エイムズと謎の男
数センチ空けた隙間から見えたものは、エイムズの横顔。その唇から何者かと話していることが伺えた。
(誰と何を話している?)
清一はしばらく息を殺し中の様子を伺う。
「……」
「……」
(聞こえねぇな)
その時だった。
ガララララ
突然、死角からトビラが開け放たれる。
清一がとっさに視線を上げると、冷たい視線で見下ろす男の姿。後ろではエイムズが驚いて声をあげていた。
その外見は端正な顔に蔑んだ微笑を乗せこちらを見ていた。
清一はすくっと立ち上がり、不良がやるような顔を微妙に傾け目を細めて相手を威嚇する顔を意図的に作った。
「お前、誰だ? この学校のモンじゃないだろう」
男は制服やスーツではなく歴史の教科書に出てくるようなヨーロッパの貴族のような恰好をしている。
「おい、お前がその人形に悪霊を入れたのか?」
エイムズが吼える。
「ナカジョウ! 何を言っている。そんなわけないだろう」
「フッ」
男は鼻で笑う。清一より身長が高い分だけ目線が下がり、ただそれだけでも男が清一を下に見ているような感じを受けた。清一はチラリと以前壊した人体模型に向けすぐに男に戻す。何癖に近い事は自分自身がわかっている、だがこの男が普通ではないことは今行っているエイムズとのやりとりで分かる。この男の方が上位だ。
「はて、なんのことやら」
小ばかにした感情を言葉に乗せ口を動かす男に清一はヒートアップし胸倉を掴もうと手を伸ばす。
サッ
「えっ」
男は流れるように後ろに下がる。清一の手が空を切った。
「なんだ!? 浮いてるのか?」
清一はその動きに不気味な何かを感じてちょっとした恐怖心と大いなる勇気が湧いてきて臨戦態勢を整え相対した。
「もう一度聞く、お前は何者だ? ここは関係者以外立ち入り禁止だぜ」
「ナカジョ……」
何か言おうとするエイムズを手で制し、呪文を唱え始めた。途端に手の周りに炎が纏わりついてクルクルと回りだす。まるで原子の周りをまわる分子のようだ。
「やんのか!」
清一は先手必勝とばかりに氷の術を唱える。
「銀雪散桜」
花弁のような雪の吹雪は男の前で散るように溶け、水蒸気へと変化し空中へと消えた。
「月影水明」
男の足元に月をかたどった水影が現れ、波紋が出来たかと思うと一気に水が吹きあがった。
「チッ」
男は舌打ちし炎の分子たちを飛ばしてきた。
清一はそれらを素早くかわすと再度氷の術を唱えた。
男の周りの水が凍り、整った顔に傷をつけた。
「やるねぇ、もっと弱いかと思ったよ」
濡れた黄金色の髪が凍り、時折反射する光がキラキラと存在を主張している。
「上等!」
清一も拳を鳴らし迎撃準備完了を誇示した。
「キャーーー」
エイムズの悲鳴が上がると、二人の視線がそちらに吸い寄せられる。
「前にやったはずだが……」
片腕をもがれ、身体が半分崩壊した人体模型が、残った手でエイムズの喉を掴み天高く持ち上げていた。
「う……ぐう」
呼吸が止まっているようで、手足をばたつかせ必死に抗っている。
「とりあえず、先にあっちだ」
清一は一方的に宣言すると、模型に向け走り出した。
「フン」
男は詠唱を終わらせると、エアカッターの魔法を使う。
駆ける清一の横をすり抜け模型の手を根元から切り落とす。
「アブねぇ、落ちる!」
清一はサッカーのスライディングの要領で自身を滑らせ、落下するエイムズ下に体を入れる。
「ゲホゲホ」
「うっ」
間一髪間に合ったものの、清一のお腹の上にエイムズが落下してきた事でしばらくもん絶した。エイムズは呼吸を取り戻したはいいが長く気管を塞がれていたため、呼吸の躍動が荒く乱れて整えるにはしばらく時を要するだろう。
その間にも、男は二発目の魔法を模型に叩き込み、四散し沈んでいった。
「エイムズ、私は帰る」
その声を最後に男の気配が消え失せて静寂が残った。
「あの男」
「ゲホゲホ、清一、ゲホどうした」
「詰めが甘めぇ」
四散した人体模型が乗り移ったのだろうか、前回倒したバキバキの二体目の人体模型が再び動き出した。
「ジュヌ!」
印と術を施しジュヌを具現化すると、清一はどうにか立ち上がる。
「あれ、アイツまた出たの?」
ジュヌの疑問に答える間もなく模型が襲い掛かってきた。
「清一、行くよ」
「おう」
「エクスプロジオン」
「焔風花」
二人の術が模型に吸い込まれる。
「やったか!」
「まだだよ」
エイムズが模型に向け手を伸ばし詠唱を始める。
「ファイヤー」
「お、おい、なんだあれ」
加藤は声を失う。
それくらい衝撃的だった。
どうやらこのXRメガネ、この世のものではないものが写っているようだ。
なぜならば、清一とエイムズがもう一人の仲間と妙な力を出して戦っている様子が見えているのだから。
「まちがいねぇよな。当たるタイミングや避けるタイミングがバッチリだもんな!」
人体模型が怯みを見せると、清一は突進し回し蹴りを喰らわす。
模型の首が飛び、床にコロコロと転げた。その目玉はクルクルと瞳孔がグルグルと旋回し、しまいには白目になり活動を止める。
「今度こそやったか?」
「だね」
「すまない……助かった」
エイムズが礼を言うと、清一とジュヌは気にするなとばかりに笑った。
「ところで、聞きたいことがあるんだけど」
清一の言葉に、エイムズは一息置いてゆっくりと、かみしめるように話し出した。
「ナカジョウが聞きたいのは兄の事だろう」




