品物が無くなる前に買い物を
「清一、棺桶持ってきて」
「おう、待っててくれ」
清一が棺桶を持って来ると、それぞれの透明人間をその中に入れ封を施す。
「氷の封印をするよ」
清香が氷の封印を行うと、春にもかかわらず周囲は震えがでるほどに気温が下がった。
「これで腐敗は止まるはず」
終了後、みなで自宅に入り、テレビの電源を入れた。
「なあ、姉貴……」
先ほど薬局で見たワイドショーの緊急速報の事とエイムズの兄が救急で運ばれて来た事を話した。
「確かに、今のも透明人間っぽいわよね」
「そのエイムズのお兄さんというのは実力がある方なのですか?」
ジェームズが清一に探るように聞く。
「以前、戦ったことがある。その時は敵が出て来てお開きになったが、戦闘的には互角だった」
「相手が手を抜いていた可能性は?」
「わからない」
清一は一つ一つをしっかりと思い出すように俯く。黒光りするフローリングの木目を目で追って思考をまとめていった。
「ねえ、清一。果たしてあのエイムズのお兄さんが透明人間と戦ったのかな?」
ジュヌが疑問を投げかけてきた。
「うーん、それは……」
「何か別の違うことでケガをした可能性はあるかな」
清一の言葉が詰まると清香がジュヌが発した疑問の言葉を繋げた。
「確かに、そうかもしれないけど……」
しばしの沈黙が訪れる。
清一がチラリと視線をテレビに向けると、食レポなのだろうか新人らしいアナウンサーのはしゃぐ声とそれを眺めるベテランアナウンサーと評論家達の苦笑いをしている映像と声が流れている。
「緊急速報」
ピロリーンピロリーン
沈黙を破る緊急速報にみなテレビに視線を向けた。
午後のワイドショーのほんわかした食レポは影をひそめ、緊張した面持ちのベテランアナウンサーが渡された原稿に素早く目を通し視線を上げカメラに向ける。
「ただいま緊急速報が入りました。昨日から話題になっております透明人間ですが、各地で出没し襲撃を行っております」
「先ほど政府要人が襲撃されたのを受け、緊急事態宣言が発令されました。この後警察庁長官より緊急記者会見があります」
清香を始め、周囲にいるすべての動きが止まる。
「政府要人とはだれが襲撃をうけたのですか」
「目下確認中です」
記者が質問するたびに警察庁長官がマイクに近づき説明を繰り返す。
「緊急事態宣言を発令との事ですが一般市民にどのような影響がありますか?」
「しばらくの間、なるべく外出を控えて頂きたいと思います」
「――」
その後も質問が永遠と続く。
「明日からどうなるんだろ」
清一のつぶやきに姉が首を振る。
「姉貴、少し買い物して来る」
「そうね、私も行こうかしら」
まずは品物が無くなる前にスーパーに行こうとなり皆で玄関を出た。
店までの路上は特に変わりが無いように感じたのはまだ皆に知れ渡ってないからなのだろうか?
「うわっ」
スーパーに着くと中はごった返して進むのに苦労するくらい混んでいた。
「さすがに主婦の行動は早いな」
清一の言葉に姉は頷き「みんなそう思っているってわかるから買い占めるのよ」と笑った。
二人それぞれカゴを持ち店に入ってゆく。
「清一、肉をカゴに入れて」
「姉貴、味噌買っとくよ」
「清一、米持てる?」
「レトルトやカップ麺も買っとくよ」
「冷凍食品買わなくっちゃ」
「玉子10個入を二パック」
レジ前の長い行列にウンザリした視線を向け一番後ろに並んだ。
「なあ、姉貴、お金ある」
「あ、うん、たぶん大丈夫」
「オヤジから病院代多めに受け取ったから出せる分出すよ」
「あ、助かるぅ~」
話し合いながら待っているとやっと順番が訪れた。
レジの棚にカゴを二つ乗せるとそのままレジを打ち終わるのを待つ。
「あっ袋四つ下さい」
「はい」
ピッ
「お札全部出すよ」
「あ、ちょっとは残しときなさいよ。何かあった時困るでしょ」
「わかったよ」
会計を終わり、適当に開いている台を利用し袋詰めを終え、店を出ると、二人と一匹が外で待っていてくれた。
「帰るよ」
清香の呼びかけに一同自宅へ向かって歩み始めた。
「本来なら、お二人の荷物を持ってあげたいところなのですが」
ジェームズが申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「気にしないでくださいまし」
清香が上機嫌で言葉を返答して袋を上下して平気だとアピールする。
「ゴリラアピールしてどうすんの?」
ガシッ
小さくツッコミを入れる清一に清香は器用に蹴りを突っ込んだ。
「うぐっ」
「はい、ヨロヨロしない。男の子でしょう」
「……誰のせいで」
「なにか言った?」
「別にィ」
実際、式神は一般人には見えなくても買い物袋などの荷物は見えてしまうので、まるで空中に浮遊しているように見えてしまう。
今現在、透明人間が話題になっている位なので、そのようなものが人が多く集まるスーパーで実現してしまったら大混乱になることは必定であり、なんなら透明人間の仲間だと思われる可能性すらある。
それだけは避けなければならないとみな考えていた。
「そういえば、姉貴」
「何、清一?」
「式神たちの武器は何で透明なままなんだろう」
「それね、私もよく分からないんだ」
清一の質問に清香も首をひねり、言葉を濁した。
「一回武器として保有したままで式神をお札やフィギュアに戻したら本人の装備になるって何だか不思議な制度だよな」
「うん、そうね、でも便利だからいいんじゃない」
清香は機嫌よく笑った。
何かあったら一緒に戦おうとみなで連れ経ったが、結局は何も起こらずに自宅まで辿り着いた。
「異常なし」
境内は爽やかな空気を保ちつつ茜色に染まって帰りを待っているように感じられた。
「今日からしばらく、式神を戻さない方がいいかもね」
清香の言に清一は頷く。
ガチャリ
玄関のかぎを解錠し、トビラを開いた。
「ただいま」
真っ先にテレビを点けるとそれに聞き耳を立てつつも清香と清一を始め一同は買い物袋から荷を出し、それぞれの場所に仕舞っていった。
「肉とかそこ置いといて、あとラップ取ってくれない」
「任せてくれ」
色々騒動をおこしつつ片付けは順当に終わった。
疲れがグッと押し寄せると同時に火傷の痛みを感じ始めた。
「それどころじゃなかったもんな」
清一は苦笑して、包帯をほどいて、手を洗う。
「うっ」
予想通りというのか手が激しくしみる。
石鹸で洗うと、もらった薬を塗り込み、新しい包帯を巻きなおした。
「これでよし」
周囲の日は落ち、街灯がパッと点灯した。
「お父さん今日帰ってこれるのかな?」
それを受けて呟いた清香の心配そうな声が清一の思考に弾力を与えた。
「アイツらは魔の者でも式神でもない――何者なんだろう?」
「たしか、オヤジに渡した俺が倒したゼリー状のヤツ――あれって透明人間のなりそこないなのか?」
「誰が何の目的で作り出してるのか? いや地震で封印が解けたって可能性も……」
「いやまて、そこらじゅうで一斉に封印が解けたのか? そんなバカな!」
「あと、オヤジと戦った緑鬼もよくわからねぇ。あれは透明人間とはカンケーねぇしな」
テレビのある居間でゴロンと横になると疲れからか睡魔が襲ってきてそのまま眠りに落ちていった。




