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見習い神官兼陰陽師、式神失格としてリリースされた型落ち倉庫番のフィギュアと共に一人前の階段を駆け上がります  作者: クワ
第三章

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母が残した式神

「清一、ご飯」

 清香の足蹴で目を覚ますと清一はむくっと体を起こした。

「まったく、こっちは食べ物仕舞ったり作ったりしてるってのに」

 寝起きの鈍い思考で姉の愚痴を脳の端っこへ片付ける。

「悪い、ありがとう」

「清一の扱い雑過ぎないかな」

 ジュヌがぷりぷりと抗議するも、清香は意図的に受け流しテーブルへ料理を並べる。

「二人ともケンカは止めなさい」

 いつの間にか帰ってきていたのか清之進が二人の間に入る。


(何か空気が重いな)

 清香とジュヌがムスッとした表情で食事をしているのだが、特に清香は料理を作ってくれた事もありその前で賑やかに会話することをみな躊躇した。

「そうだ、清一、少し早いと思うが……」

 少しばかり重くなった食卓の空気を切り裂くように清之進が話題を振る。

「何だい、オヤジ?」

 清一も少し上ずった声で応じる。

「お前に、千歳の残した式神を渡そうと思う」

 さすがにそのセリフは姉とジュヌの不機嫌を吹き飛ばすほどの衝撃があった。


「なぁ、オヤジ、イキナリどうして?」

「そうよ、お父さん」

 清一の驚きの声に清香も同調する。


「たしかに、私もまだ渡すのが速いと思っていた」

 清之進はお茶を口に含めそれを飲み干す。

「この度の騒動は一部の封印が解けたなどという軽いものではなさそうだ」

 清一も感じていたことなので深く相槌を打った。


「私が何かあった時に千歳との約束が守れなくなるというのもあるが、今の清一ならどうにかしてくれそうな気がしてな」

 そう言って清之進は視線を上げる。その先には蛍光灯が周囲を明るく照らしていた。

「でも、オヤジ、俺、大丈夫かな?」

 嬉しいのは正直嬉しい、が、自身が無い。


「清香だって二つの式神を使っているだろ。清一だって法力の消費調整を気を付ければ大丈夫だよ」

 清之進は清香に視線を向ける。当の清香は微妙な顔を浮かべた。

「そうだよ、清一! 大丈夫、自信を持って!」

「ジュヌ……ありがとう」

「うん」

 ジュヌは笑いながらうなずいた。


「オヤジ、俺、やってみるよ」

「ああ、その意気だ」

「食事の後にやるぞ」

「おう」

 清一の目は希望に燃え輝いていた。


 食事の後、呼ばれた父の部屋に入るとお札が数枚に蝋燭数本が机に置いてあった。

 部屋の奥には、高い位置に神棚があり、その下に祖霊舎(それいしゃ)が置かれ、清一の母である千歳の写真が飾られている。

「引き渡しの儀はやり方が色々あるが、清一はジュヌヴィエーヴで一回受けているのでおおよその事は分かっているだろう」

 清之進は鼻を掻きつつはにかんだ笑いを浮かべた。

「色々ってそれは宗派とかそういうものなのか」

 清一の疑問に清之進は準備をしつつ背中越しに答える。

「まあ、陰陽師にも色々な修行や型があるからな」

「お袋が残してくれた式神というのはどういう種族なんだ?」

「それは私が話すことではないな」

 清之進はその質問を笑ってはぐらかした。


 左右に立てられた蝋燭の火を灯すと、清之進は穏やかに清一をいざなう。

「この中央に置いてあるお札に手を置きなさい」

「わかった」

 清一は頷きその上にひらりと手を置いた。

 さわっ

 何処からともなく顔を撫でるような向かい風が吹いたかと思うとフッと蝋燭の火が消えた。

「えっ」

 差し出した手がどんどん熱を帯びていったかと思うと、お札が段々と光を放ち始め、止まることなく光は強くなり続け、しまいには清一を包み込んだ。


「ここは?」

 清一は周囲を見回す。

「あの人は?」


「清一、始めまして千歳です。よろしくね」

「清之進だぞ」

「きよ、きよ」

「清香」

「まま、あいがと。きよかでしゅよ」

「はは、コイツ笑ってら」


「あなた、式神(この子)清一は気に入ってくれるかしら?」

「大丈夫だよ。絶対に友達になれるさ」

「ごめんなさいね。男の子の事はよくわからなくて」

「清一は大丈夫、根は優しい子だしな。かなりニブいけど……」

「ふふ、そうね」


「せいい、ち、ゴホゴホ、無事で、よか……た」

「千歳ぇ、ちとせぇーーーー」

「お、おい、しっかりしろ! ちくしょう!」


「これは、お袋の記憶なのか!?」


 清一の頭の中に流れ込んできた記憶なのか、それとも目の前に再現された記憶なのか――。


 気が付くと光が収まり、少しばかりの手の熱さのみ残されていた。

 光の明るさに塞がれた視野が回復すると、目の前には真っ白くふさふさな毛を蓄えたつぶらな二つの瞳が現れた。


「お前が、俺の式神?」

「ワン」

 式神は一声大きく鳴いた。

「名前は何て言うんだろ?」

希狛(きはく)と呼んで欲しいワン。

 清一の疑問にその式神は喋り始めた。

「うわ、喋った」

「喋るワン」

「そっか、スゲェな、希狛(きはく)だなよろしく」

「こちらこそ、よろしくワン」

(本当によろしく、お袋が残してくれた……希狛(きはく)


 どれくらい時が経ったのか、それとも経ってないのか、止まった時間が動き始めると清之進が安堵の声を上げた。

「よかった、清一に引き渡せたみたいだな」

 その声にはお袋との約束を守れたという気持ちがこもっている気がした。

「大丈夫だよオヤジ。俺、希狛(きはく)と仲良くやれるから、心配しないで」

「えっ?」

 驚く清之進に別れを告げ部屋へ向け駆け出す。

希狛(きはく)、俺の部屋と先輩の式神をさ、案内、いや紹介かな、するから着いてきて」

「ワン」

 清之進はその後姿を見送ると祖霊舎(それいしゃ)の前まで歩む。

「千歳、どうやらお前が作り育てた式神(きはく)、清一は気に入ったみたいだぞ」

 色あせた写真に目を落とすと、いつもよりにこやかに微笑んでいるような気がした。

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