約束のマンガ、買ったぞ
自転車をゆっくりと転がし学校と真逆の方の商店街へと向かう。
「本屋はこっちの方が大きかったはずだ」
初夏の風を浴びながら進む銀輪は心地よく、ジュヌの願いを叶える思いで心晴れやか、空の雲に時々太陽を遮られながら進む足取りは心持ち軽い。
「もうそろそろだな」
書店は商店街のアーケードの中にあり、自転車乗り入れ厳禁。
「ほいっと」
清一は自転車を降り押してアーケードに入ってゆく。それなら問題ないとの事だ。
商店街自体結構全長が長い。
「漕いでいければすぐなんだけどなぁ」
アーケードの中は自転車厳禁とするほど人通りは無く閑散としているところがまた苛立つ。
「ここも潰れたんだ」
昔、清一が幼いころ駄菓子を買いに来た店だ。
錆びたシャッターが下りており、その下には枯れ葉やほこりが詰まっている。
「あのばーさん元気かな?」
昔の記憶を呼び戻すと、人のいいおばあさんが子供たちを見てはニコニコと笑っていた。
「良く話しかけられたなぁ」
気を取り直し周囲を見回すと、意外とシャッターが下りている店が多い。
「今日休日ってわけじゃないだろうに」
商店街は学校とは方向が逆で、最近清一は訪れることがめっきり少なくなったので気付かなかった。
「潰れてなきゃイイケド」
自転車を押してお目当ての本屋の前に到着する。
「シャッター……降りてる」
嫌な予感が当たってしまった。
「仕方がない、学校の方に戻るか」
一度自宅に帰ってきて再び学校に戻るこの切なさ。
清一は覚悟を決め、学校の方へ漕ぎ出す。来る前に感じていた爽やかさは霧散しわずかながらの暑さを日差しから受け取りつつ進む。
「こんなことなら明日学校帰りに行くべきだった」
そんな愚痴を口にしつつ学校の近くの駅前の本屋に到着した。
さすがにここは駅も近く学生も多いのですぐには潰れないだろう。
そんな思いを抱きつつ店先を潜る。
(マンガは確か二階だったな)
足を踏み鳴らし階段を上がっていくとお目当てのマンガコーナーが目に入る。
「さてと、題名なんだったっけ?」
「見れば思い出すだろう」
それはすぐに見つかった。
(まあ、マンガだし、いつも見ている顔だしな)
最新刊が平積みで置いてある。
「人気あるんかこれ」
一冊手に取る。
(値段はいくらだ)
本をひっくり返し背表紙にある値段を確認する。
(六百円位――まあそんなもんか)
「何巻まで出てんだ?」
再び本をひっくり返し表表紙を確認する。
「げっ十巻もでてるのか!?」
持っている本を平積みの山に戻し、視線を上に上げ本棚を見やる。本棚にはすべての巻が揃って詰め込まれている。
(どうしよっか。とりあえず何巻買おうか)
清一が少しばかり悩んでいると、横から一人の学生が手を伸ばす。
「あっ」
目の前にある先ほど戻した最新刊を手に取ると、そのままレジへ向かった。
「よう、最新刊買いに来たぜ」
「お前、ホントに好きだよな」
どうやら知り合いらしくレジ作業を行いながら会話を始めた。
「ああ、好きだよ、文句あるか?」
「あはは、ジュヌヴィエーヴ可愛いもんな」
「そうそう、素直になれない所がいいよな」
「男として育てられているから恋愛も苦手で、それで意地張って」
「そうそう」
(ジュヌって人気のキャラなのか?)
「じゃあな、頑張れよ」
「おう、また明日」
学生の方が買い物を終え帰っていく。
清一は先ほどとは違う意味で悩んでいた。
(メチャクチャ買いずらい)
今行くと確実に『コイツ会話聞いてたな』って面されるんだろうな」
前に買い物していた学生はうちと同じ学校の生徒だった。
(あいつも同じ学校の生徒の可能性がある!)
そんなこんなしていると事態が急に動いた。
「ちょっとこっちの整理頼んでもいいかな」
女性の店員が階段を上がってきて男性の店員に声をかける。
「力仕事だから、学生さんたのんだよ。レジは私がやるから」
「わかりました、今行きます」
そう言って男性の店員は階段を降りていった。
(チャンス到来!)
何冊買おうか清一は悩むも、男性店員が戻って来る可能性を考えるとグズグズしていられない。
「三冊――えーい五冊いったれ」
清一は一巻から五巻までをわしづかみにするとそのままレジへ向かう。
「ありがとうございました」
女性の店員はにこやかに本の入った袋を渡してきた。
(ひょっとして罠だった? それともアシスト?)
少しばかり疑心暗鬼になった。
家に帰ると、机の上に五冊のマンガを置いた。
夕日に照らされ、ジュヌたちがオレンジ色に彩られる。
「……」
さっきの学生たちの会話を思い出す。
「お前、人気者だったんだな」
清一はジュヌのフィギュアに話しかける。
フィギュアはまるで「そうだよ」と言っているように微笑んでいた。
「人気だからフィギュアが作られたんだよな。人気なきゃ売れねぇもんなぁ」
清一はぼんやりとあの盛り上がっていた二人が式神とはいえ動くジュヌと一緒にいるって知ったら嫉妬するのかなぁなどと考えていた。




