凝視する。

「アイツらは敵を攻撃すると同時に仲間を増やそうとしている」

「なぜ? なぜ戦うんだよ? 少し前まで仲間だったんだろ?」

 清一の言葉に清香も頷き、問い続ける。

「私は、なるべく中立を保っていたかった……が、難しいのかな」

 清之進の背中はなんだか寂しそうに見えた。


 清之進は人数分のお茶を持ってきて元居た場所に腰かけた。

「この争いは反乱に近いのだ。双方に言い分があり、双方に正義がある」

「「……双方の正義!?」」

 清一と清香は摸唱した。


「……オヤジ、オヤジは最悪どっち側に付くんだ?」

 清一の質問に、清之進は首を振る。

「今は双方妥協のため交渉中でもあるからむやみに動くことは出来ん」

「お父さん、交渉中ってことは仲直りすることもあるってこと」

 清之進は苦しそうな顔を見せ「可能性の話ではな」と吐いた。


 その表情から交渉が上手くいく可能性はあまりないのではという思いが沸き上がった。

「何が原因で仲たがいしてしまったの?」

 ピリピリ ピリピリ

 その時、清之進の携帯電話から着信音が鳴った。

「はい、中条です。はい、はい、じゃあ向かいます」

「二人ともすまない、急に呼ばれたので、私はいかなければならない」

 そう言って静かに支度を整えると、玄関より出て行った。


「……なあ、姉貴」

 残された清一と清香はもやもやとした心を残したままお互いを見やった。

「……結局、何もわからずじまいね」

「なんだか二つの勢力が争っているってことぐれーかな」

「ホントにね」


 しかしながら、清一の中には希狛をくれた時を思い出し、容易ではない事態を想像し身震いした。


「ちょっと出かけて来る」

「あ、行ってらっしゃい」

 清香に別れの言葉を話し玄関を開け外に出た。


 清一はジュヌと希狛と共に駅前まで歩いて出かける。

「よし」

「清一、どこに行くんだい?」

「んー、ジュヌと俺が出会った場所」

 清一の言葉にジュヌは驚く。

「え、なんで?」

「そこにいる気がするんだ」

「誰が?」

「あの三人の誰か」

 なんだが確信に近いものがなぜか清一の中に芽生えている。


 そのまま電車に乗り、ジュヌと出会ったグッズ販売店まで足を延ばした。

「本当に久しぶりだな」

 ジュヌが額に手をやり遠くを眺めるような仕草をしながら懐かしそうに微笑んだ。

「ゴメンな、ジュヌ」

「何が?」

 ジュヌは不思議そうな顔を清一に向けた。

「イヤな思いさせて」

「ん、何の事?」

「太田さんとの思い出の事」

「ああ、そのことか」

「もう終わったことで気にしてないから大丈夫だよ」

 ジュヌは幸せそうな笑みを浮かべた。

(あれが無かったら清一と出会えなかったんだよね)

「ん、ジュヌどうした?」

「あ、何でもないよ」

 焦るジュヌを不思議そうに眺める清一を見て、希狛は首を傾げた。

(そういえば、清之進さんは主を鈍いと言っていたワン)


 そんな時だった、突如横から声を掛けられた。

「よお、お前ら、久しぶり」

 慌てて振り向く。

 清一の直感が当たったのか、それとも呼び寄せられたのか、そこにはラフな外行き姿の太田が立っていた。


「お久しぶりです」

「……うん、久しぶりだね」

「初めましてワン」


 太田は希狛を見て、一瞬優しい笑いを浮かべるとすぐに顔を引き締めた。

「今日も、式神探しかい?」

 気持ち太田が優しい気がする。


「ジュヌの時に会った三人に会えそうな気がしてきました」

 太田は少しの間首をひねり思考する。

「ジュヌ? ああ、ジュヌヴィエーヴの事か」

 答えが出たことで納得したのか、フフッと軽く笑った。


「それで、俺達に用とは?」

「今日、透明な式神を操る男に襲われたんです」

「へえ」

 感情なしに相槌を打つ。

「その話をオヤジに話したところ、二つの勢力が争っている、今は交渉中だが今後どうなるか分からないって言われまして」

「ああ、そのことか」

 と言うと、周囲を見回し「ここでは色々問題あるから場所を変えるぞ」と言って歩き出した。


 エスカレーターで上ると展望台を利用したレストラン街が所狭しと立ち並んでいる。

「ここでいいか」

 その中のコーヒーの香ばしい焙煎の香りが漂う一軒の店に入った。

 カランカラン


「いらっしゃいませ」

「何名様で?」

 そう言う女性の店員に指を二本立てて「二人」と歯を見せた。


 女性は微笑み、奥の二人掛けに案内する。

「こちらで……」

「お姉さんゴメン、ここだとチョット狭いからあちらの四人掛けでいいかな」

「あら、そうですね、どうぞ」

「あと、コーヒー二つに紅茶一つ」

「かしこまりました」

 店員はカウンタに向かって去って行った。


 清一は太田の交渉力に感心し感嘆の声をあげたのと同時に清一に気を使っている事に気が付いた。

「太田さん、すごいですね」

「そうか、大きくなれば出来るようになるさ」

 太田は不敵に笑う。


 清一はジュヌの分の席を引き、ジュヌを座らせた。ジュヌが席を動かしたら騒動になるのは目に見えていたので動いた形だ。

「おお、そうそう、やれば出来るだろう」

 それを見た太田は清一を笑って褒めた。


 太田は周囲に目を配る。夜に近い夕方という事もありそこそこ混んでいる。

「大丈夫そうだな」

 太田はそう呟き、言葉を続ける。

「ちなみにお前のオヤジって誰だ?」

「中条 清之進と言います。私は清一」

 太田は清一の目を直視し噴き出した。

「わりぃが知らねぇわ。まあ、聞いたのは俺だけどな」

「そうですか……」

 バツの悪そうな清一に太田は笑いかける。


「何から話せばいいのか……」

 そう言って言葉を切って思案する。

「お待たせしました」

 店員が飲み物を三つ席に置いて立ち去った。


「そうだな、まずは、ここからだな」

「今から、二年ほど前の話だ。一人の男が、魔物との戦いで命を落とした。そこまではよくある話だ」

(よくある話……かあ)

