ジュヌとの約束
「――兄!? さっきの男が?」
清一は先ほどの戦いを思い出し複雑な表情を浮かべる。
「そのような顔はしないで欲しい。私の兄なのだから」
「まあ、考えてみたらエイムズともやりあっているし、兄弟似た者同士なのかもな」
一人納得し話を切り出す。
「その兄貴がこの学校に何の用なんだ?」
「それは……」
少しばかり言いずらそうに口ごもる。
キーンコーンカーンコーン
「チャイムだ、悪いが先に戻るぜ」
「ああ」
清一は部屋を出ようとトビラへと向かう。
「幽霊の痕跡を調べに来た事はともかく、私の仇をも討ちに来たなどとはさすがに言えんよな」
エイムズはため息交じりに呟いた。
「ヤバい、中条が来る!」
加藤は近くに放置してあるダンボールを被り息を殺した。
(何で俺隠れているんだろう)
加藤は疑問に思いつつ隠れ続けた。
ガラララ
清一は加藤に気付くことなく教室へ向かい歩き出した。
しばらくたった後、エイムズも教室へと歩みを進めた。
「プハー」
加藤はダンボールから抜け出し部屋の中および周りを確認する。
「夢じゃねえよな……」
右手で頬をつねってみる。
「やっぱし、イテェよなぁ」
加藤は夢見顔で立ち上がり、ふらふらと教室へ帰っていった。
「で、この言葉はここにかかり……」
ガララララ
「加藤、何しとった!」
「スミマセン、お腹が痛く下痢でトイレから動けなかったんですぅ~」
加藤は演技臭い歩き方で、自分の席まで移動する。
「へへへ、すんまへん」
「早く教科書を開け」
「はい、直ぐに」
「アイツ、なにやってんだか」
清一はガサゴソと机を漁る加藤に呆れた視線を向けた。
キーンコーンカーンコーン
午後の眠い授業が終わり教師が出て行くと、入れ替わりに担任が入ってきてホームルームの時間に変わる。
(さてさて、今日もおしまいだな)
「では、また明日」
担任の声と共にホームルームが終わると、各生徒がやがやと帰る者、友達と話す者、部活に行く者など各自目的に向かって動き出した。
「よお、どーした」
清一は笑いながら加藤に声をかけた。
ビク
「おお、中条か。ビックらこいたぞ」
加藤は引きつった笑いを浮かべる。
「なんだ、ホントに下痢なのか?」
「な、なんだよ」
「いや、ああいうゲームやってたからなぁ、てっきり前の方かと……」
「そ、そんなんじゃねえよ。さすがにガッコでそれはやらねぇよ。やってたらヤベーやつだよ」
「はは、そうだな、加藤はヤベーやつだったよなぁ」
「だからやってねぇっつうの!」
加藤は真っ赤に顔を染め上げ否定を繰り返す。
「わーたわーた、そう言う事にしとく」
「だから違うってーの」
必死に否定する加藤を横目に、清一はにこやかに学校を後にする。
自室の机にジュヌをカバンを床に置く。
「さてと、着替えるか」
制服を脱ぎ、ハンガーに吊るすと、タンスを開け着る服を出す。
出した服に着替え終えると、ふと机の上を見る。
ジュヌが笑った顔で鎮座している。
昨日の廃工場の事を思い出す。
胸の前に開いた左手を出しぼうっと眺める。
(具現化している時は、やわらかいんだよなぁ)
清一は一人赤面し、頭をしきりと掻いた。
「でも、昼間にジュヌを出した時は何も反応なかったよなぁ」
「ジュヌは気にしていないんだろうなぁ。そりゃそうだよな」
ジュヌの事を考えている内にその言葉を思い出した。
「ボクは太田さんに具現化されたフィギュアなんだ。ボクは銃士というマンガのキャラなんだよ!」
「そうなの、なら今度読んでみてよ」
「――清一さん、さっき知らないって言っていたよね? ホント読んでくれよ。面白いんだから」
「ち・が・う! キミはちゃんとマンガ読んだのかい? 読んでいないだろう」
清一は財布をポケットにねじり込み、家と自転車の鍵を引っ掴むとジュヌのフィギュアに背中を見せた。
「本屋に行くか。古本でいいかな?」
「ボクは持っていないよ。買っておくれよ」
ジュヌの期待一杯の言葉が頭をよぎる。
「新品にするか」
清一は自転車に跨り、駅前に向け漕ぎ出した。




