清之進VS緑鬼
「清一、アンタ、手、庇ってるけど怪我でもしたの?」
夕食中、躊躇しながら茶碗を持つ姿に姉が目敏く気付き言葉をかけてきた。
「あ、ああ、チョット……ね」
「いいから見せなさい」
誤魔化す清一に何かを感じた清香は強引に手を引っ張り手を引き寄せた。
「いてぇ」
「あっゴメン」
清香はもっと軽い傷かと思ったのか、驚きつつ頭を下げた。
「清一、手を開いて」
清之進と清香が清一の手のひらを覗き込む。
「すごい火傷。アンタどうしたの?」
「実は……」
清一は昼間にジュヌを追い込んでいた魔物との戦いの事を話した。
「アンタ……何考えてんの? 無茶しすぎよ!」
「清香そう言うな。確かにヒドイ状況だ……明日は学校を休んで病院に行ってきなさい」
清之進はそう言いつつ清一の手に触れる。
「これで少しは楽になるはずだ」
掌がまあるい光に包まれると爽やかな感覚が手を撫で、徐々に光が消滅していった。
「おわっ、スゲエ」
清一の重度の火傷をしていた手は、父親の回復の法力で水ぶくれも縮小し、赤や白に変色していた皮膚もいくぶん肌色に戻った。
「お前の知っている通り、回復には、過去の状態に戻す方法と、時間を進める方法がある。私が使えるのは時間を進める方法だ」
清一は頷く。その様子を見て清之進は話を続けた。
「時間を進めるの事により人間の細胞分裂の速度が加速度的に上がる。しかし細胞分裂は、たんぱく質や、鉄、葉酸、亜鉛などの栄養を必要とする。必要以上に回復をしてしまうと血中のそれらが飢餓に近いほどに不足し、下手をすると人体が持たずに死んでしまう」
「だからこそ、少しずつ回復させてゆく必要がある。薬を塗って痛みを散らせたり、少しでも回復の助けになるようなら使用した方がよいと私は思う」
そう言って清之進は包帯を巻き始めた。
「オヤジ、ありがとう」
清香も部屋に戻りすぐに戻った。
「清一、ほらサプリ。水汲むから待ってて」
台所の水道のレバーを押し、水をコップに注ぐと清一の前に置いた。
「ほら、飲みな」
「姉貴、すまない」
「いいって、気にしないで」
頭を下げる清一に姉は手を振って笑い飛ばす。
清一はサプリを口に含み、水で流し込むと自室に戻っていった。
食事を終えて部屋に戻ると布団の中で天井を眺めていた。
「ジュヌ大丈夫か?」
ジュヌは清一を見咎める「こうしてていいって言ったじゃないか」と拗ねた。
「ゴメン、夕食を食べてきたもんで」
と言って頭を掻く。
「ほら、スポーツドリング。まだ何も飲んでないだろう?」
手渡された手を見てジュヌは包帯に気付く。
「どうしたんだい、その包帯?」
驚きの声をあげるジュヌに清一は笑い「ちょっと法力失敗しただけだよ」と誤魔化す。
「ごめんね、清一。ボクのせいでケガまでして」
「そんなんじゃねぇから、気にすんなよ」
いつになく弱気なジュヌを心配させまいと気丈にふるまいニコっと笑いかけた。
「でも」
「ホント気にすんなって。俺はいつもジュヌに助けられているんだから、お互い様だぜ」
「清一……」
その時玄関から、清一あての清之進の声が聞こえてきた。
「何か呼んでる。ゴメン行ってくる」
「早く元気になってくれよ。ちゃんと飲み物採れよな」
「……うん」
玄関に向かうと、下駄箱の上に置いておいた桐の木箱が落下し落ちていた。
幸いなことにガムテープをグルグル巻きにしたおかげか箱は崩壊せず中身も異常なかった。
「清一がさっき言ってたのはこの箱だな」
清之進が持ち上げてコツコツと木箱を叩く。さすがの清之進も手に皮のグローブをはめていた。
「清香は魔狐を呼び出して玄関の側に立ち退路を塞ぐ。
清一の後ろにはいつの間にか氷織が佇んでいる。
「開けるぞ」
「ちょっと待って」
清一がランタンを持ってきて電気をつける。それを清香の横に置き元居た場所へと移動する。
「よし」
清之進がガムテープの封印を解いてゆくと、蓋が徐々に露になっていった。その木箱を床に置き蓋を取り外すと、入れた時と同じように干物状の物体が四つほど入っている。
「これは、当たり前だがスライムではないな。スライムなら熱を受けたら溶けているはず」