 清一は自分が死ぬ姿を想像してみた。その思考を切り裂くように太田が話を進める。


「その男は結婚していて、妻と赤ん坊が残された。その死んだ男の仲間たちは生活保護を受けさせようと動き、残された妻を福祉事務所に連れて行った」

「そこで福祉事務所の職員は妻に対して、生活保護を却下し子供を保育園に預け働け、暗に風俗があるだろうと言ったらしい」

「なんだよそれ、ヒドイじゃないか!」

 ジュヌは色めきだつ。

「そこで、政治家やそういう知り合いがいるかつての仲間たちを頼った」

「かつての仲間?」

 清一は不思議そうに言葉を重ねた。


「ああ、お前みたいに高校やら大学やらで戦っていたが社会人になって止めたっていうヤツらはそれなりにいるからな。当たり前だが高学歴で社会的に高い地位にいるヤツほどその傾向が強い」

「まあ、そうだよね」

「だが、そのかつての仲間は冷淡なものだった。当然彼らにだって言い分はあるだろう。だが頼った連中はそうは受け取らなかった。これは上級国民と下級国民の問題だと受け取ったんだよ」

「なんで、いきなり階級闘争の話になるんだい?」

 ジュヌは飛んだ話に追いつけず問いを発した。


「それはな、さっき言った通りに高学歴、高収入の人間はわりとあっさりと戦いを止める。おそらくハンティングとかのゲーム感覚なんだろうな、本当にスパッと止める。低収入の人間が損切が下手で継続する奴が多かったり、仲間を見捨てるのを拒んだりで続けたり、あとは仇討だな。低収入の人間にとってはかつての仲間を切り捨ててめんどくさいことを押し付けてきて美味しい果実は独占する――搾取に写るんだよ。この問題は以前からくすぶっていたんだが、今回の件で火がついた形だ」

「以前からくすぶっていた?」

「ああ、突発的に単独または少数で暴れては鎮圧されるケースは以前からあったんだ」

 太田はそう言って遠い目を天井に向けた。


「それにな、この国は、ちょっと難しいとかいう物には結構いい支払いをするのに、本当に困難な事――命を張るような……には、『殺されそうだ。アンタ、戦えるんだろう』とか言ってタダで働かせようとする人間が多んだよ。名誉とか英雄とか持ち上げてな」

「こっちだって以前からの知り合いやら世話になった人だったら問答無用で助けるが、全く知らないヤツとかこっちを見捨てたヤツを何で助けなきゃなんねぇってお前は思わねえか?」

「たしかに、以前から感じていました」

「だろ、そういうヤツに限って助けないと、文句を言う。助けてくれるのが当たり前だと思っているんだろうな。バカな話だろ、俺らに無償で戦って死ねっていうのかよ」

 太田の言葉が力を帯びる。

「車だって任意保険に入ってなけりゃ、事故った時に自賠責以上は保証されねぇ。アイツらのいう言葉は保険に入ってないくせに事故ったら保障しろって言っているようなもんだ」


「役所の人間だって死んだ理由を知らねぇだけなんだってのはみんなわかってるんだよ。でもな、俺らが命を懸けて、その恩恵を受けている連中がその態度ってのも納得できねぇし、それ以上に死んだ理由を知っていて見捨てた連中はもっと納得できねぇってだけだ」

(今までの話を聞いていると太田さんはどちらかと言えば抵抗派に肩入れしているみたいだ)


「太田さんはどちらかと言えば成功者のように思えますが?」

 清一の言葉を聞いて太田は窓の外に視線を動かし嘆息した。

「確かに俺たち三人はどちらかと言えば成功者だ。ただアイツらとは長い間戦いすぎた……そう、戦いすぎたんだ」

 言い終わると口をつぐんだ。


(少し話題を変えよう)

「そういえば、太田さん、ジュヌの代わりに武器を渡すってフィギュアはどうなさったんですか?」

 太田は自虐的に笑う。

「フローリーか――死んだよ。その後のナ・ホークもガジュマルも戦死だ」

 清一とジュヌは驚きのあまり押し黙った。


 太田はコーヒーを半分ほど喉に入れ言葉を出す。

「結局、式神にフィギュアを使うのは量産型的なものなんだよ。自分だっていつ死ぬかわからねぇ。当然式神はより多く死ぬ。妖怪や魔物は簡単には捕まえらんねぇ。だから安易にフィギュアを具現化する。何度も死に立ち会ううちに感覚が薄れて消耗品のようになっていく。兵が補充されてもすぐに戦死する戦場なんかそうだろう、すぐ戦死するから仲間としてより死ぬかもしれない人として接する。だから戦死するという悪循環。そんなもんだ」

「そういう意味ではジュヌヴィエーヴをお前に引き取ってもらったのは良かったのかもしれねぇな」

陽翔(はると)!」

 太田はジュヌの言葉を遮り立ち上がると、伝票片手にレジへ向かった。


「太田さん」

 清一の言葉に顔だけ振り返り「奢るよ、学生さん」と言って早々に会計を終わらせると店を出て行った。

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