スーツを着た男
清一が視線を前方に固定させた状態を保ちながら二人に声をかける。
「俺がばら撒き系の法力を掛ける。物理的に障害物がありそうな場所へ追撃掛けてくれ」
うなづく二人を視界の端に収め、法力の印を結ぶ。
「銀雪散桜」
桜吹雪のような氷の小さな塊が前方の広い範囲に吹き付ける。
「あそこだ」
ジュヌは銃を素早く構えると狙撃する。
乾いた音が周囲響くと、真っすぐ飛んで行き突如透明な空間に吸い込まれ、消え去った。
「シャンデル・ドゥ・グラス」
氷柱の魔法を唱えると透明な体に突き刺さりそのまま固定された。
「それ」
清一がお札を投げるつけると透明な何かに張り付く。霊力を放出しだすと透明な何かは膝を付いたのだろうか、氷柱の位置が下がる。
「まだだ」
ジュヌが魔法を唱えようと再び杖を向けると、透明な何かは前に倒れる。身体に刺さっていた氷柱が床にぶつかり鈍い音を立てた。
「やったか」
束の間の喜びに浸り笑いあっていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「どこにいる?」
「誰だ!」
「おやおや皆さん元気な方々がそろっていらっしゃいますねぇ」
イヤミったらしい声の元に目をやると、スーツを着た中年の男性が立っていた。
「さっきまではいなかったのに」
(出入口はひとつしかない、どこから来たんだ?)
ドアが開閉した音は聞こえた覚えがない。ただ戦闘中で聴き落とした可能性はある。
「お前が、透明人間を差し向けているのか」
清一の怒りを含んだ言葉をあざ笑って受け流すとスーツの男は口を開いた。
「そうといえばそうでもあるが――違うといえば違うな」
「何が言いたい! 俺たちの他、お前以外ここにはいないぞ」
清一の言葉に、スーツの男はめんどくさそうに目を細める。
「私はあくまで使い走りの組織の末端に連なる者。幹部ですらありません」
男は両腕を拡げ尊大に振舞う。
「で、アンタの組織の目的は何なんだ? 緊急事態宣言を出させる事じゃないだろう」
「当然、当たり前じゃないですか。何を言っているのですか?」
「キミたちの目的の事を清一は聞いているんだぞ」
ジュヌの発言を受け、男は不快な顔に変わる。
「私がいつ人形に発言権を与えました? 不快ですねぇ、道具のくせにいっちょまえに人様に口を聞くなんて!」
「キサマァ! 愚弄するか」
「はは、安易な挑発に乗るなどとは。所詮はプラスチック、やはり傀儡には詰まっておりませんねぇ」
男は自分の頭を人差し指で指し示す。
「の・う・み・そ・が」
男の言葉が言い終わるか終わらないかのタイミングでジュヌは杖を男に向ける。
「エクスプロジオン」
ジュヌは自分の感情を表すかのように爆発の呪文を放った。
ドカン・ドカン
「これでどうだ、二度と……」
「二度と、何ですかねぇ~」
男は何事も無かったかの如く変わらずにそこにいた。
清一はジュヌがキレたのもあり冷静さを取り戻す。
「アンタにとって透明人間は部下じゃないのか?」
男は顎に手をやり考えるような仕草をした。
「透明人間は道具です。そこの人形と犬のように」
「アンタが道具を使っているだけと」
「はい、その通りです」
男は両方の手のひらを上に向けやれやれのポーズをとる。
「ただ、貰った道具を使用しているにすぎませんよ。それが何か?」
先ほど透明人間が床に沈んだ場所を見た。溶けた氷柱が墓標のようにかつて存在していた命の場所を示している。
「無駄だと思いますが一応聞いておきます。役目なのですから」
「何だ?」
「私たちの仲間になるつもりはないですか?」
突然の勧誘に意表を突かれるもすぐに我を取り戻す。
「断る! 式神は道具じゃない」
男は笑う。だがその笑いは嘲笑というより何か懐かしいものを見るような笑いだった。
「若いですね。まあ、いいでしょう、気が変わったら申し出て下さい。善処しますよ」
微笑する男に清一は再度質問を繰り返す。
「アンタたちの目的は何なんだ?」
その質問を受け男は鼻で笑い、視線を上げ空を仰ぎ見た。
「いずれ分かりますよ。その時は貴方たち家族や他の方々も我がボスに従ってくれればいいのですが」
「あと、口の利き方は気をつけてください。あなた達一家はあまりに悪すぎる」
少し熱気を帯びた風が過ぎ去ると男の姿は消え失せていた。
「本当に失敬な男だったよ!」
ジュヌは被っている帽子を床にたたきつけ怒りをぶつける。
「なんだか俺や家族の事知っているような口ぶりだったな」
清一は何とも言えない不思議な感情を抱いた。
「なんでアイツは俺の事を仲間にしようとしたんだろう? それにアイツの言っていたボスってのは?」
「肝心の事何も話やがらなかったから、よく分かんねぇよ」
昼の休憩終了のチャイムが鳴ると屋上を後にした。