「ジュヌの息を止めて殺そうとしたところを見ると知能は無い訳ではない様だな」
清之進はそれを見て今ある情報を整理していった。
「お父さん、ではそれは?」
「よく分らんが、乾燥しているだけで生きているな。生命反応がある。恐らく水を浴びると息を吹き返すのだろう」
「クマムシみたいなもの?」
「乾燥した地方の草木にも似たようなものがある。清香の言ったクマムシもそうだがそういう生き物なのかもしれない」
大きい切れ端に浄化の法力を掛けると、それは段々と存在が薄くなってゆき物体として消えていった。
「ふむ、消えるか。面白いな」
清之進は二番目に大きい切れ端をも浄化し、小さい二つの切れ端をそのままに蓋をしてガムテープを巻いて封印した。
「知り合いに見せてみよう。何かわかるやもしれぬ」
清之進は下駄箱の上に木箱を置くと、動かないよう重石を乗せた。
「今日の地震のせいで、神社に知らずに封印されていた物の怪が解き放たれたのかもしれない、私が外を確認してくるので二人は部屋に戻っていなさい」
そういって子供たちを部屋に引き取らせた。
ガチャリ
ガラララ
トビラを開ける音が聞こえる。
「オヤジ、外に出たのかな」
清一は部屋で聞き耳を立ていざという時出れる準備を整えた。
清之進は氷織と共に本殿に足を進める。本殿の賽銭箱を背にして停止した。
「出てきなさい、魔の物よ。気配で分かるぞ」
清之進はお札を胸ポケットから取り出し刀を抜いた。
「まーいーい」
バンと力強く拝殿のトビラが開いたかと思うと、鬼が飛び出てきた。
清之進は、その突貫をひらりとかわし数枚お札を投げつけた。お札は徐々に速度を上げ、凄まじい勢いをもって鬼に向かってゆく。
「こんなもの」
鬼は緑色の身体に気合を入れお札を弾き飛ばす。
「いでよ金棒」
緑鬼は切り裂いた空間から金色の金棒を取り出す。それは昔話にあるような姿をしており棘が多量についている。
「フッ、上等。氷織、手を出すなよ」
「あいかわらずね」
氷織のつぶやきを笑いに変え清之進が緑鬼に向かって駆け抜ける。
清之進は腰の帯に持っていたお札を詰め込み刀を両手で持つ。
鬼はズシンという振動を響かせながら金棒で地面を激しく叩きつけると、金棒を遠心力で引き上げ肩に担ぐと清之進に向かって走り出した。
「もらった!」
鬼は金棒を垂直に振り下ろす。
清之進は左へ飛びそれを回避、回転し緑鬼の背後から一太刀を加える。
「よっと」
鬼は体を前のめりに倒し避けるも刃先が鬼の身体を削り薄い傷を与える。鬼は背中に手を回し傷を確認する。指先に少量の血がついた。
「やるねぇ」
鬼はニヤッと笑うと金棒を振り上げ野球のスウィングのように横薙ぎに振る。
清之進は後ろに軽く二度飛ぶと、その一撃をかわし前に向かって飛ぶ。
「お命頂戴」
清之進は刀を前に倒し緑鬼に突き出そうと試みた。
「うおおおおおお」
鬼は体をぐるりと回転させ、その勢いを利用しもう一回転金棒を振る。
「チッ」
清之進は金棒に足を向け、それを蹴って大飛翔で一撃を逃れた。
「オヤジ!」
清一が玄関から飛び出すと、氷織の右手に遮られた。
「清一、今は清之進があの鬼と一騎打ちをしています。手出しは無用です」
「しかし」
「今のあなたでは足手まといです。見ていなさい」
清一の目には二本の角を生やした鬼の姿とそれと戦う父の姿があった。
「コイツは驚いた!」
「ああ、コッチもな」
緑鬼と清之進は互いに驚き、次に楽しそうに顔を崩した。
鬼は金棒を肩に担ぎあげ、清之進も刀を中段に構え両者睨みあう。
清之進は帯にねじ込んであるお札を素早く出すと、鬼に向け素早く放つ。
「破」
お札は炎を纏い鬼に向かい飛翔した。それと同時に清之進も駆け出す。
鬼はお札を身体で受け止め、炎で焼かれるままに金棒を清之進向けて振り下ろす。
再び清之進はその一撃をかわし、空中でお札を投げつけた。
お札は風の力を宿し、鬼の目に砂粒手を喰らわす。
「グゥ」
「御免」
清之進は鬼の上段から切り下げ返す刀で突きを入れる。
「次こそは負けねぇからな」
緑鬼は不敵な笑いを清之進に投げると同時にその身体は土くれに帰っていった。




